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カテゴリ:刑法
刑法平成19年第2問
【問題】 甲は,交番で勤務する警察官Xに恨みを抱いていたことから,Xを困らせるため,Xが仕事で使っている物を交番から持ち出し,仕事に支障を生じさせようと考えた。そこで,甲は,Xが勤務する交番に行き,制帽を脱いで業務日誌を書いているXに対し,「そこの道で交通事故があって人が倒れています。」とうそを言った。これを信じたXは,制帽と業務日誌を机の上に置いたまま,事故現場に急行するため慌てて交番から出て行ったので,甲は,翌日まで自宅に隠しておいた後返還するつもりで,交番内からXの制帽と業務日誌を持ち出し,自宅に持ち帰った。 その日の夜,甲は,知人の乙と会い,「警察官を困らせるために交番から制帽と業務日誌を持ち出してきたが,もういいから,明日こっそり交番に返しておいてくれ。」と言ったところ,乙が,甲に対し,「警察官の制帽なら高く売れるよ。」と言ったので,甲は,業務日誌だけを乙に渡し,制帽については,Xに返すのをやめ,後に売るために自宅に保管しておくことにした。翌日,乙は,この業務日誌を持って交番に向かったが,その途中,このまま返すのが惜しくなり,この機会にXに金を出させようと思った。そこで,乙は,交番に着くと,Xに対し,「この業務日誌を拾った。マスコミに持って行かれたら困るだろう。10万円出せば返してやる。」と言ったが,Xは,これに応じなかった。 甲及び乙の罪責を論ぜよ(ただし,特別法違反の点は除く。)。 【答案】 甲 の 罪 責 一 甲がXにうそを申し向け、Xの制帽と業務日誌を持ち帰った行為 1 同行為は、うそを手段としており、「暴行又は脅迫」を手段としないので、公務執行妨害罪(95条1項)は成立しない。 2 では、偽計業務妨害罪(233条)は成立するか。警察官の公務のような権力的公務も「業務」(233条)に含まれるかを検討する。 同罪の保護法益は、人がその社会的地位に基づき反覆継続的に行う「業務」の円滑に求められる。警察官の公務も、警察官という社会的地位に基づき反覆継続的に行う「業務」といえる。かく解することで、強制力を行使する公務であっても、偽計を排除して自ら守ることはできないから、同罪によって保護できることになる。 したがって、Xの公務は「業務」にあたる。そして、甲はXの制帽と業務日誌を持ち帰ることによりxの「業務を妨害した」といえる。 以上より、偽計業務妨害罪が成立する。 3 次に、窃盗罪(235条)が成立するか。 Xの制帽と業務日誌は「他人の財物」にあたる。そして、持ち帰ることにより、Xの占有を侵害して自己の占有に移転したから、「窃取」にあたる。ここで、甲は翌日返還する意思であったが、まる1日占有していれば客観的に可罰的な占有侵害が認められる。 では、窃盗罪の成立に主観的超過要素としての「不法領得の意思」が必要か。必要とすればその内容をいかに解すべきかを検討する。 思うに、不可罰的な使用窃盗、毀棄隠匿罪との区別から、「不法領得の意思」が必要である。そして、その内容は、(1)権利者を排除する意思、(2)その物の経済的用法にしたがって利用処分する意思、と解される。 甲は翌日返還する意思であったが、翌日まで保管するつもりであったのだから、(1)Xを排除する意思が認められる。しかし、Xに対する恨みからXを困らせる意思であったのだから、(2)が認められない。したがって、「不法領得の意思」を欠く。 以上より、窃盗罪は成立しない。 4 Xの制帽と業務日誌を持ち帰って隠匿した行為は、物の効用を害する一切の行為である「損壊」にあたり、隠匿罪(261条)が成立する。 二 甲がXの制帽を後に売るために自宅に保管した行為 Xの制帽は「占有を離れた他人の物」(254条)にあたる。そして、後に売るために保管する行為は、不法領得の意思の発現行為である「横領」にあたる。 よって、占有離脱物横領罪が成立する。 三 まとめ 以上より、甲には、(1)偽計業務妨害罪(233条)、(2)隠匿罪(261条)、(3)占有離脱物横領罪(254条)が成立する。(1)と(2)は、「一個の行為が二個以上の罪名に触れ」る場合であるから観念的競合(54条前段)となり、これと(3)が併合罪(45条前段)となる。 乙 の 罪 責 一 乙が、Xに制帽を返すことを依頼する甲に「警察官の制帽なら高く売れるよ。」と申し向けた行為は、占有離脱物横領罪を実行する決意を生じさせる「教唆」(61条1項)にあたる。その結果、甲は制帽を自宅に保管することにしたのだから、「犯罪を実行させた」といえる。 よって、占有離脱物横領罪の教唆犯(61条1項、254条)が成立する。 二 次に、Xに対し「この業務日誌を拾った。マスコミに持って行かれたら困るだろう。10万円出せば返してやる。」と申し向けた行為は、害悪を告知する脅迫により金銭を交付させようとしたのだから、「恐喝」にあたる。これに対し、Xは応じなかったので、未遂に留まる。 よって、恐喝罪の未遂犯(250条、249条1項)が成立する。 三 まとめ 以上より、乙には、占有離脱物横領罪の教唆犯(61条1項、254条)、恐喝罪の未遂犯(250条、249条1項)が成立する。両罪は、併合罪(45条前段)となる。以上(63行、54分) [コメント] 0930~40、44~53構成(19分)、~1020(28行)~38(46行)~47(63行、了) 遊んで作ってるんじゃないかといわれている問題。 窃盗罪を成立させてもよかったが、乙のそそのかしを問題にしにくくなるので、美しくないと思いました。理由はたんに男の美学です 甲で隠匿罪を成立させたのは、業務日誌にかんしては公用文書隠匿罪(258条毀棄等)でしたね 甲の罪数処理は、「まよったら併合罪」でもよかったのですが、観念的競合がすなおで減点もないかなと思いました。 時間がかかったのは、もっと条文かっこ書きを減らせばよかったです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2007.07.19 16:39:27
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