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時空の流離人(さすらいびと) (風と雲の郷本館)

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January 12, 2015
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 「このミス」で史上初の6冠を獲得したという話題作、「その女アレックス」(ピエール・ルメートル、橘明美訳:文春文庫)。読んでみると、なるほど、確かにそれだけの価値のある作品だと実感する。

 主人公のアレックスは、男に拉致され、身動きもできないような狭い檻に閉じ込められてしまう。裸で、ドッグフードと水しか与えられず、排泄物も垂れ流しのまま、次第に衰弱していくアレックス。彼女の死を待ち受けるかのように集まってくるネズミ。

 この事件を担当するのが、パリ警視庁のカミーユ・ヴェルーヴェン警部だ。彼の部下として共に捜査を行うのが、大金持のルイ・マリアーニと、どケチなアルマンという対照的な二人。共通なのは、二人とも警部を敬愛しているというところだけ。警部自身も、頭は切れるが、身長が145センチという、およそ警察官らしくない体格だ。こんな異色の警察官たちの活躍ぶりも、この作品の見どころの一つだろう。

 アレックスを監禁していた犯人は、警察に追い詰められて、監禁先を明かさないまま自殺してしまう。いったい彼女は、どこに監禁されているのか。事態は一刻も猶予を許さない。ところが、カミーユ警部たちが、アレックスが監禁されている場所を突きとめて、踏み込んでみると、既に彼女は自力で脱出した後だった。しかしその足取りは、ぷっつり途絶えてしまう。後に残るのは多くの謎。 

 ここから、ストーリーは、読者が想像もつかないような、驚くべき展開を見せていく。一見猟奇的に見えるこの誘拐事件は、単なる序章に過ぎず、遥かに大きな事件が姿を現してくるのだ。作品中に描かれる犯罪の直接の犯人については、読めばすぐに分かるようになっている。分からないのは、それらの犯罪の裏にあるものだ、いったい事件の全貌は、どういったものなのか。次々に現れてくるのは、驚愕の事実。真相に至る扉が空いたと思ったら、そこには、また次の部屋に続く扉があった。本当に悪い奴はだれだったのか。息をつく暇もないような展開の連続が読者を翻弄する。そして最後に明らかになるおぞましい真相。

 この作品の面白さは、サスペンス的な要素ばかりによるのではないだろう。例えば、アルマン刑事のどケチネタを適当に織り込んで、読者をクスリと笑わせてくれるのだ。しかし、最後にこのアルマンが、ただのどケチ男ではなかったという意外性を仕込んでいるのは、さすがにエスプリの国、フランスの作家というべきだろうか。

 また、カミーユ警部には、身重の妻・イレーヌを誘拐され惨殺されたという過去があり、今でもそれを引きずっている。誘拐事件は担当しないという彼を、捜査に引きずりだしたのは、カミーユ警部を立ち直らせたいという上司のル・グエン部長の配慮だった。事件の解決は、カミーユ警部ががイレーヌの死から立ち直ることでもあった。そういった副次的な設定も、ストーリーに厚みを加えている。

 そして、この作品は、通常のミステリーのように、名探偵が偉そうに真犯人を暴きだして一件落着するといったようなものではない。最後に描かれた結末は、「真実より正義」。こういったところもかなり異色だ。

 とにかく、読み始めると、意外性のてんこ盛り。ページを開いたら最後、息もつかせぬ展開に、読者は目を離せなくなるだろう。これほどのミステリーには、なかなかお目にかかれるものでない。読ぬのなら、最後まで読みとおせるような時間的余裕がある時をお勧めしたい。そうでないと、続きが気になってしかたがなくなるだろうから。

(独り言)
 このタイトル、船越英一郎さん主演のテレビドラマ「その男副所長」をもじっているような気がするのは私だけ? ちなみに原題は”ALEX”なんだが(笑)。

☆☆☆☆☆

※本記事は、「風竜胆の書評」のバックアップです。






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Last updated  January 14, 2015 07:41:24 AM
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