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カテゴリ:羅刹
兵藤太は欄干を離れて、能季の前へ腰を下ろし、能季の手を取りながら言った。
「そして、傍らに寝かせていたあなた様を私に抱かせ、こう言われたのです。わたくしはもう逝かなければならない。わたくしの代わりに、この子を可愛がっておくれ。そして、自分の本当の息子だと思って、この子をずっと護って欲しい。そうすれば、そなたとわたくしは、この子の父と母も同じ。この子がいる限り、いつまでもわたくしたちは本当の妹背なのだと」 能季の手を握り締める兵藤太の手は震えていた。 その涼やかな目元にも、苦渋と哀しみに満ちた涙が宿っている。 「私はその時、あの方に誓いました。自分の命をかけ、すべてを捨てても、若君を生涯慈しみ護ると。それから、私はその約束をずっと守ってきました」 「だから、朝廷での栄達も望まず、家庭を持つこともなく、ただ私のためだけに」 「それが私の喜びだからです。私にはあの方への想い以外に価値あるものはない。だから、あの道雅を本当に憎み蔑むことはできない。私も所詮は同じですから。あの男が当子内親王様を想うのと同じように、私もあなたの母上を忘れることはできない。あの方がこの世にいる限り、私にとって女とは、あの方以外にはいないも同然だった。いや、死してこの世を去られても、なお」 ↑よろしかったら、ぽちっとお願いしますm(__)m お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2016年09月07日 11時09分33秒
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