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カテゴリ:羅刹
出迎えの女房の先導で、斉子女王は小八条第の東の対へ通された。
急なことでさぞかし手狭なことかと思いきや、対の屋の中は美々しく整えられ、特に御座所の豪華さは目を見張るばかりだった。 部屋中を覆い尽くす色鮮やかな大和絵の屏風に、細部にまで精緻(せいち)な螺鈿(らでん)の施された蒔絵(まきえ)の調度類。 さすがは派手好きの道雅だけのことはある。長年引き篭もっている病身の老人の住処(すみか)とは思えない華美さだ。 その中央の座の上に腰を下ろした斉子女王は、案内してきた女房へ細い雅な声で言った。 「明日は早朝のうちに嵯峨野まで参るゆえ、こちらは夜の明ける前に出立することになろう。少し休みたいから、気遣いはどうぞ無用に」 その声音には凛とした近づきがたい威厳があった。 院御所の奥深くで大切に育てられた、世慣れない深窓の姫君であるはずなのに、斉子女王は微塵(みじん)も気後れや緊張を感じさせない振る舞いで、能季がお願いした通りのことをすらすらと言ってのける。 能季は正直斉子女王をはじめてみるような思いだった。 ↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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