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佐遊李葉  -さゆりば-

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2006年04月10日
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カテゴリ:露野
 あの若菜摘みの日、思いの届かぬ父のために、母は手篭に若紫を摘んだのだろう。そして、あの古い歌を思い浮かべたに違いない。


  みちのくの忍ぶもぢずり誰ゆゑに みだれそめにし我ならなくに

(奥州の信夫の里で作られるあのしのぶずりの乱れた模様のように、私の心が乱れはじめたのは、あなたの他の誰のせいだというのですか)


 胸に迫る父への愛と憎しみ、そして限りない悲しみを、母はその白い面輪の中に押し殺し、恨み言の文一つ父には差し出さぬまま、それから間もなく世を去った。母の遺品の中には、父の為に染められた紫染めの衣が残されていたと言う。父はその衣をどのような想いで受け取ったのだろうか。古びた館の中で、いつもうつむいて一人で書物を読んでいた無口な父から、私は母の名すら聞いたことがない。

 心をひた隠した母と心の中を表す事すら自らに禁じていた父の血を引いて生まれた私が、とっさに古歌を踏まえて詠んだあのしのぶずりの歌は、私が父に替わって詠んだ母への贖罪の歌だったのか……それとも、母の面影を宿すあの美しい人への、私の初めての恋の歌だったのだろうか。

 しのぶのみだれ限り知られず……。

 再び馬上に戻った私は、供の者に気づかれぬよう、そっと小声で呟いた。今頃、夕方の風が吹いて、柳の柔らかい枝が風にあおられ、私の衣の歌はあの姉妹の元に届いただろうか。

 私はふと恥ずかしくなって、馬に鞭をくれると、春日野の道を駈け抜けた。誰の歌とも知らないあの歌を、あの姉姫はどのように読んだのか。

 あれ以来、私はあの小道を通ったことはない。あの家が今もまだあるのか、あの姉妹がどうなったのか、私は知らない。

 だが、こうして初老の頃を迎えた今も、あの庭で咲いていた白い優雅な花を思い出す。

 柔らかな、大輪の、儚げな花を……。
                                    (終)





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最終更新日  2006年04月10日 13時15分29秒
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