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カテゴリ:小説 江戸珍臭奇談 貸し便お菊
江戸珍臭奇譚13 貸し便お菊 3
![]() 覚悟しろ、ちん斬りのお吉でぃ、 お菊が駿河屋甚右衛門のところへ嫁いで一年もしないうちに、どえらいことがおきてしまったのだ。 お菊の弟の直次郎が深川の芸者のお吉に男の股間を斬られるという前代未聞の不祥事を起こしてまったのだ。痛いなんてものではなかった。そらあそうだけど、、 瓦版屋は~チン斬りのお吉でぃ~と、ばかりにこの事件に飛びついいて、 ~深川芸者のお吉が鬼瓦組の旗本の腐った股間を切り捨てた!~ と、面白おかしく書きたてたものだから、江戸中の者が知ることになり、当然のことながら、江戸城内でも噂にのぼり、旗本梶井家は大いに笑われた。 梶井家の次男の直次郎は長男の覚之助より、頭も切れ、剣術も優れ、何より色男であったのだが、悲しいかな旗本の次男坊に産まれたのが運の尽き。家督を継げるわけでもなく、明日への道筋が見えぬまま、悶々とした生活を過ごすうちに、お決まりのように愚れて、旗本の次男三男が群れる鬼瓦組という狼藉者の仲間に入り、町を徘徊しては悪さをしていたのだ。どうしてお吉という女と揉めて、股間を斬られたのかは定かではないが、その話は尾鰭をつけて江戸中を駆け巡った。 梶井直次郎はいたたまれなくなって出奔し、無宿者になってどこへ姿をくらましたのか、生き方知れずのままだし、父の梶井文左衛門はそれを苦にしたのか、脳卒中で倒れ、体が不自由な、よいよいになってしまった。 家督は兄の梶井覚之助に引き継げたものの、賄い方の番頭のお役目からは外され、小普請組に入れられた。無役同然の身であった。 駿河屋のお茶を江戸城御用達にして貰うのが、お菊と所帯をもった目的だった駿河屋甚右衛門は、目算外れになった途端、お菊にさらに冷たくあたり、じめじめした北側の部屋をお菊にあてがい、下女と一緒に朝から晩まで、お茶の選別をやらされた。 おかみさんどころではない、ただの下働きの女中同然の扱いだった。 みじめな奥方様、じっと耐えるだけの生活がお菊には続いていた。 つづく 朽木一空 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2019年10月05日 09時47分58秒
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