時空の流離人(さすらいびと) (風と雲の郷本館)
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【送料無料】放課後はミステリーとともに価格:1,575円(税込、送料別) 「謎解きはディナーのあとで」で本屋大賞に輝いた東川篤哉による「放課後はミステリーとともに」。これは面白い。⇒ 記事「本の宇宙」に掲載○姉妹ブログ・文理両道・本の宇宙(そら)・「本が好き!」の風竜胆の書評ページ
May 7, 2011
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【送料無料】ロンドン幽霊列車の謎価格:1,029円(税込、送料別) ヴィクトリア朝のロンドンを舞台に、辻馬車の御者であるネッドが探偵として活躍 ⇒ 記事本文は「本の宇宙」に掲載○姉妹ブログ・文理両道・本の宇宙(そら)・「本が好き!」の風竜胆の書評ページ
April 27, 2011
【送料無料】螢坂価格:520円(税込、送料別) 北森鴻の珠玉のような連作短編集「螢坂」 ⇒記事は、「本の宇宙」に掲載○姉妹ブログ・文理両道・本の宇宙(そら)・「本が好き!」の風竜胆の書評ページ
April 21, 2011
【送料無料】教室の亡霊価格:1,785円(税込、送料別) この作品のモチーフとなっているのは、教員採用を巡る利権や汚職。教育現場を脅かすモンスターペアレントに、内田センセお得意の過去の因縁といtったようなものだ。この作品は、そういった理不尽なものに対して、義憤といったものが感じられる社会派のミステリーである。 記事本文は、「本の宇宙」に掲載。○ランキングの順位は? ○姉妹ブログ・文理両道・本の宇宙(そら)・「本が好き!」の風竜胆の書評ページ
April 16, 2011
【送料無料】カンナ(天満の葬列) 正史は、常に強者の立場から書かれるものだというのが、高田作品の根底を流れている歴史観だ。この作品にも、その歴史観が良く表れており、見る角度を変えてみると歴史は全く違ったものに見えるということを教えられる。 レビュー本文は「本の宇宙」に掲載。○ランキングの順位は? ○姉妹ブログ・文理両道・本の宇宙(そら)・「本が好き!」の風竜胆の書評ページ
April 13, 2011
【送料無料】GOSICK(4) 今回二人が挑むのは、聖マルグリッド学園の時計塔の秘密。かって、そこで、リヴァイアサンと名のる謎の錬金術師が、錬金術の研究を行っていたという。 レビュー本文は「本の宇宙」に掲載。 【中古】ライトノベル(文庫) GOSICK(4) ゴシック・愚者を代弁せよ / 桜庭 一樹【10P25Mar11】... 【中古】ライトノベル(文庫) GOSICK(3) ゴシック・青い薔薇の下で / 桜庭 一樹【10P25Mar11】...○ランキングの順位は? ○姉妹ブログ・文理両道・本の宇宙(そら)・「本が好き!」の風竜胆の書評ページ
March 30, 2011
【送料無料】妖談さかさ仏江戸の名奉行根岸肥前が、江戸の怪事件に挑むという「耳袋秘帖」シリーズの第4弾、「妖談さかさ仏」(風野真知雄:文芸春秋社)。 レビュー本文は「本の宇宙」に掲載。○ランキングの順位は? ○姉妹ブログ・文理両道・本の宇宙(そら)・「本が好き!」の風竜胆の書評ページ
March 25, 2011
【送料無料】GOSICK(2) ある理由により、マルグリット学園から外に出ることのできないヴィクトリカなのだが、今回は、学園を抜け出して、山奥の「灰色狼の村」にやってくる。もちろん、久城もいっしょだ。 レビュー本文は「本の宇宙」に掲載。○ランキングの順位は? ○姉妹ブログ・文理両道・本の宇宙(そら)・「本が好き!」の風竜胆の書評ページ
March 7, 2011
【送料無料】死をもちて赦されん 7世紀のアイルランドにおける法廷弁護士(ドーリー)であり、高位弁護士(アンルー)の資格も持っているという、若く美しい修道女フィデルマが名探偵役として活躍するミステリー、「修道女フィデルマシリーズ」の邦訳第6弾となる「死をもちて赦されん」(ピーター・トレメイン/甲斐萬里江:東京創元社)。 レビューは「本の宇宙」に掲載。○ランキングの順位は? ○姉妹ブログ・文理両道・本の宇宙(そら)・「本が好き!」の風竜胆の書評ページ
February 26, 2011
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【送料無料】五番目のコード この作品の面白さは、不気味な連続殺人事件と、紆余曲折といったジェレミーとヘレンの恋愛物語が縦糸と横糸のように組み合わされて進んでいくところにあるのだろう。 レビューは「本の宇宙」に掲載。○ランキングの順位は? ○姉妹ブログ・文理両道・本の宇宙(そら)・「本が好き!」の風竜胆の書評ページ
February 21, 2011
GOSICK【送料無料】GOSICK 帝国軍人の三男坊久城一弥が、学園の図書館塔の最上階にたむろする不思議な少女・ヴィクトリカと巡り合い、遭遇した事件を彼女の天才的な頭脳で解決していくというシリーズ第1巻「GOSICK」(桜庭一樹)。 レビュー本文は「本の宇宙」に掲載。○面白かったらポチっと1票! ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」
February 3, 2011
2000年も生きていると言う「オカルト探偵」・サイモン・アークが見事な推理力で、怪奇な事件を解決するシリーズ第2弾。2000年も生きているとなると、どこかの国の国籍はちゃんとあるのかなどとつまらないことが気になってしまう。 レビュー本文は「本の宇宙」に掲載。○面白かったらポチっと1票! ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」
January 26, 2011
なんともすごいタイトルだと思ったのがこの「死ねばいいのに」(京極夏彦:講談社)。そういえば、ダウンタウンの浜ちゃんにこんなギャグがあったが、まったく関係ない。人の心の闇を描き出したミステリーである。 レビュー本文は「本の宇宙」に掲載。○面白かったらポチっと1票! ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」
January 25, 2011
瀕死の重傷で、「魔女」と呼ばれる老婆の住む辺鄙な一軒家に閉じ込められた男の運命と、男を探し求める妻の活躍を描いたミステリー。 レビュー本文は「本の宇宙」に掲載。○面白かったらポチっと1票! ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」
January 20, 2011
このシリーズ、ギリシア文字を使った意味不明のタイトルが付いているが、この「ηなのに夢のよう」も良く分からないタイトルだ。内容の方も、もう一つよく分からない。 レビュー本文は「本の宇宙」に掲載。○面白かったらポチっと1票! ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」
January 16, 2011
「哲学者探偵シリーズ」第2弾。女性哲学者のイザベルが心臓記憶の謎に挑戦。イザベルを取り巻く人々もなかなか個性的で、話を盛り上げてくれる。 レビュー本文は「本の宇宙」に掲載。○面白かったらポチっと1票! ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」
January 11, 2011
帝国軍人の三男坊久城一弥と天才的な頭脳を持つ不思議な少女・ヴィクトリカが事件に挑む、ちょっと不思議な魅力のファンタジー。この作品は、二人の始まりの物語だ。 レビュー本文は「本の宇宙」に掲載。○面白かったらポチっと1票! ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」
