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カテゴリ:羅刹
「不幸な目? それはどういうことだ」
老尼はしばらく黙っていた。だが、やがて胸の中にわだかまる重い記憶を吐き出そうとでもするように、吐息と共に再び口を開いた。 「当子様は二年余りを伊勢で過ごされ、父君三条帝の譲位に伴って帰京されました。その後、母后のご庇護の元、とある御所で一人住まいしておられたのですが」 老尼は急に言葉を止めた。そして、痩せた細い両手で顔を覆い、細い声を上げて泣き伏してしまった。 「わたくしが浅はかだったのです。わたくしがあんなことしなければ、当子様はあんな恐ろしく哀しい目にあわずにすんだはず。何もかもわたくしのせいでございます」 「何のことだ。詳しく話してくれ」 老尼は能季に詳しい話をしても良いものか、しばらく思案しているようだった。だが、やがて決心がついたらしい。 「わたくしが死ねば、本当のことは埋もれてしまう。当子様の御名誉とご供養のためにも、あなた様にすべてお話いたしましょう」 そう言うと、老尼は顔を上げて能季を見つめ、袖先で涙を拭って話し始めた。 ↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2015年01月05日 17時01分41秒
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