映画鑑賞 PERFECT DAYS
最近封切のPERFECT DAYSを鑑賞しました。この映画は森田理論をテーマにしているのではないかというのが第一印象です。役所広司が公衆トイレの清掃員の平山を演じている。裕福な生活をしている妹は兄の生活ぶりに呆れている。親父との葛藤の過去を持っている。生涯独身だ。もう50代だろうか。家は押上の簡素なアパートだ。裸電球にスタンド。地震がきたら倒れるに違ないと思えるようなアパートだ。家具はほとんどない。古本はかなりあった。読書が趣味なのだ。主人公の平山の前半はほとんどセリフはない。無口なのだ。規則正しい生活を繰り返し描いている。その中に微妙な変化がある。平日は近所の女性が道を掃き清める竹ぼうきの音で目覚める。着替えを済ませて、歯をみがき、盆栽に霧を吹きかける。その辺にある草花を家に持ち帰り育てているのだ。まだうす暗い中自販機で缶コーヒーを1本買う。掃除道具を積んだ軽トラのバンでいつもの公衆トイレの清掃に出かける。その時古いカセットをかける。平山はルー・リードの曲が好きなのである。この映画ではアクセントのように何回も使われている。トイレ掃除は相棒と二人一組でやるのだが、相棒はお調子者だ。平山はトイレ掃除に手を抜くことは一切ない。トイレを綺麗にすることに無上の楽しみを持っている。相棒が「そんなにしなくてもすぐ汚れるのに」とあきれている。昼はいつも木漏れ日がキラキラ輝く公園でサンドイッチと牛乳だ。その時フィルムカメラで木漏れ日を撮影するのを日課にしている。今時フィルムカメラはどうかと思ったが、気に入ったものをいつまでも大事にする。木漏れ日は大きな木の葉がゆらゆらと揺れたときにキラキラと輝く一瞬の太陽の光だ。それを美しいと感じる感性を持っているのが素晴らしいと思った。森田の「今、ここ」に通じるものがある。仕事が終わると決まってなじみの立ち飲み屋でハイボールと簡単な食事をとる。家に帰ると自転車に乗り換えて近くの銭湯に行く。たまには小料理屋にも行く。石川さゆりがママ役で出演している。家に帰ると寝床でしばらく本を読む。古本である。映画では幸田文の「木」を読んでいた。この映画は賛否両論だという。アクションがない、ドラマがない、物語の起承転結がない。平凡な生活が淡々と描かれているだけだ。刺激や変化に慣れた現代人は退屈するかもしれない。森田をやっている人は、この映画の価値が分かるのではないかと思う。この映画の主人公は規則正しい生活を楽しんでいる。結婚したいとか、もっと豊かな生活をしたいとかという欲が全くない。今の生活に満足している。それ以上何も望んではいない。こんな人を無欲の欲というのだろう。今の生活に楽しみや癒しを見つけて人生を楽しんでいる。だから葛藤や苦悩がないようだ。私ならもっと楽しい刺激のある生き方を探し求めると思うが、平山さんにはそんな気持ちは無いようであった。そんな生き方をかたくなに守っている平山さんがある意味でうらやましいと思いました。この映画は小津安二郎作品を連想させる。小津作品も好きな人と嫌いな人がいることは承知している。この作品は巨匠ヴィム・ヴェンダース監督作品ですが、森田理論に通じる感性を持った外国人がおられることに驚いた次第です。森田の人生観を理解できる外国人が世界中に間違いなくおられるはずだと思う。