January 8, 2011
「女子大生会計士シリーズ」の続編。萌ちゃんは、もう女子大生会計士ではない。なんと、母校の芙藍(フラン)学園の臨時教員になっており、簿記部の顧問という設定だ。主役の座も学園の生徒二人に譲っている。 レビュー本文は「本の宇宙」に掲載。○面白かったらポチっと1票! ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」
December 28, 2010
シャーロック・ホームズとワトソン博士が出会ったシリーズ最初の物語。ホームズって、ちょっと性格が悪く、あまりお友達になりたいタイプではないというのは、新たな発見だった。 レビュー本文は「本の宇宙」に掲載。○面白かったらポチっと1票! ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」
December 21, 2010
不思議な力を持った探偵まひるが、その力で崩壊しかけた家族を再生していくという物語「まやかし嬢」(石川洋子:幻冬舎ルネッサンス)。ストーリーには、いくつかよく分からない点もあったが、まひるのキャラクターは魅力的だ。 レビュー本文は「本の宇宙」に掲載。○面白かったらポチっと1票! ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」
December 5, 2010
女子大生会計士シリーズの最終巻となる「女子大生会計士の事件簿 DX.6 」(山田真哉:角川書店)。下僕キャラとばかり思っていたカッキ―だが、意外にきっちりと、陰で萌実をサポートしていたようだ。 レビューは、「本の宇宙」に掲載○関連過去記事・女子大生会計士の事件簿 DX.5○面白かったらポチっと1票! ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」
December 3, 2010
ホラーとミステリーの融合を目指す三津田信三のデビュー作「忌館 ホラー作家の棲む家」(講談社)。元々は、副題の「ホラー作家の棲む家」という題名で発表されたようだが、文庫化の際に「忌館」と改題されたとのことだ。 ストーリーは、作者自身が主人公を務める話と、その主人公が「迷宮草子」という同人誌に書いた「忌む家」という題名の作中作が交互に繰り返す形で進んでいく。その作中作は、主人公が東京に越してきた際に、何かを感じて、借りて住むようになった洋館からインスピレーションを得て書いたものであり、やはり洋館を舞台としたかなり不気味な話である。ところが、その作中作の登場人物名で、何者かが、日本ホラー小説大賞に応募してきたという。そして、主人公も次第に家にとり憑かれたようになっていく。 実は、この家は、タイトルからも連想できるように、かなり訳ありの家だ。表紙イラストの、どこか不気味な感じを受ける美女は、主人公のファンといって、彼に近づいてきた稜子という人物なのだが、実は、この家とも因縁があり、驚くべき秘密を抱えている。 話が進んでいくにつれて、最初は別々の話のようだった本編と作中作が「家」を媒体に、次第に不気味な一体化を進めていく。そして迎える想像を絶するような結末。ミステリーとして、ある程度は謎解きをされる部分があるが、真偽の分からない部分も多く、ホラーの部分は、最後まで謎のままで残っている。そして、謎と一緒に恐怖もまた残っているのだ。○面白かったらポチっと1票! ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」(本記事は「本の宇宙」と同時掲載です。)
November 16, 2010
チープな感じのイラストがちょっと気になる「占星術殺人事件」(島田荘司:講談社)。文庫版の初版は1987年となっているが、発表されたのは、1981年で、文庫版の後ろの方にある解説によれば「伝説的な作品」と称されているらしい。実は、うちの子が買っていた(まだ読んでなかったようだが)ので、ちょっと先に読んでみたわけである。日本ミステリーの古典と言うには、まだ新しいと思うが、うちの子にとっては、自分が生まれる前に発表されているので、古典のようなものだろう。どうしてその本を買ったのかと聞いてみると、どうも、何かの漫画に出て来たらしい。さすがに漫画の影響力はすごいものだ。 さて、この作品で扱われているのは、かなり猟奇的な事件だ。画家とその娘(義理の娘を含む)や姪の合計8人が殺されたのである。問題は、この画家が遺した手記の内容だ。そこには、自分の娘や姪たち6人の処女から、それぞれ違う星の加護を受けている部分を取り出して、完璧な人体(アゾート)を生成しようという計画が記されていた。画家の娘たちは、手記に示された部分を切り取られている死体となって、日本の各地で次々に発見されたが、一番怪しいはずのその画家は、最初に殺害されていたのである。しかも殺害現場は密室。 実は、この猟奇的な事件は、実際に作中で発生する訳ではなく、発生したのは昭和11年。40年前の記録上の出来事として出てくるのである。余りのミステリアスぶりに、日本中のミステリーファンが散々謎解きに挑戦してきたが、これまで誰も解決できなかったという設定だ。これを名探偵ホームズ役の占星術教室を主宰している御手洗潔と、ミステリー好きのワトソン役石岡和己が追い求めていくというのが基本的な筋書きである。もっとも、御手洗は、ホームズのことを作中でけちょんけちょんにけなしているのだが。 最初は、石岡が事件を説明し、それに対して、御手洗が推理を述べるという形だったので、てっきり安楽椅子探偵ものかと思ったら、途中から行動的になって、京都まで手がかりを探しに行く。結局事件は、京都で解決した形になったのだが、使われていたトリックの意外さには舌を巻いてしまった。このトリック、作中にも述べられているが、よほど捜査が御座なりでない限り、今だったらまず成立しないものである。ところが、事件の舞台を昭和11年としているために、不可思議な事件として成り立ってしまったのだ。だから、40年後の謎解きというのは、作品の中できっちりと意味を持たされているのである。最後に犯人が分かるところは少しあっけない感じはあるが、なかなか読みごたえのあるミステリーだった。○ランキング今何位? ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」(本記事は「本の宇宙」と同時掲載です。)
November 11, 2010
テレビドラマ「新参者」で阿部寛の演技が光った加賀恭一郎シリーズの第7番目の事件を扱った「赤い指」(東野圭吾:講談社)。事件的な設定は、加賀刑事が日本橋署に異動する前で、まだ練馬署に在籍していた時代となっている。 幼女の死体が、住宅街にある公園のトイレで発見され、その真犯人を加賀が追い詰めると言うのが基本的な筋書きだ。この作品は、ミステリーに分類されるのだろうが、実は、加賀が真犯人を探し出すと言ったものではない。実は真犯人は早い段階から分かっている。加賀が明らかにするのは、犯人の家族に隠されていた秘密であり、そこがこの作品をミステリーたらしめていると言っても良いだろう。 私は、以前、湊かなえの「告白」のレビュー記事に、「現代社会は、父性喪失の時代だ。」と書いた。この作品にも、「告白」程ではないが、「父性」の弱さが現れていると思う。本来は父親のロゴスと母親のパトスのバランスが必要なのだ。しかし、今の日本は、あまりにもパトス優位が目立つのではないだろうか。犯人であるわが子の犯罪を警察に通報しようとする父親。しかし、母親はヒステリックに子供の罪を隠そうとする。結局父親は、母親の論理を超えた感情に負けて、隠ぺい工作を行ってしまう。ところが、肝心の犯人の方は何の反省もないように見える。その結果、親子共々犯罪者となってしまうのだ。 この作品は、日本の家族システムに潜む問題点や福祉の貧弱さといった問題点を浮き彫りにしているように思える。○ランキング今何位? ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」(本記事は「本の宇宙」と同時掲載です。)
