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カテゴリ:羅刹
「わたくしの住む小一条院に一人の老尼がおります。それは亡くなられた当子内親王様の乳母だったのだとか」
「あの乳母が、今は小一条院に」 「その者から、わたくしは何度も当子様の恋のお話を聞きました。内親王という尊い身分のために、恋しいお方と添うことができず、その悲しみからとうとう若くして亡くなられてしまったと。わたくしには、そのお話が何とも寂しく哀れなことに思われて。まるで自分のことのように、思わず涙してしまったこともございました」 それはどういうことだろう。 能季の胸は高鳴った。 道雅の顔からも、当惑はやがてきれいに消え去り、喜びの表情が露わになっている。 それに追い討ちを掛けるように、斉子女王は細く甘い声音で、道雅に囁いた。 「老尼がいうには、わたくしは当子様と姿形がよく似ているそうです。それで、当子様と過ごした昔を懐かしがって、わたくしが訪ねていくと大そう喜んでくれるのですよ。あなたが当子様へお奉げになったというお歌も、老尼から見せてもらったことがあります。とても素晴らしいお歌で、わたくしも胸を打たれました。何度も読み返し、今ではそらんじてしまったほどでございます。あの歌をお読みになった当子様も、さぞかし嬉しく思われたことでしょう」 「本当ですか。あの歌を、当子様がご覧になった。あのまま誰かに捨てられてしまったと思っていたのに」 ↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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