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カテゴリ:日々の読書(ミステリー)
北欧諸国と聞くと、多くの人がまず思い浮かべるのはスウェーデン、次いでノルウェーといったところだろうか。フィンランドをすぐに連想する人はそう多くはないだろう。日本より一回り小さい面積の国で、国土の7割以上が森林に覆われている。人口は約530万人(2008年)だそうだ。日本から遠いうえに、公用語のひとつフィンランド語(スウェーデン語も公用語)も、他の北欧諸国からは孤立している。だから、日本でフィンランドの作品が発表される機会というのはそう多くはないだろう。フィンランドの作家によって書かれたこの「雪の女」(レーナ・レヘトライネン/古市真由美:東京創元社)が、日本語訳となったということは、きっと、それほどに面白いということなんだろうなと、読む前から期待が高まってくる。 本作の主人公は、マリア・カッリオという女性巡査部長。巡査部長と言っても、フィンランドでは、初級とはいえども幹部扱いのようだし、マリアもポストと言う言葉を使っていたので、制度が日本の警察とは少し異なるようだ。マリアは、ロースベリ館という男子禁制のセラピーセンターに「精神的護身術」の講師として招かれたのだが、その館の女主人であるエリナ・ロースベリが不審な死を遂げる。何と降り積もった雪の中で、パジャマ姿で凍死していたのだ。彼女は組み合わせると意識を失わせるような薬を飲んでいた。一体事件なのか、事故なのか。 、 ここから、マリアの事件捜査が始まるのだが、期待に違わず面白い。ただ舞台がフィンランドであることや物語のシチュエーションを別にすれば、何となく既視感があるような気が。そうだ、「ストロベリーナイト」(誉田哲也)の姫川玲子だ。とにかく猪突猛進、考える前に行動するようなところがそっくりだ。おまけに、同僚のペルッティ・ストレム、彼の役割は、正に姫川の天敵である勝俣健作、通称「ガンテツ」そのもの。マリアの前で口を開けば、嫌味かセクハラまがいの言葉だ。ストロベリーナイトほどの危機に陥っていた訳ではないが、最後にペルッティがマリアのことを助けるというところも似ている。もちろん似ているのは、マリアの性格やペルッティとの関係といったところだけであり、事件そのものは、いかにも雪国・フィンランドらしさをよく反映したものとなっている。 ところで、本作では、あまりなじみのないフィンランドの風俗とか文化と言ったものも窺えて、そちらも興味深い。例えば結婚式の誓いは裁判官の前で行ったり、男同士のカップルと女同士のカップルが同居していて、いろんな組み合わせで子供を作って育てているといったようなことなどは、日本では驚きだろう。夫婦別姓制度もあるようだ。女性の性に関する話題が多いような気がするのは、フィンランドだからか、作者が女性だからなのかどっちだろう。 読んでいると、小柄だがパワフルな主人公マリアを応援している自分に気が付く。この作品では母になることが分かったマリアだが、時に、自分が妊娠していることを忘れてしまっているようなところもある。しかし、この事件を通じて、マリアは精神的にも大きな成長を遂げたのではないだろうか。最後に、本書の最後に書かれているパンクロックの一節を紹介しよう。 <今日、おれは起ち上がれる 今日、おれは世界に旅立つ 自分の道を歩いていこう この目で見よう 壁の向こうにあるものを> 今後、母となったマリアがどのような活躍を見せていくのか、楽しみである。 ※本記事は、「本の宇宙」に掲載したものの写しです。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
March 17, 2013 10:25:34 AM
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