November 6, 2010
QEDシリーズなどで知られる高田崇史の「麿の酩酊事件簿」シリーズの第1弾、「花に舞」(講談社)。 舞台は古都鎌倉。主人公の勧修寺文麿は、旧家のお坊ちゃまである。何しろ、家に執事がおり、実際に「お坊ちゃま」と呼ばれているのだから掛け値なしのお坊ちゃまだ。もっとも、お坊ちゃまといっても三十歳を超えているのだが。文麿は、ベンチャー企業のオーナーで旧家のボンボンなのに、いまだ嫁の来てがない。ただ一人の肉親である祖母から、早く嫁をもらうようにせっつかれているのだが、嫁の来てが無いのは、必ずしも彼のせいであると言う訳でもないようだ。 なにしろ、勧修寺家には、婚姻家訓というとんでもない家訓があるのだ。 1.見合厳禁 2.手助け無用 3.独力発掘 ・ ・と、この調子で、前文7条と本文86カ条もあるのである。こんな嫁取りに関して悲惨な状況にある文麿だが、女性との出会いはもちろんある。ところが、どういう訳か、出会う女性は皆、何か心にわだかまりのようなものを抱えているのだ。彼女たちのわだかまりを文麿が解決するのはよいのだが、結局はふられてしまうというのが、この作品の基本的なストーリーである。 収められているのは4つのエピソード。○ショパンの調べに 美人ピアニストの人生を変えた事件○待宵草は揺れて 茶会で起きた毒殺事件○夜明けのブルー・マンデーを 女性バーテンダーのわだかまり○プール・バーで貴女と 女性ハスラーの悩み ところで、文麿には、変な性質がある。酒に弱いのだが、究極まで酔っ払ってしまうと、キザ男君に変身してしまう。しかし、このキザ男君、やたらに頭が冴えている。素面の時より、頭の働きが格段にあがり、名探偵になってしまうのだ。 水戸黄門の印籠ではないが、この作品のパターンも決まっている。思いを寄せた女性と飲みに行ったのはいいが、酩酊して呆れられているときに、急に、キザ男君に変身して、見事に彼女たちの悩みを解決してしまうのだ。これも、日本的な様式美のうちだろうか。しかし、文麿が彼女たちの悩みを解決することは、彼女たちが新たな人生に踏み出すきっかけを与えることにもなってしまい、結果は失恋というのは、少し悲しい。(笑)○ランキング今何位? ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」 (本記事は「本の宇宙」と同時掲載です。) 楽天ブックスの「ブログネタ」をブログで紹介して10万ポイント山分けに参加しよう
October 30, 2010
小市民を目指してどうしてもなりきれない高校生二年生の二人、小鳩くんと小山内さんを描いた、青春スイーツミステリー「夏期限定トロピカルパフェ事件」(米澤穂信:東京創元社)。「春期限定いちごタルト事件」に続くシリーズ第二弾だ。 二人は、一緒に行動していることが多いが、恋愛関係にある訳ではない。二人ともその性格と頭が切れすぎるために、中学時代共にいろいろとあったようだ。そのため、小市民こそ理想だとして、共に小市民を目指す互恵関係にあると言う設定である。だから、学校の外で、ましてや夏休みに会うような必然性は全く無いはずなのに、なぜか、小鳩くんは、小山内さんに誘われて、<小山内スイーツ・セレクション・夏>につきあうことに。つまりは、二人で夏休みの間に甘いもの屋巡りをする訳だ。 「今年の夏の計画を完遂するには・・・・・・、どうしても、小鳩君みたいな人がいて欲しいの」 ところが、実はここに、小山内さんが、大きな仕掛けを仕込んでいたのである。 小鳩君は、前作で、友人の堂島健吾にこう言っている。 「ぼくが狐だったとたとえるなら、あれは昔、狼だったんだ。」 しかしこの二人、狐と狼というよりは、息のあった夫婦狐のように見える。狼なら、智恵を使うよりは、もっと力技が出てきそそうなものだ。実は、小山内さんが、見かけによらず、カンフーの達人だと言うことなんていうことは全然ない。動作は素早いようだが、体はちっちゃくて、どう考えても肉体派ではないのだ。その分智恵の方はよく回り、ずる賢いといっても言いすぎではないだろう。そんな小山内さんは、まさに女狐といった表現がぴったりだと思うのだが(笑)。 今回のお話は、小山内さんの女狐ぶりがいかんなく発揮されている。しかし、これにより、最後に二人の関係に大きな変化が生じて、後は次回作のお楽しみといった終わり方だ。いったい、この二人、本当に小市民になれるだろうか。○ランキング今何位? ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」(本記事は、「本の宇宙」と同時掲載です。)
October 14, 2010
元刑事で刑事専門のフリーライターである、柚木草平が、名探偵となって、事件を解決していくという「柚木草平」シリーズの一つ「初恋よ、さよならのキスをしよう」(樋口勇介:東京創元社)。 柚木は、娘を連れて訪れたスキー場で、20年ぶりに高校時代の同級生だった卯月実可子に出会う。実可子は、高校のマドンナ的存在であり、柚木の初恋の相手でもあった。ところが、その1ヶ月後、実可子の姪である早川佳衣から電話がかかってくる。実可子が何者かに殺害されたというのだ。彼女は、自分に何かあったら柚木に相談するように言い残していた。いったいなぜ。柚木は事件の真相を探り始めるが、それは、高校の同級生たちの傷を抉ることでもあった。 鴨長明の方丈記の冒頭に、「行く川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず」という一節がある。まさに人生は無常」。20年の歳月は、転校生でストレンジャーだった柚木の眼からは仲よしグループだった同級生たちの人生に、いろいろなことがあるのには十分だったということだ。更に、クラスの女王様だった、実可子自身も相当迷惑な人物だったことがだんだんと明らかになってくる。そして明らかになる事件の真相。ペーソスを感じさせるストーリーながら、柚木のシニカルなくせに、どこかコミカルで、殆ど減らず口のような女性たちとの会話が面白い。○ランキング今何位? ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」(本記事は、「本の宇宙」と同時掲載です。)
October 6, 2010
