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カテゴリ:羅刹
道雅の冷笑が響く。
「ならば、極楽へ行けば良いものを。そうしたら、そなたの父の花山院も、大手を広げて迎えてくれよう。いや、果たして花山院も極楽におられるものかな。あのお方のおかげで煮え湯を飲まされた者も多いでの」 道雅の顔は、怨念と嘲笑に満ちて醜く歪んでいた。 もしかしたら、この男は中関白家の没落を決定的にした花山院への復讐も込めて、その皇女であるこの怨霊に近づいたのだろうか。 赤黒い光だけの怨霊の目が、急に禍々(まがまが)しい色合いを増してぎらりと光る。 だが、怨霊はそれを飲み込むように苦しげな息をつきながら、道雅にこう答えただけだった。 「わたくしはそなたに騙(だま)され、甚振(なぶ)られ、殺され……挙句の果てに、喰(く)われたゆえ、その恨み苦しみが重くてならず、到底極楽へ登っていくことは叶わぬ。ただ、この呪われた地に縛り付けられて、永遠にこの世の闇を彷徨(さまよ)い続けるだけ」 突然、怨霊はそれまでの弱々しい女の姿をかなぐり捨て、赤黒い炎となって道雅を飲み込んだ。 炎は道雅の身体を締め上げ、僧衣を焦がし、首から下げていた木蓮寺の数珠も焼き尽くしていく。 「それなのに、わたくしをこのような苦しみに陥れたそなたが、人間の所業とも思えぬ悪行を尽くしたそなただけが、仏に許しを乞うて出家し、死んで極楽へ行こうというのか。そんなことが許せるものか。そなたは断じて極楽へは行かせぬ。地獄の責め苦に遭うが良い!」 ↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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