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カテゴリ:羅刹
怨霊は悲鳴のような声で叫んだ。
道雅は苦痛に身を捩(よじ)ったが、それでも俯(うつむ)いたままうめき声一つ上げなかった。 それどころか、炎に身を焼かれ、締め上げられながら、嘲笑(あざわら)うような笑みを浮かべている。 道雅は笑いに喉をひくつかせながら、しゃがれた声で怨霊に言った。 「私を地獄へ落すてか。ふん、そなたに落とされずとも、私の行く先など決まっておる」 怨霊の炎が僅かに弱まる。 道雅は炎の戒(いまし)めを解き、その場に座り込むと高らかに哄笑(こうしょう)を上げながら言った。 「このように姿形を変えたとて、仏が私を浄土へなど連れて行くものか。仏の慈悲は心から己の所業を悔い改めた者だけのもの。私は端(はな)から自分の生きざまを悔いてなどおらぬ。むしろ、十分に楽しませてもらったよ。自分の思うままに振る舞い、好きなだけ犯し奪い、どんなことでもやりたいと思えば躊躇(ためら)ったことがなかった。そう、人殺しさえ……いや、人を喰らうことさえな」 道雅は怨霊の炎を見据えながら嘯(うそぶ)く。 「富や権力を奪い合う闘争がなければ、この世はあまりに退屈なところ。富は、私は生まれながらに持っている。権力の方は物心ついた時には奪われて、もはや戦いようもなかった。退屈なこの世を生き抜いていくためには、気晴らしが必要だ。昔は、ずいぶんいろんな気晴らしを試したものだよ。間抜けどもを驚かすような派手な振る舞いや色恋沙汰、喧嘩に乱暴狼藉。だが、私を一番楽しませてくれたのは、傷つけられた者の顔だった。特に、犯され辱められた女の顔はな。痛めつけられた悲鳴は、私には心地良い楽の音のようなものだ。滴り落ちる血のしずくの美しさ、切り裂かれた傷の鮮やかさ。舌の上で蕩けるような、肉の味も……」 ↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2016年06月01日 11時55分42秒
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