「禍家」、「凶宅」に続く、三津田信三の「家」シリーズの最終章「災園」(光文社)。 主人公の奈津江は6歳の少女である。近くの森で変質者に襲われたが、お稲荷さまの祠から出て来た何かに助けられた。その時以来、お狐さまのお告げを聞くことができるようになるのだが、蕎麦屋を経営していた両親が亡くなり、「祭園」という施設に引き取られることになる。その祭園の経営者である祭隆利こそ、奈津江の実の父で、奈津江を探していた深咲という美少女は彼女の姉であった。 実は祭家は狐使いの家系であり、狐使いの女が初産で産んだ子供の肩口には狐火のような痣が現れ、優れた狐使いになると言われていたのだ。右肩なら陽、左肩なら陰。陰の狐火を印す者は、闇に魅入られる恐れがあるという。しかし、奈津江は2番目の子でありながら左肩に狐火の痣があった。そして死産だったもう一人の子の左肩にも狐火の印が。 祭園で暮らすようになった奈津江だが、彼女の部屋に狐面をかぶった不気味な灰色の女が現れる。更に新入りが受ける恒例の肝試しで訪れた廻り屋という建物でも、灰色の女に襲われたのだ。そして、祭園の子供たちが一人一人いなくなっていく。 ここで言う狐とは「管狐」のことだろう。「地獄先生ぬ~べ~」の登場人物でイタコ見習のいずなが使っている妖怪ということで知っている方も多いだろう。そういえば、いずなが活躍するスピンオフ作品「現代都市妖鬼考 霊媒師いずな」で、なかなかセクシーな女子高生霊媒師姿を見せているので、こちらも美少女という設定の深咲の姿が、つい重なってしまったのは余談(笑)。しかし、最初の頃は、奈津江がお狐さまの声を聞いたりして、それらしい力の片鱗は見せていたものの、祭園に行ってからは、狐使いの才能を持った者らしい場面が無かったのは少し残念であった。 最初は、不思議な力を持った少女が恐怖体験を通して成長していく話かというような想像をしていたが、読んでみると、だいぶ予想が外れた。 [イヤミス」という言葉がある。イヤな気持ちになるミステリーという意味で、最近では大人気の「告白」などがその代表であるが、この作品も十分「イヤミス」の資格があるだろう。なにしろ、最初はホラーサスペンスと思っていたものが、最後の方で一転して、どろどろとした背徳と狂気の物語に様変わりしてしまう。ホラー的な部分は、大部分証明されてしまうのだが、それでも、最後は、寒々とした恐怖の余韻を残した終わり方だった。○ランキング今何位? ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」(本記事は「本の宇宙」と同時掲載です。)
October 2, 2010
「おそろし」に続く、宮部みゆきの三島屋シリーズ第2弾「あんじゅう」(中央公論新社)。前作では、ある事件をきっかけに心を閉ざしたていた少女・おちかが、神田三島町に袋物屋「三島屋」を構える叔父夫婦の許で、客から不可思議な話を聞くうちに、次第に心を開いていった。しかし、百物語と名乗りながら、前作ではたったの5話しか語られていない。さすがに、これでは百物語というのは誇大広告(笑)じゃないかと思っていたら、「あんじゅう」じゃなく「あんのじょう」、続編が発表された。(すまん。オヤジギャグを使ってしまった。) 中は、連作短編集になっており、収録されているのは、次の4編。・逃げ水・藪から千本・暗獣・吼える仏 宮部みゆきの時代ものは、江戸の下町の人情がよくでていて、人の心をほっこりほかほかにするものが多い。たとえ対象が人外の者であってさえそれは変わらない。「逃げ水」では少年に取りついたお旱さんという蛇神に対して、「暗獣」では、屋敷に住む真っ黒い妖に対してもいかんなく、人の心の優しさが発揮されている。 しかし、「藪から千本」、「吼える仏」では、一転、人の情念の恐ろしさを描いている。これもまた、宮部みゆきらしさが良く出ているといえよう。この作品の魅力は、人の心の優しさと恐ろしさのバランスがよく取れているところであろうか。 ところで、「おそろし」のレビューの際に、最後はRPGのようだと書いたが、この「あんじゅう」では、ますますその性質が強くなったように思える。もちろん主人公たる勇者はおちかなのであるが、RPGには旅の仲間がつきものである。この作品で登場したのは、おちかの守り役のお勝、浪人で剣の達人である青野利一郎、偽坊主の行然坊。通常のRPGの登場人物に例えれば、それぞれ、魔道師、剣士、僧侶といったところか。しかし、今回のラスボス登場ともいえるとも言えるエピローグは、百物語にしては、当たり前すぎるように思える。 ともあれ、まだ百物語のうち、9物語しか語られていない。これからも、宮部さんには、しっかりと続きを書いて欲しいものだ。おちかと青野利一郎、ちょっとこれからの発展が気になる感じだし。○ランキング今何位? ○関連過去記事・おそろし○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」(本記事は「本の宇宙」と同時掲載です。)
September 24, 2010
表紙イラストに描かれている、不思議な感じの美女が目を惹く「永遠虹路」(綾崎隼:アスキー・メディアワークス) 主人公の舞原七虹(なな)は、誰もが振り向くような美貌の持ち主である。音楽の才能に恵まれながら、メジャーデビューを目前に、ぷっつりと音楽の世界から去っていく。 「もう謳う意味がなくなったんです。届けたい人がこの世界に一人もいないのに、こんな辛いこと、もう私は続けられない」 いったい七虹に何が起こったのか。この作品は、七虹のOL時代から、大学、高校、中学、小学校時代へと語り手を変えながら遡っていき、彼女の物語を綴っていく。そして、最終章で再び現代に戻る。 上の台詞からは、七虹にどんな悲しい出来事があったのだろうと思ったのだが、結末は、想像していたものとはだいぶ違っていた。裏表紙に、「青春恋愛ミステリー」と書かれていたが、あまりミステリーらしさはない。不器用で、一途で、臆病な七虹。そんな七虹の、とっても遠回りなラブストーリーを描いた作品だった。○ランキング今何位? ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」(本記事は、「本の宇宙」と同時掲載です。)
September 21, 2010
維新の激動がまだ収まらない明治初期、政府を揺るがすような偽札事件が発生した。その犯人として、逮捕されたのは、明治期の関西財界の大立者として知られている藤田傳三郎であった。しかしそれは冤罪であり、約3カ月に渡る拘留の後に、彼は釈放されている。1879年(明治12)に起こった「藤田組贋札事件」である。この事件をモチーフに、贋札事件の裏に潜んでいる人間模様を描いた歴史ミステリーが、「蜻蛉始末」(北森鴻:文芸春秋社)だ。 傳三郎は、萩出身であり、高杉晋作、井上馨、伊藤博文などの維新の大立者と交流があった。時に彼らに利用されながらも、その才覚で、着実に政商への道を歩いていく。作者は、彼に「とんぼ(蜻蛉)」とあだ名されている宇三郎という男を、影のように付き添わせている。宇三郎は、ぎょろ目で手足ばかりひょろ長く、小狡いうえに、虚言癖もあり、幼いころから人にからかわれていた。それをいつもかばっていたのが傳三郎である。もっとも、傳三郎も宇三郎にいらつき、しょっちゅう彼に拳を振るまっていたのだが、それでも宇三郎は、傳三郎に付きまとう。二人の間は、奇妙だが強い絆で結ばれていたのである。この作品は、そんな二人の愛憎の物語だ。 実は、宇三郎は、愚鈍な見かけにも関わらず、六尺棒を使った棒術の達人で、傳三郎の影守りだった。彼の思考法は常人とは異なっている。自分や傳三郎にとっての脅威となりそうな者に対して、「いざとなったら殺してしまえばいい」と躊躇なく考えてしまうのだ。そんな宇三郎も、妻を迎え、娘が生まれると別人のように変わってしまうのだが、幸せもつかの間、彼を悲劇が襲う。そして、その悲劇が、傳三郎への恨みとなってしまうのだ。 作者の北森鴻は山口県の出身だけに、志半ばで亡くなった長州藩の志士たちに対する思い入れは特に強いのだろう。高杉晋作や久坂玄瑞が、非常に魅力的に描かれている。生き残った井上馨や山縣有朋があまり好意的に書かれていないように思えるのとは対照的だ。 維新前から明治政府がその基礎を固めていく時代の様子が活き活きと表現されており、フィクションの部分だけでなく、余り知られていない歴史秘話というようなものも知ることができる。歴史とミステリーの好きな人にはお勧めの1冊だろう。○ランキング今何位? ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」(本記事は、「本の宇宙」と共通掲載です。)
September 18, 2010
