彼の夢と僕の夢~2~
ベントレー・コンチネンタル・スーパースポーツを何事もなくオーヴァーテイクしていくクルマは量産車では恐らく今のところ1台しかない。ブガッティ・ヴェイロンは量産車と呼ぶには微妙なのでこれは除く。このヴェイロンを除けばランボルギーニ・アヴェンタドールだけだろう。アヴェンタドールはベントレー・コンチネンタル・スーパースポーツに輪をかけて恐ろしいマシンだ。アウディというバックボーンがあってこそ実現した新世代のハルデックスカップリングを用いた最新のフルタイム4WD技術はもちろんのこと、アウディ傘下に入ってランボが革新したのは4WD車の軽量化技術である。6.5リッターの排気量を持つV12を搭載しているにも関わらず、カーボンやアルミなどを多用したボディはこのサイズながら1.6t程度に抑えられている。ランボにとってもはやフェラーリはパフォーマンス上の敵ではない。サーキットのアタック・ラップでは良い勝負になるコースもあるだろう。しかし、ワインディングや市街地、スノーロードなど一般道のあらゆるコンディション下で素晴らしい順応力や適応力を見せるスマート・スーパースポーツはランボであり、そのフラッグシップであるアヴェンタドールも例外ではない。まァ、このあたりをフェラーリが昨年だったかチクリとつついた。ランボルギーニを名指ししたわけではないが、フェラーリは最先端の軽量化技術で一昔前には考えられない軽量化を実現したランボとマクラーレンに対して牽制の意味合いを含めた発言を行っている。カーボンが疲労限界を迎えたときにどうなるかのデータがまだ充分ではないため、フェラーリでは積極的にカーボンやアルミなど異なる材質のものを市販車にふんだんに投入してまで軽量化することはしない、と言明したのである。僕はどちらの考え方も間違ってはいないと思っているので、この件に関して白黒つけるつもりはない。しかし、こういったコンストラクターやメーカーの主義主張に至るまで細部のディテイルを理解して乗ることがこのクラスのクルマのオーナーには要求されるから昨夜冒頭書いたように「F12に3,590万円投資するか?ベントレー・コンチネンタル・スーパースポーツに3,150万円投資するか?この領域になるとかなり明確な価値観や哲学、美学が購入の動機になる」という言葉につながっていくのである。さて、アヴェンタドールに話が逸れたが、もう一つだけアヴェンタドールの話題。アヴェンタドールは7速のISRという最新型のトランスミッションを有している。アヴェンタドールが最先端の4WDとして抜け出しているのはこのISRも強みの一つだが、これと比べるとベントレー・コンチネンタル・スーパースポーツのミッションは少々古さが否めないZF社製のクイックシフト6速オートマなのだ。スロットル踏みっぱなしでも走れるオートマ車でサイドウェイに持ち込み立ち上がってくるマシンなんです!!昨夜も書いたがベントレー・コンチネンタル・スーパースポーツの弱点は重すぎることだが、その堅牢なボディはこの馬力を受け止め、さらにサイドウェイさせようともヤレることはない。まさに剛健。フェラーリではこうはいかない。昔から比べればフェラーリのボディ剛性はかなり上がってきているが、いまだ物足りなさを感じずにはいられないシチュエイションはかなりある。昔はブッシュ類のメンテを怠ったりすると簡単にボディにクラックが入ってしまう個体さえあった。コンピュータによる解析を駆使できる時代が来たがフェラーリはこの部分だけはまだ不十分だ。ベントレーといえば紳士淑女のためのGTという位置づけやイメージが日本では先行していますが本来そのポジションにある王道はロールスロイスであって、ベントレーはルマンを始めとするサーキットで勝って自らの歴史を作ってきたスポーツカー・コンストラクターの色合いが強いと僕は思っています。いや、それがベントレーの真実です。なので、ベントレー・コンチネンタルのシリーズのラインナップからベストな1台を僕が選ぶなら必然的にベントレー・コンチネンタル・スーパースポーツになるワケです。