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2008年03月20日
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カテゴリ:楽園に吼える豹
部屋の中は誰もいない。

微かに乱れたベッドだけが、ここに人がいたことをかろうじて知らせてくれている。
藤堂はまだ戻っていないようだった。

アスカはゴウシが勧めた椅子に腰掛ける。


「…あの、さ」


このあと訓練に出なければならないことを考えると、あまりゆっくりしてもいられない。
アスカは単刀直入に切り出した。


「藤堂のことで…知ってることがあったら、教えて欲しいんだけど」


ピクリとゴウシの眉が動く。


「藤堂さんのこと?」

「具体的には……あいつの過去のこと」


思ったよりも早かったな、とゴウシは内心唸った。

いずれ、アスカがそのことを気にし出すだろうとは思っていたが、それにしても早い。
藤堂との間に何かあったのだろうか。

ゴウシはゆっくりと息を吐き出した。


「知ってるには知ってる……が、何でそんなことを知りたいんだ?」


掴んだ。糸口を。
ダメ元で訊いた甲斐があった。


「あいつ、言ってたんだ…“復讐が、今まで自分を生かしてきた”って。本人は覚えてないかもしれないけど。
それって、復讐が生きがいだってことだよな? あたし…イヤなんだ、そういうの」

「止めたいのか?」

「……うん」


そのためには理由を知る必要がある。
理由もわからず復讐は駄目だと諭したところで、議論が上滑りするだけだと思うからだ。

ここまで来たか―――ゴウシはそんな感想を持った。

自分はこうなるのを待っていたような気がする。
いや、待っていたのだ。

アスカが藤堂を助けたいと望むその時を。
自分では救えなかった甥を、闇の中から助け出すその瞬間を。

ふと思った。
自分も、倫理を踏み越えてアスカを実験台にしようとするあの科学者たちと同じように、彼女を利用しようとしているのではないかと。

お笑い種だ。
人間など、個人間でそう大差のない生き物なのだ。


「―――わかった。話そう」









つづく


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最終更新日  2008年03月26日 18時42分05秒
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