|
カテゴリ:小説 将棋指し、座頭の飛吉
将棋指し、座頭の飛吉6 暴れ飛車角親子対決 ~肩で風きる 王将よりも 俺は持ちたい 歩のこころ 勝った負けたと 騒いじゃいるが 歩のない将棋は負け将棋 世間歩がなきゃ なりたたぬ、~ 歩、北島三郎 「奉行様、飛吉は将棋検校などと煽てられ、賭け将棋に明け暮れる不届きな奴にございます。 捨駒の角蔵は、川向こうの本所深川での鬼熊の百蔵の賭場で賭け将棋をし、 銭を捲き上げております。 それだけじゃございませぬ、賭け将棋の風潮は江戸の町に広がり、 この頃じゃ、賭け将棋が町民の間でも流行り、 縁台将棋も、湯屋の二階の将棋も、両国、浅草の広小路や 神社の中では賭け将棋大会が日毎行われている始末でございます。 なんとか灸をすえねばなりませぬ。 ~賭け将棋いたし者江戸払いに処する~ とでも、触れを出しましょうか、」 同心日下部栄五郎の諫言に、遠山金四郎、目を瞑って一考したあと、 「よしっ、その捨駒の角蔵と、将棋検校飛吉を捕縛して白州に連れて参れ、」 北町奉行所の御白州には 将棋盤を真ん中に挟んで、二枚の莚が敷かれ、 右に捨駒の角蔵、左に将棋検校飛吉が座っていた。 遠山金四郎がお出ましになり、与力目付も同席し、 罪人を吟味し、裁定を下す時と同じ構えであった。 「さて、両名の者、ご法度の賭け将棋を繰り返し、 江戸の町の風紀を乱すことはなはだ遺憾である。 厳しい沙汰を与えるところではあるが、 その前にどちらが強いのか勝負をいたせ、 将軍御前ではお城将棋だが、奉行所では白州将棋じゃ、 角蔵と飛吉、暴れ飛車角の戦いじゃな、、」 「で、お奉行、何を賭けるのでござりましょうか、、」 「将棋に命を懸けている捨駒の角蔵なら命を懸けたらどうじゃ、、」 「異存ござらぬ、」 「では、勝負はじめ、、」 飛吉が古い木綿の巾着から将棋の駒を出し、将棋盤の上に並べた。 その駒を手にして角蔵は、はっとして、飛吉の顔をまじまじと見つめた。 「飛吉どの、この将棋の駒はどこで手に入れたのじゃ。」 「父上からもらったものです。」 角蔵には飛吉が己が大川端に捨てた自分の子の駒吉であることが咄嗟にわかった。 「何をもたもたしている、早く勝負せい!」 遠山金四郎の声が白州に響いた。 先手飛吉六7歩、金吉が飛吉の一手目を呼びあげて、駒を動かした。 捨駒の角蔵歩を握った手がぶるぶると震え、両目から涙がぼろぼろと毀れ 将棋盤を濡らし始めた。 「参った!某(それがし)の負けである、、」と、莚に両手をついて頭を下げた。 奉行所の白州にいた面々は何が起きたのかと凍り付いていた。 遠山金四郎、じっと、角蔵と飛吉を見つめ、 「 角蔵よ、我が子を捨て、将棋名人になろうと人生を賭けたが破れ、 息子の駒吉を捨てた悔悟のつもりか、捨駒などと名乗り、賭け将棋と酒と女に溺れた暮らしをしておるようじゃな、 誰でもが将棋名人になれるのはわけではないのだ、 歩のない将棋は負け将棋 、世間歩がなきゃなりたたぬと、 将棋の歌にもあるじゃねえか、歩だっていつかは金になれる日もあるかもしれねえ、どうでい、勝った負けたばかりじゃねえ歩の人生を送らねえか、」 飛吉は捨駒の角蔵が父親であることにただ吃驚(びっくり)していた。 「捨駒の角蔵、裁定を言い渡すぞ、 その前に、江戸の町では今後、賭け将棋に関わった者は、手鎖の刑にいたす。 明日にも奉行所から触れを出す。 捨駒の角蔵も手鎖一年の刑じゃ、両手に輪っかを嵌められたんじゃ駒も持てめえ、もしも、その手で賭け将棋でもしてみろ、手首を切り落としてやるから覚悟しておけ、」 「あっしは、将棋の世界から足を洗います、お奉行様の言う通り、歩になって暮らします。 ところで、お奉行、飛吉の罰はどうなるんで、飛吉は目隠し将棋なんで、手鎖しても無駄じゃないですか、」 「そうよな、実はな、飛吉には加賀藩の殿様からな、藩の将棋指南役として仕えてくれと頼まれておるのだ。俸禄300石の武士の身分で抱えるというのじゃがどうかな、 賭け将棋はもうできぬがな、どうじゃ、飛吉、いい話じゃねえか、」 飛吉は盤上の将棋の駒を巾着袋に仕舞いながら、 父である角蔵と奉行の遠山金四郎の目を見て答えた。 ~お引き受けいたします、~ 「そうか、これで、一件落着じゃ、ところでな、飛吉、 令和の国にはな、20歳そこそこで将棋の賞という賞をみな手に入れた 天才将棋師、藤井聡太という将棋指しがいるそうだが、 飛吉、勝負してみたくはねえか、無論賭け将棋じゃねえよ、はっはっはっ、」 追伸、天保13年、御前将棋で将棋名人の天野宗歩が お好み対局で加賀藩お抱えの盲目の将棋指しに負けたという巷説があった。 おしまい 朽木一空
お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023年10月01日 10時30分10秒
コメント(0) | コメントを書く
[小説 将棋指し、座頭の飛吉] カテゴリの最新記事
|