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カテゴリ:日々の読書(ミステリー)
元祖入れ墨奉行の根岸肥前守鎮衛が活躍する「耳袋秘帖」シリーズのうちの一冊。「耳袋秘帖」シリーズは、大きく分けて殺人事件シリーズと妖談シリーズに分けらられるが、この作品は、妖談シリーズの5巻目となる。描かれるのは、さんじゅあんという謎の人物との戦い。なお、妖談シリーズは、7巻目の「妖談うつろ舟」で完結している。さんじゅあんは、新興宗教の教祖のような存在で、その影響は一般庶民だけでなく幕閣にも及んでおり、殺人集団である闇の者とも関係があるようだ。 江戸では、「神隠し」が頻発していた。例えば、印籠職人卯之吉の一家4人が忽然と姿を消している。手がかりは、子供が話していたという「へらへら月」。いったい「へらへら月」とは何なのか。 もっとも、作中に出てくる神隠しは、みなが同じ原因という訳ではない。神隠しの裏には、「神隠しと日本人」(小松和彦:角川書店)で指摘されているように、色々な背景が隠されているのだ。本作でも、本筋のさんじゅあんに関係するものばかりでなく、その他のケースも示される。 作中でちょっと気になった人物が一人いた。生駒左近という元旗本のこつじき。無外流の剣の達人で、旗本きっての奇人と言われ、いったん出家したが、堕落した既存の仏教に愛想をつかし、今は仏の道を求めて、桶の中に済んでいるという。巷では「桶のこつじき」と呼ばれている。なんだか、ギリシアで樽の中に住んでいたという哲人ディオゲネスを連想するではないか。彼に人殺しをさせたいと怪しい男が近づいてくる。こちらもどのような展開を見せるのか読んでみてのお楽しみ。 ※初出は、「風竜胆の書評」です。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
July 17, 2018 09:59:38 AM
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