|
カテゴリ:遠き波音
「最初は、兵衛佐様のご友人の一人でございました。兵衛佐様が上総へ旅立たれた後、時々様子を見てやってくれと頼まれたと言っていましたが、さてどうだか。大方、美女との評判が高かった吉祥様に、興味をそそられたのでしょう。時々到来物などを持ってくるようになって、だんだん無理に泊まって行くようになってしまったのですよ」
「そうか。その男がそなたらの面倒をみてくれるようになったのか?」 老尼は吐き出すようにぴしりと言った。 「あんなお方が何の頼りになりますものか。しばらく吉祥様と睦んで満足した後は、暮らしの面倒を見るのは真っ平とばかりに間遠になりました。それどころか、自分の代わりにと、別の友人を寄越したりする始末。でも……背に腹は替えられませぬ」 老尼は目じりの皺に溜まった涙を、古びた衣の袖で拭いながら続けた。 「それに、その頃には、吉祥様はすっかりあきらめたようになってしまわれましてね。元々、兵衛佐様とお別れになったことがずいぶんと堪えておいでだった上に、あんな風に他の殿方に弄ばれては。もう何もかも、どうでも良いように思われたのでしょうか。一日中、ほとんど口をおききにならなくなり、いつもぼんやりと庭先を眺めてばかり。そして、屋敷に食べ物がなくなると、わたくしに往来から誰かつれてくるようにとおっしゃるようになったのです」 ↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2014年02月25日 17時06分52秒
コメント(0) | コメントを書く |