「瓶の首は細くなっていて、水の流れを妨げる。 そこから、システム全体の効率を上げる場合の妨げとなるある部分のことを、ボトルネックと呼ぶ。」(p284) 自分の生まれていない世界へ迷い込んだ少年の物語、「ボトルネック」(米澤穂信:新潮社)。 主人公の嵯峨野リョウは、死んだ恋人を偲んで訪れた東尋坊で崖から墜落した。しかし、気が付いてみると、彼は自宅のある金沢の街にいた。しかし、そこでは、彼が本来存在していない世界であり、彼の代わりに、生きて生まれることのできなかったはずの姉サキが存在していたのである。 自分の世界では、リョウの家庭は完全に崩壊している。両親はそれぞれ浮気相手を持っており、母親は、リョウの存在を完全に無視して食事もつくらない。そのくせ、外への対面だけは気にする。兄は、バイク事故で転んで、長らく意識不明の状態を続けた後亡くなったばかりだ。 ところが、こちらの世界は違った。両親は、一時危ない時期もあったようだが、今はラブラブである。自分の世界では死んだはずの恋人も元気で暮らしている。これ以外にも、なにもかにもが、自分の住んでいた世界より良くなっている。恋人の死の真相を突き止め、こちらの世界での恋人への災厄を防ぐことはできたものの、彼は知ってしまった。自分がボトルネックだったことを。 自分の存在価値に悩むことは、青春の特権である。しかし、自分の存在価値なんて、証明のしようがない。だからいいのだ。しかし、リョウの場合は、自分が存在する世界と自分の代わりに姉が存在する世界を比較することができた。こちらの世界では、元の世界より、何一つ悪くなっているものはない。二つの世界の違いは、自分が存在するか、姉が存在するかである。これこそ、自分がボトルネックであることの完璧な証明ではないか。あまりにも、残酷な証明である。 「真っ暗な海と曲がりくねった道。それは失望のままに終わらせるか、絶望しながら続けるかの二者択一。」 元の世界に戻ったリョウの、最後の選択は、読者を哀しく辛い気持ちにさせる。○ランキング今何位? ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」(本記事は「本の宇宙」と共通掲載です。)
September 13, 2010
会計に関する様々な事件を、女子大生会計士の藤原萌絵と会計士補の柿本一麻の二人が解決していくという会計ミステリー「女子大生会計士の事件簿」シリーズ第5巻。○「女子大生会計士の事件簿 DX.5」(山田真哉:角川書店) このシリーズ、萌絵ちゃんとカッキ―(柿本)の掛け合い漫才のようなやりとりを楽しみながら、知らず知らずのうちに会計に関する知識が付いて来ると言う優れものだ。今回学べるのは、次のようなものである。○美術品購入を装った不正蓄財のからくり○棚卸資産を使ったコンビニの内部不正の穴埋めのからくり○不動産のスキームを使った資金調達のオフバランス化のからくり○買収によって利益を出すからくり いずれも反則技であり、真似をしてはいけないのは当然であるが、これらに関する知識を持っていれば、自分の会社の内部統制を整備・運用していくような場合に大いに役に立つ。内部統制とは、これらが起こらないような仕組みのことだからだ。 相変わらず萌絵ちゃんは天衣無縫、天真爛漫なキャラを演じているが、今回は彼女が監査法人に入ったばかりのころの意外な姿を知ることができる。カッキ―は相変わらずの下僕キャラであるが、萌絵ちゃんに、いきなり 「私のこと、心配じゃないの?」なんて聞かれて、ドキドキしていた。一方萌絵ちゃん自身も、尊敬する先輩の氷高さんに、 「あなた、柿本クンといつ結婚するの?」とストレートに聞かれて、紅茶を噴き出してせき込んだりしている。会計に関する感は鋭いくせに、恋に関する感は鈍い萌絵ちゃんと、押しの弱い下僕キャラのカッキ―、二人の仲が、どう進展していくかがこの作品のもう一つの楽しみである。○ランキング今何位? ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」(本記事は、「本の宇宙」と同時掲載です。)
September 12, 2010
三津田信三による、「刀城言耶」シリーズのひとつ「首無の如き祟るもの」。媛首村という奥多摩山中にの架空の村を舞台に繰り広げられる、最高におどろおどろしいホラーミステリーだ。 この媛首村を牛耳っているのが、秘守(ひがみ)一族という旧家。一守家、二守家、三守家の三つに分かれているが、なかでもその筆頭たる一守家の勢力は絶対である。村には、淡首様という祟神が祀られており、何百年もの間代々秘守一族に祟りをもたらしてきた。秘守一族にとって、淡首様は敬うものであると同時に恐れるものでもあり、祟りを逃れるために、一族には奇妙な風習が伝わっていた。 一守家の後継ぎ長寿郎とその双子の妹妃女子、二人の淡首様への十三夜参りの夜から、新たな惨劇が始まる。妃女子が参拝の途中で、不思議な死に方をする。二人の参拝を隠れて見ていた、一守家の使用人斧高(よきたか)は、その地方に伝わる化物である首無を目撃した。そして、10年後、長寿郎の花嫁候補を選ぶ婚舎の集いで、こんどは当の長寿郎と花嫁候補の一人である古里鞠子が首無死体となって発見されたのである。 古い慣習に支配される村を流れる、退廃的で耽美的な空気がたまらない。どこか、横溝正史の世界に通じる者を感じる。凄惨で不可解な事件が何度も出てくるが、使われているトリックは、基本的には同じものだ。それが、ちょっと形を変えて、繰り返されている。この作品は、事件を調べた高屋敷巡査の妻で、推理作家・媛之森妙元というペンネームを持つ高屋敷妙子が小説の形で書き綴っているいるのだが、結局事件は解明されないまま終わるかに見えた時に、妙子の許を刀城言耶が訪ね、すべての真相を明らかにする。しかし、そこには、またしても同じようなトリックが仕掛けられており、読者の思いもよらないような結末を迎えるのである。 しかし、事件のすべてが、トリックとして解明できる単なるホラー風味のミステリーという訳ではない。事件の捜査の際に淡首様に対して礼を欠いた行為をした刑事が、媛神堂の祭壇の奉納物である鎌で連続殺人事件を起こし、自殺すると言う不気味な事件など、不気味な事件を織り込んで、ホラー的な要素もきっちりと添加している。 もう一つ、特徴的なのは、この作品には、推理小説作家やそれに準ずるような者が多く出てくることだ。そのせいで、戦後の推理小説の発展史のようなものを垣間見ることができる。もちろん、フィクションも入っているので、全部をそのまま真に受ける訳にはいかないだろうが、それでも、なかなか興味深い話が展開されている。○ランキング今何位? ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」 (本記事は「本の宇宙」と同時掲載です。)
September 9, 2010
気が短くて強面ながら、弱いものには優しいところも見せるという規格外れの同心・野火陣内が、大江戸を騒がす事件に挑むという「狐化粧」(和久田正明:角川春樹事務所)。 この作品は連作短編となっており、収録されているのは、以下の4話だ。1.怒らない2.乙女の仕事3.箱根の変4.狐化粧 陣内はとにかく乱暴者である。小悪人に対しても、性根が気に食わなければ、相手にトラウマや後遺症が残るくらいボコボコに痛めつけてしまう。田宮流抜刀術の達人だから腕の方も相当に立つ。しかし、なかなかツッコミどころの多い性格をしている。 一応、弱いものには優しいところを見せるという設定になっているが、どうも家庭内暴力で妻子に逃げられた過去があるようだ。そのため、今は「姫」と名付けた猫と侘しく暮らしている。しかし、DV男が実は優しいと言われても、なんだかなあ。 おまけに本人の言うことも結構いい加減だ。 「御定法のおよばねえ相手とかさ、どうしようもねえ奴っているだろう。そういう時、面倒臭えからやっちまうの」と、悪い奴らをばっさりとやってしまうこともよくあるのに、金をもらって悪い奴を始末するという「仕事人」のような一味の女に対しては、 「人間御定法を破ったら、それでおしめえなんだよ・・・」と言っている。どの口でそんなことを言うんだと、口の当たりをつねってやりたくなるが、表紙のイラストに描かれているように、相当に凶悪な面構えである。とても恐ろしくてできない(笑)。 この陣内のよく使う、「~なの」、「~だもん」という口調、奥田英朗の作品に出てくるドクター伊良部を連想してしまう。腕っ節の方はだいぶ違いそうだが、型破りな方法で、人間の病理の原因を除いたり、社会の病理を除いたり、意外に共通点がありそうだと思うのは、少し考えすぎか(笑)。ツッコミどころは多いながら、江戸を舞台にした痛快で楽しめる娯楽時代小説だ。○ランキング今何位? ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」 (本記事は「本の宇宙」と同時掲載です。)
