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時空の流離人(さすらいびと) (風と雲の郷本館)

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May 30, 2010
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 我が国のおける民俗学の3人の巨人と言えば、だれでも南方熊楠 柳田国男 折口信夫をあげるだろう。 しかし、他の2人は中央での華々しい経歴があるが、南方は、14年間の海外生活を除けば、その生涯を和歌山で過ごした、在野の学者であり、形式的な学歴は「中卒」で押し通していた。しかし、その学問は、単に民俗学の枠に囚われず、博物学、植物学と幅広い。正に彼は、和歌山が生んだ知の巨人であった。「南方熊楠」( 鶴見和子:講談社)は、その南方熊楠の生涯とその学問の特徴について書かれたものであり、彼の魅力をよく伝えている。南方熊楠ファンなら、必読の書と言ってもいいだろう。
 
○「南方熊楠」(鶴見和子:講談社)



 南方は、1867年(慶応3)に和歌山県に生まれた。彼は幼少より、特異的な記憶力を持っていた。10歳にならない頃から、「和漢三才図会」、「本草綱目」、「大和本草」などを所有者から見せてもらい、その内容を記憶して、家に帰って写しを作成していたという逸話は有名である。彼の学問の特徴は、この抜群の記憶力による博覧強記をベースにした、生学と民俗学を融合させた比較の学問であるというところにある。彼は、特に、民俗学と粘菌研究に大きな業績を残しているが、彼の学問は、既存の学問の境界を越えた総合的なものであった。

 南方は、日本の学界で認められることを願わず、常に世界に向いていた。彼は論文を書くときに、日本語では大衆向けに、英文は学会向けに書き分けたという。ネイチャーに1893年から50の文章、そしてノーツ・エンド・クィアリーズには1899年から323もの文章を寄稿している。しかし、そんな彼の思想の根は、意外にも、真言密教だということだ。南方は真言密教を根に世界に挑戦していたのだ。
 
 彼の世界観は、「南方曼荼羅」で示されるという。 この宇宙の様々な現象や事物はそれぞれ相互関連している。それらを結ぶ道筋は無限にあり、どの道を通ってもいっても、つきつめると真理に到達する。しかし、この道筋が多く集まる「萃点(すいてん)」というところを押さえることこそ、物事をうまく説明するポイントだということだ。

 彼の生活は、決して恵まれたものではなかった。遺産相続問題などで、弟と絶縁状態になったうえ、生涯定職につかなかったものだから、生活は貧しかった。しかし、衣食住には構わず、少しでも金があれば本を買い、研究生活を続けていた。近所では、次のように、噂されていたらしい。

 「この家のご主人はえらい学者だけど大へんビンボーで、奥さんは大きな魚なんて買ったことがない。きびなごとか、あじとかいわしぐらいしか買わない」

 彼は、決して書斎の人ではない。今で言えば三現主義の人であった。とにかく、自分で実際に見聞きしたものを、自分の膨大な知識と比べて深い考察を加える。

 「それぞれの地域には、それぞれの自然生態系と、それに関連した人間の生態があり、それらを全体として把握しながら、異なる地域の民族、風習を比較する」

 これこそが、彼の学問の真骨頂なのである。南方は、神社合祀反対運動で投獄されたことがあるが、その際にも、粘菌に関する新発見を行っているのである。

 南方の死後、柳田国男は最大級の賛辞を持って、南方のことを愛惜した。そして、「巨人が縛られたような状態の苦しみ」だったろうと推量したという。しかし、その巨人のまなざしは、紀州田辺の地から、確実に世界を見つめていたのである。私は、南方のことを思うと、やはり万能の天才であった弘法大師空海のことを考えてしまう。空海は、讃岐の国の生まれだが、彼が禅定を続けているとされる高野山奥の院は、南方の暮らした和歌山県にある。南方は、空海が、この世に再び顕現した姿だったのかもしれない。

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Last updated  May 30, 2010 08:14:20 AM
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