ちなみに、35GT-Rや35GT-RスペックVでも鈴鹿や富士で同じことを試してみた。無論、35GT-Rでも出来るのだが何故かときめかない。やはり、オートマのベントレーをサイドウェイさせている!という刺激に勝るものはない。ただし、タイム的にはこの走りは決してよろしくないことは予め申し添える。タイムにこだわるなら徹頭徹尾グリップで無駄を削ぎ落とすのがベントレーでも定石だ。こいつは近年購入したマシンの中で抜群の文字通りスーパースポーツです。ドイツの血が混じって更に侮れなくなった。アヴェンタドールも良いが、今のところはこいつと徹底的に付き合っていこうと考えている。ショックやサスなどの足回りをどうしようか・・・とも考えているが、この手のクルマはノーマルの状態で極限まで使いこなしてナンボです。マンソリー仕様とか色んなサードパーティもありますが僕自身は正直あまり興味がありません。ベントレーはそもそもコンペティションで磨かれた技術でクルマを仕上げているのでノーマルの状態で極限までスポーツ・ドライヴィングを楽しみ尽くし、そのクルマとある種の涅槃にたどり着くまで徹底的に向き合う。共に涅槃に辿りついたら新しい刺激を求めて新しい車両を増車する。それが僕のポリシーです。かなり前置きが長くなってしまった。息子の初ベントレー・コンチネンタル・スーパースポーツ体験に話を戻そう。ルックスからは想像できないちょっと低めのW12のサウンドがアイドリングを始めると彼は「お~っつ!お~っつ!」と感嘆の声を上げる。他のエンジンの音域とは明らかに違うので彼はこのサウンドに高揚して(?)いる可能性もある。走り始めてから、本格的にという表現より凶暴なという表現の方が適切なトルクが立ち上がってくる3,000r.p.m前後になると彼は目を見開いて乗っている。しかしながら、4秒未満で0-100km/h加速を実現する瞬発力と強靭な加速力のなかでも彼は恐怖を感じているようには見えない。笑顔なのだ。むしろその先へいけ!とワクワクしながら楽しんでいるようにさえ感じる。いや、事実彼は楽しんでいる。終始、笑顔なのである。恐るべし・・・である。息子ながら恐ろしいと感じた瞬間だった。ワインディングとストリートでベントレー・コンチネンタル・スーパースポーツを楽しんだ彼は停車中のコクピットに座りたがった。いや、これは正確な表現ではない。ドライヴァーズ・シートに立った。ベントレー・コンチネンタル・スーパースポーツは意外とヒップ・ポイントが低く、まだ彼の身長ではスティアリング・ホイールよりも上にはいかず、フロント・ウィンドウから正面を見るにはシートの淵に立って乗るしかないので、ちょっとしたフラストレーションが溜まるらしい。要するに僕と同じポジションで乗りたい欲求があるらしい。そんな彼のために僕が色々と探し回り見つけたのが写真のこのクルマである。座面自体は低いがスティアリングを握ろうとすれば座るポイントが前に来るのでこれなら彼でも若干だが前が見える。彼はとても嬉しそうにスティアリングを切り、シフトレバーをカチりカチりと動かす。写真でも解るようにこれだけ細かく動く。とにかく僕と同じように操作したいという欲求が芽生えているらしい。ドライヴィング中の僕の動きを良く観察しているから何をどう操作すれば良いのかまで彼は充分に分かっている。ワイパーまで動かせるし、ターン・シグナルも出せる。しかも偶然操作できるのではなく、雨が降っている時にクルマに乗せるとワイパーを動かすのだ。その知能は一体どういう種類のものなのか僕には見当もつかない。彼の次の夢はおそらくベントレー・コンチネンタル・スーパースポーツを自分でドライヴィングすることなのではないかと思うが僕としてもそんな簡単にベントレーに乗せるわけにはいかない。まずはその前に35GT-Rの壁を越えてからの話だ。彼が35GT-Rをどう乗るのかが今から楽しみでならない。