September 7, 2010
「加賀さん、あんた、一体何者なんだ?」 ・「何物でもありません。この町では、ただの新参者です」(p348) 阿部寛が主演していたテレビドラマの記憶も新しい「新参者」(東野圭吾:講談社)。ドラマが面白かったので、原作の方も買ってみた。 主人公は、日本橋署の赴任してきたばかりの刑事、加賀恭一郎。階級は警部補。周りの評判は、頭は切れるが、ひねくれ者で頑固だということらしい。その彼が、小伝馬町のマンションで発生した女性殺人事件の真相を追い求めていくというのがごくおおまかなストーリーだ。 名探偵ものといえばそうなのだが、この作品は名探偵ものでも一味違う。加賀は単に事件を追い求めるだけではない。「事件によって心が傷つけられた人がいるのなら、その人だって被害者だ。そういう被害者を救う手だてを探し出すのも、刑事の役目です」(p220) 事件の捜査の中で関わった人々。彼らが抱えているちょっとしたトラブルの真相を彼の迷推理で解き明かしてケアしていく。こういった人情味溢れるサブストーリーを積み重ねながら、本筋の事件の真相に迫っていくというのが一番の魅力だろう。特に、ほとんど崩壊していた被害者の家族に、再び再生の糸口をつけたところは感動的だ。ちょっとした、行き違い、思い違いが不幸な結果に結びつくことはよくあるものだ。彼は、そんな絡まった糸を見事に解きほぐしていく。 ドラマの阿部寛の好演の印象が強かったため、読んでいる最中、頭の中を彼が動き回っていた(笑)。改めてこの原作を読んでみると、まさに彼のハマり役だったことが良く分かる。○ランキング今何位? ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」 (本記事は「本の宇宙」と同時掲載です。)
August 28, 2010
三津田信三による怪奇幻想作家・刀城言耶(とうじょう げんや)シリーズの第2作に当たる、「凶鳥の如き忌むもの 」 。瀬戸内海の島に伝わる奇妙な儀式とそれに伴う恐怖を描いたホラーミステリーだ。○「凶鳥の如き忌むもの」(三津田信三:講談社 ) 今回言耶は、18年ぶりに開催される「鳥人の儀」を見るために、瀬戸内海に浮かぶ鳥坏島(とりつきじま)に渡る。この儀式は、鵺敷(ぬえじき)神社の巫女が大鳥さまと一体になるというもののようだが、18年前に行われたこの儀式では、鳥女という化物が現れて、島に渡った人間は、ただ一人だけを残して消えうせてしまったという。今回儀式をとり行うのは、その時の生き残りの朱音(あかね)の巫女。島に渡ったのも前回と同じ8人。案の定、儀式の最中に、巫女が消えうせ、人々が消えていく。 まだレビューを書いていない「首無の如き祟るもの」を含めて、このシリーズは3作しか読んでいないが、神とペアで化物が語られている。「厭魅の如き憑くもの」ではカカシ様に対して厭魅、「凶鳥の如き忌むもの」では大鳥様に対して鳥女、「首無の如き祟るもの」では淡首様に対して首無といった具合だ。これは、日本では、神と妖の境界があいまいだからなのだろうか。それとも神は、荒魂と和魂の二面性を持っていることの反映なのだろうか。 結局は不思議など何もなく、言耶によって真相が解き明かされるのだが、「鳥人の儀」の正体はあまりにもおぞましいものだった。本当に戦後の日本を舞台にした物語かと設定を疑いたくなるくらいだ。 最後に、この小説、影禿鷲の飛び交う島が瀬戸内海にあると言う設定になっているが、風光明美な瀬戸内海に、さすがに禿鷲は似あわないだろうと思う。一体作者の瀬戸内海のイメージはどんなんだと問い詰めたくなってきた(笑)。○ランキング今何位? ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」(本記事は「本の宇宙」と同時掲載です。)
August 10, 2010
最近よく読んでいる道尾秀介の「ソロモンの犬」(文芸春秋社)。道尾作品と言えば、ゾクッとくるようなホラー調の作品が多いが、これは、ホラー風味はまったく付いておらず、言うなれば「動物生態学的ミステリー」といったような作品である。○「ソロモンの犬」(道尾秀介:文芸春秋社) 同じ大学に通う、秋内静、友江京也、巻坂ひろ子、羽住智佳の4人は友人同士だ。京也とひろ子は付き合っており、秋内は智佳のことが好きなのだが、なかなか友人以上の関係になれない。ある日、彼らの面前で、友達になった椎崎陽介という少年が、飼い犬のオービーに引きずられて道路に飛び出し、トラックに轢かれて亡くなってしまう。なぜ、オービーは、いきなり道路に飛び出したのか。秋内は、事故の直前に見た友人のおかしな行動が頭から離れない。 ミステリーと言えば名探偵役がつきものだが、この作品では、彼らが通う大学の助教授で動物生態学を教えている間宮未知夫がその役割を果たす。秋内は、間宮に相談に行くのだが、この助教授、なかなかの変人で面白いキャラクターだ。 不幸な事故や、その後に続く悲劇といったものを扱っている割には、この作品は、どこか漫画チックでコミカルな感じを受ける。これは、この間宮と、秋内の祖父のキャラの影響が大きいからだろう。また、以前読んだ「片眼の猿」ほどではないが、読者に対するひっかけもちゃんと用意されているというのも、いかにも道尾作品らしい。 表題の「ソロモン」とは、旧約聖書に出てくる、古代イスラエルの王のこと。ソロモン王は、指輪の力で、動物たちと会話ができたという。実は、ソロモンの指環の話は、聖書の語訳から来ているそうで、もともとそんなものはどこにもなかったのだという。ソロモンの指輪が欲しいのではないかと尋ねる秋内に、間宮は自分の頭を叩きながら、「僕は、自分で見つけるよ」と応えた。努力もせずに、魔法の道具を当てにすることなんて間違っている。自分で地道に努力していくことが大切なのだろう。○ランキング今何位? ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」(本記事は「本の宇宙」と同時掲載です。)
August 1, 2010
シニカルなくせに、どこかコミカルで、殆ど減らず口のような会話が面白い樋口有介による柚木草平シリーズのひとつ「夢の終わりとそのつづき」(東京創元社)。柚木草平は、元警視庁の刑事であるが、ある事件で警視庁を退職し、今は刑事事件専門のフリーライターをやっている。 シリーズとしては、かなり後の方で発表された作品だが、舞台の設定は、まだ、警視庁を辞めて8ヵ月位のころだ。柚木が「刑事事件専門のフリーライター」と名乗るようになったいきさつもこの作品に書かれている。 事件の発端は、柚木のところを絶世の美女が訪ねてきたところから始まる。名前も分からない男を1週間尾行してくれれば、200万円の報酬を払うという依頼である。ところが、その男は3日目に餓死してしまう。不思議なことに、その直前まで盛んに飲み食いしていたにもかかわらずにである。 柚木は、女好きだが、どこか女に辟易しているようなところがある。そのくせ女性には案外ともてる。今回彼に絡んでくるのは、依頼者である謎の絶世の美女と、彼が往きつけのスナック・「火星人の罪」の経営者で、彼の捜査の相棒となる夢子。柚木の、女性たちとの会話、これが楽しみで、このシリーズを読んでいるようなものである。 今回は、ロシアの国家組織が出てきたり、果てはエイリアン騒動までありで、いつもよりは、意外とスケールが大きい。ついに、このシリーズもSF小説になってしまったかと思ってしまったが、最後は若干SFチックながら、なんとかミステリーの範囲内で収めた感じだ。○ランキングの順位は? ○姉妹ブログ・文理両道・本の宇宙(そら)(本記事は「本の宇宙」と同時掲載です。)
