「当子様は大そうお美しい方だったとか」
「そう。私は当子様に直接お目にかかったことはないが、人の話によれば大そう可憐(かれん)な方だったそうだ。父の三条帝があれほど鍾愛(しょうあい)されたのも無理はないと、皆口を揃えてそう言う。道雅も、よほど当子様に深く想いをかけてしまったのだろう。それに、道雅は元々思い込みの激しい男でな。一度こうだと思ったら決して自分の考えを曲げないところがあった。その上、中関白家の御曹司(おんぞうし)として幼少から皆にこの上なく傅(かしず)かれて育てられたせいか、誰もが自分の希望を叶(かな)えてしかるべきだという根拠のない自信のようなものをいつも漲(みなぎら)らせておった。だから、たとえ尊い内親王であっても、当子様が自分のものになるのは当然だと、内心思い上がっていたのかもしれぬ」
「ところが、三条帝は激怒して、当子内親王様を道雅殿から引き離しておしまいになったのですね。それどころか、道雅殿を勘当(かんどう)して、何もかも取り上げてしまわれた」
「ああ。あの頃の道雅の荒れ様は、それは恐ろしいほどだった。外に出れば始終喧嘩沙汰(けんかざた)を起こし、屋敷に引き篭(こも)もれば荒れ狂って屋敷中の物を打ち壊すどころか、手当たり次第に女房や雑仕女どもを陵辱するといった有様での。誰も手をつけられなかったそうじゃ。そうかと思えば、毎夜毎夜、幽鬼のようにやつれた姿で、当子様のいる御所の周りを歩き回って」
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