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カテゴリ:江戸の小咄でござんす
宿下がりにて候 4 ~ねえ、ご隠居、好いた同士は泣いても連れるなんていいますから、男と女は惚れあった者同士が所帯を持つというのが一番いいと思いますがねえ、、~ ~彦五郎は江戸の甘味噌だな、惚れた腫れたで所帯を持つなんてえのは、 裏長屋の貧乏者同士の話だよ、それだって、娘が年頃になれば、 岡場所とは言わねえが、店の奉公にやっていくばくかの銭を懐に入れるのが 親の余禄ってもんだ。 まして、武家や大店ともなれば、娘が玉の輿になれば、家にとっちゃ一大事だ。 武家や店の命運がかかっているといってもいいだろうな、 だからね、まあ武家や大店の娘の輿入れはみな所詮は政略結婚なんだよ、 娘の面相がいいだとか、器量のある男だとか、出戻りだとか、早漏だとか、そんなことは関係ないんだな 婚姻てえのは、親か親戚が決めるもの、当人の意向なんざ度外視されちまうんだよ、~ ~それじゃあ、恋も愛もねえじゃねえですか、可哀そうでござんすよ~ ~おいおい、彦五郎、愛だの恋だのという病気に罹って嫁入りしたんじゃ何の価値もありゃあしねえよ、 武家や商家の娘が嫁ぐのは家と家男とが結びつくことが目的なんだよ 徳川将軍のその前、戦国時代からその習わしが続いているんだよ。 55人もの子沢山の徳川家斉は子女の多くを大藩の大名に嫁がせつ継がせ血縁関係によって大名統制したのだからな、旗本や御家人の場合にも家格を守るためにも釣り合いが大事にして娘を嫁がせたのだよ、まあ、出世の道具でもあるんだよ、、~ ~信濃屋九兵衛もそんなことを考えてるんで、 与三郎とお玉が一緒になりたいといったら信濃屋九兵衛は火の玉が出るように怒ったといってましたよ、、~ ~そりゃあそうだ、お玉には武家奉公でたっぷり銭を使って 元手がかかってるんだ、かけた元手を倍にして返してもらうのが商人なのだよ~ ~そういえば、お玉が、大身旗本四千石の梶野弥左衛門に嫁ぐって話がもっぱら噂されてますよ、 もっとも、相手の梶野弥左衛門は前の奥方に借金漬けの暮らしに愛想をつかされ、 離縁された五十に手が届く方だと聞いてますがね、、~ ~梶野弥左衛門という旗本はね、江戸城大奥の勝手方に努める方なのだよ、 信濃屋九兵衛はその伝を使って、大奥に自分の店の味噌を売り込もうという魂胆だよ、借金漬けの旗本梶野弥左衛門は九兵衛の申し出た持参金三百両に目がくらみ、 信濃屋にとっては大奥御用達ともなれば、店に箔がつくというものだ、~ ~へえ、味噌屋の娘もまさに味噌まみれでございますね~ ~彦五郎、いいかいあ、惚れた腫れたで一緒になって ありもしねえ夫婦の愛なんてえものを求めているよりは、 のっけからなにも期待していない夫婦の方がうまくいくもんだよ、~ ~宿下がりも嬉しいことばかりではないようでございますな、、~ ~そう、親の方は娘が武家奉公でどの位に仕上がったか見定めるのが宿下がりで、 玉の輿先を思案しているのよ、、~ ~くわばらくわばら、、あっしは旗本の家に産まれなくてよかったでございますよ、~ おしまい 朽木一空
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最終更新日
2024年03月03日 10時30分08秒
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