July 23, 2010
道尾秀介による、ちょっと変わった探偵ものである「片眼の猿」(新潮社)。私がこれまで読んだ道尾作品は、「背の眼」、「骸の爪」、「向日葵の咲かない夏」などのホラーやホラー趣味満載のミステリーばかりだったので、だいぶ趣が違っていたのには少し驚いた。○片眼の猿(道尾秀介:新潮社) この作品の主人公である三梨幸一郎は、盗聴を専門としている探偵だ。ある楽器メーカーの依頼で、そのメーカーのライバル社を調査している。同業者の冬絵をスカウトし、事件を調査していたが、調査の最中に発生した殺人事件を「聴いて」しまう。 この作品の特徴を一言で表せば、読者を唸らせるようなひっかけトリックが、そこかしこに仕掛けられていることだろう。殺人事件の真相のみならず、三梨と冬絵の能力や容姿、三梨の探偵事務所が入っているおんぼろアパート・ローズ・フラットの住人たちの本当の姿、三梨がかって一緒に暮らしていた秋絵の死の謎などの多くの仕掛けが、最後の方ではどんどんと明らかになってくる。これだけ多くのトリックの伏線が作品中にちりばめられていたことに、読者は驚き、その意外性に、すっかり作品世界に引き込まれてしまうことだろう。これぞまさに道尾作品の真骨頂というところか。 表題の「片眼の猿」とは、ヨーロッパに伝わる民話だそうだ。作中に紹介されている話を要約してみよう。999匹の猿の国があり、その国の猿はみな片眼だったが、1匹だけ両眼の猿が生まれてと言う。その猿は仲間にあざけられ、笑われたあげく、とうとう自分の片眼をつぶしたという。 三梨は、その猿がつぶしたのは、実は自分の自尊心だったのではないかと言う。三梨の仲間でもあるローズ・フラットの住人達は、実は体のどこかにハンディキャップを持っている。そして三梨もまた。しかし、誰もそんなことは気にしないし、人のことも気にしていない。 「眼の数なんて数えても意味がない。」 「このアパートの連中は人をみて、ただ「人」だと感じる。それだけなのだ。」 ミステリーとしての面白さだけでなく、人としてのありようも教えてくれる、そんな作品に仕上がっていると思う。○ランキング今何位? ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」(本記事は、「本の宇宙」と同時掲載です。)
July 17, 2010
樋口有介といえば、ちょっと斜に構えた中年探偵の活躍する「柚木草平シリーズ」が有名だが、「林檎の木の道」や「風少女」などの青春ミステリーもなかなかいい。この「プラスチック・ラブ」(東京創元社)もそんな青春ミステリーの一つである。○「プラスチック・ラブ」(樋口有介:東京創元社) この作品は、短編集であり、主人公はどれも、木村時郎という高校生だ。面白いのは、話毎にヒロイン役を務める、彼の彼女が違うということ。別に、時郎が彼女をとっかえひっかえしている訳ではないようで、それぞれ、設定を変えて、仕切り直しをしている感じだ。だから、それぞれの話の間には、前後関係はないし、関連性も無いようである。冒頭に書いたように、分類としては青春ミステリーということになるのだろうが、必ずしもすべての話をミステリーとは呼べないかもしれないだろう。しかし、収録されている、各話とも、青春のほろ苦さというものを感じさせてくれる。 掲載されているのは、以下の8編。・雪のふる前の日には・春はいつも・川トンボ・ヴォーカル・夏色流し・団子坂・プラスチック・ラブ・クリスマスの前の日には 登場人物は、家族や友人に問題を抱えているのだが、殆ど言いがかりに近いような彼女たちの頼みにより、時郎が首をつっこんでそれなりの解決をしていく。彼は、作中では、「ネクラでクールで皮肉屋だが、意外とボランティア体質」の少年として描かれてくる。実は、柚木草平も表題作「プラスチック・ラブ」にゲスト出演と言った感じで登場するのだが、彼が子供の頃は、きっと時郎のような感じだったんだろうなということを思わせる。もしかすると時郎も柚木草平の分身として、作者はイメージしているのかもしれない。 ところで、読んでみて、いくつか公孫樹が情景描写として使われているシーンがあることに気付いた。 「立ちあがって、ぼくは公孫樹の舞う空を眺めてから、美波のマフラーをつまんで、軽く上にひっぱる。」(プラスチック・ラブ) 「自転車を押している里奈子の背に、ひらりと公孫樹の葉がふりかかる。」(クリスマスの前の日には) 情景が目に浮かぶようで、いかにも青春時代の思い出というようなものを良く表現しているのではないだろうか。○ランキング今何位? ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」(本記事は「本の宇宙」と同時掲載です。)
July 11, 2010
三津田信三によるホラーミステリー、「厭魅の如き憑くもの」(講談社)。怪奇幻想作家・刀城言耶(とうじょう げんや)シリーズの第1作に当たる。○「厭魅の如き憑くもの」(三津田信三:講談社) この作品の舞台は、神々櫛村(かがぐしむら)という、迷信と因習に支配された場所だ。村は、谺呀治家と神櫛家村を頂点にして、宗教的な関係と土地の親方・子方という二つのの関係により、複雑な勢力関係が絡み合っている。谺呀治家は、憑き物筋の家系で、代々憑き物を払う巫女と憑座(よりまし)を輩出していた。村には、至る所に、カカシ様と呼ばれる信仰の対象が祀られており、不気味な雰囲気を醸し出している。そして、厭魅(まじもの)と呼ばれる妖異が徘徊すると言われており、神隠しなどの怪異にも事欠かない。この村で、次々に怪死事件が発生し、被害者はカカシ様の格好をさせられていた。 この小説は、ホラー・ミステリーであるが、最初は、ホラーとしての性格が非常に強く、以前読んだ「凶宅」のような100%ホラーものかと思った。だが、読み進めていくうちに、次第に、ミステリーとしての側面が強くなってくる。次々に起こる、不可思議な事件は、結局は、刀城言耶により説明がつけられ、事件を起こしていた犯人も明らかになるのだが、完全な解決ではなく、最後に少しばかりホラーの部分を残しているのが大きな特徴だろう。 ところで、表紙イラストの美少女がとても目を惹く。美しくも、どこかぞくりとする怖さを秘めている。これはこの作品のヒロインとなる谺呀治家の紗霧だろうか、それとも双子の姉の小霧だろうか。いずれにしても、この作品によく合っている。○ランキング今何位? ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」(本記事は、「本の宇宙」と同時掲載です。)
July 4, 2010
