ひとしきり二人は敵と激しく剣を交えた後、さらに湧き出してくる敵兵たちと睨み合いながら、背中合わせの体勢で口早に言葉を交わし合った。
「ロレンソ、すまなかった。
あの時、屋上階で、マルセラがアレッチェにひどい目に合わされているのに、俺は、何もできなくて……」
アンドレスは、ずっと胸につかえていたことを苦し気に口にした。
「いや、そなたのせいではない。
わたしも、あの時、砦の麓に布陣していたものの、怒りに我を忘れ、すんでのところで、兵を率いて砦の射程内に飛び込むところであった。
トゥパク・アマル様が止めに来てくれていなければ、今頃は、わたしも、大勢の兵たちも、どうなっていたか分からない。
今思えば、全ては、アレッチェの計算ずくの挑発だったのだ」
そう語るロレンソの肩が、あの時の光景を思い出しているのであろう、激しい憤りに震えるのを己の背中で感じ取りながら、アンドレスも居た堪れぬ思いで唇を噛み締めた。
アンドレスは、胸詰まる思いを振り払うようにして、つとめて明るい声音で背後のロレンソに語りかける。
「だけど、マルセラは、すごいぞ!
俺たちの力なんかに頼らずとも、自分で、敵の手中から脱出をはかったんだ。
今は、この砦の別の場所で、仲間たちと果敢に戦っている」
【登場人物のご紹介】 ☆その他の登場人物はこちらです☆
≪トゥパク・アマル≫(インカ軍)
反乱の中心に立つ、インカ軍(反乱軍)の総指揮官。
インカ皇帝末裔であり、植民地下にありながらも、民からは「インカ(皇帝)」と称され、敬愛される。
インカ帝国征服直後に、スペイン王により処刑されたインカ皇帝フェリペ・トゥパク・アマル(トゥパク・アマル1世)から数えて6代目にあたる、インカ皇帝の直系の子孫。
「トゥパク・アマル」とは、インカのケチュア語で「(高貴なる)炎の竜」の意味。
清廉高潔な人物。漆黒長髪の精悍な美男子(史実どおり)。
≪アンドレス≫(インカ軍)
トゥパク・アマルの甥で、インカ皇族の青年。
若くして剣術の達人であり、若くしてインカ軍を統率する立場にある。
スペイン人神父の父とインカ皇族の母との間に生まれた。混血の美青年(史実どおり)。
ラ・プラタ副王領への遠征から帰還し、現在は、英国艦隊及びスペイン軍との決戦において、沿岸に布陣するトゥパク・アマルのインカ軍主力部隊にて副指揮官を務める。
≪ロレンソ≫(インカ軍)
アンドレスが学生時代を過ごしたクスコ神学校時代の朋友。生粋のインカ族。
反乱幕開けと共に、インカ軍に参戦した。
アンドレスに比して大人びた風貌と冷静な性格を有し、公私に渡ってアンドレスを助けてきた。
≪マルセラ≫(インカ軍)
トゥパク・アマルの最も傍近い護衛官である重臣ビルカパサの姪。
アンドレスやロレンソと同年代の年若い女性だが、青年のように闊達で勇敢な武人。
女性ながらもインカ軍をまとめる連隊長の一人で、ロレンソの恋人でもある。
砦の敵中に囚われ捕虜の身となっていたが、脱出をはかった。
≪ホセ・アントニオ・アレッチェ≫(スペイン軍)
植民地ペルーの行政を監督するためにスペインから派遣されたエリート高官(全権植民地巡察官)で、植民地支配における多大な権力を有する。
ペルー副王領の反乱軍討伐隊(スペイン王党軍)総指揮官として、反乱鎮圧の総責任者をつとめる。
有能だが、プライドが高く、偏見の強い冷酷無比な人物。
名実共に、トゥパク・アマルの宿敵である。
◆◇◆◇◆ホームページ(本館)へのご案内◆◇◆◇◆
◆◇◆はじめて、または、久々の読者様へ◆◇◆
目次 現在のストーリーの概略はこちら HPの現在連載シーンはこちら
★いつも温かく応援してくださいまして、本当にありがとうございます!
(1日1回有効) (1日1回有効)