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カテゴリ:橋番、木戸番、自身番、辻番噺
自身番 2 囲碁同心 自身番には町名主に雇われた自身番役がいたが、 火事の多い季節や、盗賊が多発している場合などは昼夜の自身番を命じられた。 夜は五人番昼は三人番で、家主や町内の顔役、若い衆などが当番で番屋に詰めていた。 だが、江戸の町は平和で、時代劇に出てくるような刀を振り回すような 事件はめったに起きず、天下泰平で、自身番は暇を持て余すことの方が多かったのだ。 往来は賑やかな雑踏だが、障子を閉めた番所の中は極めて閑を占め、 半鐘がじゃんじゃんと鳴らなければ。用なき暇人だったのだ。 多忙な定廻り同心もたいがいの自身番には声を掛けるだけで、 小休憩を兼ねて立ち寄り茶を飲み世間話をしながら情報を得る 自身番屋は決まっていたのだった。 他人のくる気配もない番屋では、手空きのまま時間潰しで一日が過ぎてゆく。 公儀では番屋に寄合って話すことは禁止、 当番の者も食事も番屋でなく各自の家ですると定めれていたのであるが、 自身番のなかには、定廻り同心の目を盗み さて、夕飯は蕎麦にしようか 鰻飯にしようか、 そのうちに隠れて忍び酒を呑む者もいたのだった。 自身番は奉行所からの町触や差紙(呼出状)を受け取り、 町内への通知や呼び出しを受けた者への送達、出生、死亡、勘当届や、 迷子、捨子、行倒れの世話などもし人別帳の届け出も行い、 町内の寄り合い所、相談所にもなっていた。 何かと人が集まることが多かったのである。 茶を飲ながらの雑談会、世間話をしているうちに、顔馴染みとなり、 自身番が暇をもてあそぶ隠居老人が群れるの慰み場になっていたのである。 そうなると、必然のように、趣味の話に花が咲き、 やがて、誰かが将棋盤を出し、囲碁番を出してくるのだ。 すると、その噂を聞きつけた将棋好き囲碁好きが 自身番に集まってくるのである。 板町の番屋には将棋好きが集い、山川町の番屋には黒白争いの囲碁好きが群れる、 芳町の番屋には黄表紙の本好きが集まっていた。 趣味好きの憩いの場所になっていた番所があったのだった。 自身番で使うお茶も薪も炭などの維持修繕費や 火消し用具などの備品費などの諸費用もすべて、町民の町入用で賄われていたのであるから、苦情が出たことも同然である。 ~板町の番所は将棋番所になっている~ ~富士町の番所では酒盛りをしていて三味の声が聞こえることさえある~ こんな訴えが奉行所に来るほど江戸の町は平和だったということか、 北町奉行定廻り同心日下部退蔵は奉行所に顔を出し、 ~本日は隠密の探索に出掛ける~ そう告げると、供の者も連れずに早々に江戸の町へ姿を消した。 山川町の囲碁番所と呼ばれている自身番屋へまっしぐらである。 番所の障子を開ける、 「おや、八丁堀の旦那お早いお着きで、、 須山のご隠居が碁盤の前で黒白の妙手を吟味しておりますぜ」 自身番役の権助がにやりと笑った。 日下部退蔵は囲碁に凝っていたのである。 奉行所の目を盗んでは密かに囲碁番所に足を運んでいたのであった。 朽木一空 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2024年03月12日 10時30分07秒
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