春期限定いちごタルト事件 表紙イラストの感じが気になり買ってみた「春期限定いちごタルト事件」(米澤穂信:東京創元社)。○「春期限定いちごタルト事件」(米澤穂信:東京創元社) 主人公は、小鳩情吾朗と小山内ゆきの二人。二人とも、高校に合格したばかりだ。二人は、恋愛関係にある訳ではないが、共に小市民を目指すための互恵関係にあり、よくいっしょに行動をしている。なにゆえに、二人はその若さで、小市民などを目指しているのか。実は二人とも頭は切れるのだが、どうも中学校の時に、いろいろあったようで、目立たない小市民こそが理想だとの結論に達したようである。 実は、小山内さんは、小学生でも通るちっちゃな体で、引っ込み思案な生徒を装っているが、自分に危害を加える者を徹底的に仕返しをするのが大好きであり、そのためなら、スパイまがいのことも朝飯前のようだ。小鳩君に言わせれば、 「ぼくが狐だったとたとえるなら、あれは昔、狼だったんだ。」ということらしい。そして、小鳩君は、狐というだけあって、智恵を働かせて推理をするのが得意なようだ。中学生で狐だの狼だのというのも大げさだと思うのだが、この作品は、そんな二人が、身近に起こった事件を、「小市民たれ」というモットーに反して解決していくというものだ。 もっとも、事件と言っても、小市民を目指す高校生のこと、出会うのは、たわいもないものが多い。全体を通しては、小山内さんが、春期限定のいちごタルトを、積んでいた自転車ごと盗まれたというのがメインの事件なのであるが、その他にもちょこちょこと、小さな事件が挿入されている。しかし、それもポショットが盗まれたとか、どうやっておいしいココアをつくったのかといった極めて小市民的なものである。もちろん、小市民なので、ミステリーにつきものの殺人事件などは出てこない。 小市民を目指しても、どうしてもなりきれない二人をコミカルに描いた、とても面白い青春ミステリーといったところで、一遍で虜になってしまった。イラストも、この作品のストーリーにぴったりで、作品に魅力を添えている。○ランキング今何位? ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」
June 28, 2010
それぞれ忍者の子孫なのだが、大したとりえのない神社の後継ぎの鴨志田甲斐(ただし、誰かが危ない時に一時的に忍者の技が出ることがある)、記憶力抜群で死んだふりの得意な現役東大生巫女の中村貴湖、そして、大事なことはすぐ忘れるくせにつまらないことはよく覚えているという特技を持った甲斐の高校の同級生の柏木竜之介の3名が活躍する「カンナ」シリーズの最新巻「カンナ 鎌倉の血陣」(高田崇史:講談社)。○「カンナ 鎌倉の血陣」(高田崇史:講談社) 読者にはお馴染みだろうが、この「カンナ」シリーズは、同じ作者のQEDシリーズと同様、歴史上の謎と現在に起こった事件を絡めて、同時並行で解いていくという形の歴史蘊蓄系のミステリーである。タイトル名から分かるように、今回の舞台は、古都鎌倉。源頼朝が鎌倉幕府を開いた土地である。 私が高校生くらいの頃は、「いい国(1192)つくろう鎌倉幕府」という語呂合わせもあり、頼朝が鎌倉幕府を開いたのは、1192年だと教えていた。最近は、これにも諸説あるようだが、父の義朝が平治の乱で敗れたために、伊豆に流されていた頼朝が、北条氏などの助力を得て、平氏を破り、12世紀の終わりごろに鎌倉に幕府を打ち立てたことは誰もが知っている。しかし、この頼朝に始まる源氏の将軍家も頼家、実朝とわずか三代で絶え、その後は頼朝の妻政子の実家である北条氏が執権として実権を握ったことも周知の事実である。 しかし、この源氏3代の死には、大きな謎がつきまとう。頼家、実朝は暗殺と言っても良いだろうし、頼朝にしてもその死因には多くの説がある。そして、昔から不思議だったのは、「尼将軍」と呼ばれて絶大な権力を持っていた頼朝の妻・北条政子が自分の子や孫が滅んでいくのに、何の手も打っていないように見えることであった。 この本の話に戻ろう。今回は、甲斐は婚約者の海棠聡美といっしょに、加賀美宗朝という人物の主宰するお茶会に出席するために鎌倉を訪れる。貴湖と竜之介も別ルートでこの茶会に招かれて出席するのだが、その会で宗朝が何者かに殺害されたのである。宗朝は、鎌倉幕府の源氏三代について調べていたらしい。ということで、宗朝の事件と頼朝らの死の謎とが絡まった事件にいつもの3人組+聡美は関わっていくことになるわけだ。 このシリーズ最初のころは、貴湖の死んだふり以外はほとんど取り柄のなかった3人組だが、巻が進むにつれてレベルアップしていくようで、この巻では、甲斐も貴湖もだいぶ忍者らしくなってきた。もっとも竜之介だけはあまり進歩が見られないようだが(笑)。 この巻にも、QEDシリーズから棚旗奈々がゲスト出演のような形で出ている。加賀美宗朝の茶会に出席していたという設定だ。この巻では、奈々のことを次のように描写している。 「美人というわけではないが、しとやかそうで、とても魅力的な雰囲気を持った女性だった」 おそらく、QEDシリーズから読んできたファンにとっては、棚旗奈々はすごい美人だというイメージができていたのではないだろうか。何しろ、名前から、七夕のおり姫にちなんだような名前なのである。ところが、このシリーズでは、魅力的という注釈つきにしても、はっきりと「美人ではない」と断言している。ファンとしては複雑な気持ちになるだろう(笑)。 ところで、この巻では、貴湖が大学を休学した理由が明らかになる。大学で師事しようとしていた教授の学問上の変説に失望してのようだが、奈々の話を聞いて、復学を決意する。その理由というのが、毒草師、御名形史紋のことを聞いたからというのが面白い。御名形史紋も今後このシリーズに登場してくるのだろうか。でも、彼が出ると、余りの存在感に、他の登場人物がすべてかすんでしまい、実質「毒草師」シリーズに変わってしまいそうだ。しかし、貴湖が復学すると、ズッコケトリオはこれからどうなるのだろうか。まさか代りに聡美が入る訳はないだろうし。○ランキング今何位? ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」(本記事は、「本の宇宙」と同時掲載です。)
June 25, 2010
「日々あらゆる病に罹って、こまめに死にかかっている」という「病の強者(つわもの)」である「若だんな」こと一太郎が活躍する「しゃばけ」シリーズ第6弾の「ちんぷんかん」( 畠中恵:新潮社)。今回は、ついに、若だんなが、あの世に行ってしまう!?○「ちんぷんかん」( 畠中恵:新潮社) 若だんなは、大店の廻船問屋兼薬種問屋である長崎屋の跡取り息子である。実は、この若だんな、祖母が「皮衣」という大妖で、妖の血をひいているため、妖怪たちが見えるという能力を持っている。しかし、その他には、特別な能力はなく、とても妖の血をひいているとは思えないような病弱さであり、日々死にかけて寝込んでいる。両親は、その若だんなにものすごく大甘なのだが、その他にも長崎屋には正体は強力な妖怪である仁吉、佐助という手代が、過保護という言葉では言い足りない位の世話を焼いているのだ。しかし、これだけ甘やかされているにも関わらず、若だんなの心はとても優しい。だから、彼の周りには、多くの害のない妖たちが寄ってくるし、貧乏神でさえも、害を成すことができずに、福の神とならざるを得ない。 ところで、「火事と喧嘩は江戸の華」という言葉があるように、江戸は火事が多かったことで有名である。この「ちんぷんかん」の冒頭も、火事の場面で始まっており、何と長崎屋が焼けてしまい、その火事騒ぎで煙を吸った若だんなは、なんと三途の川の賽の河原に行ってしまう。そして、その火事騒ぎをきっかけに、若だんなの異母兄である松之助の縁談話が進んでいくというのが、この巻の大まかな流れだ。全体は5つの短編からなっているが、全体で一つの大きな物語を構成するという連作短編となっている。収録されているのは、以下の話。○鬼と小鬼 火事で煙を吸って意識不明になった、若だんなは、賽の河原に行ってしまう。果たして、無事に生還できるのか。○ちんぷんかん 妖退治で名高い、広徳寺の高僧の寛朝の弟子となった秋英のお話。寛朝の命で、秋英は初めて、依頼者の相談を聞くことになるが、それがとんでもないことに。○男ぶり 若だんなの母親で、やはり妖の血をひくおたえと、父親の藤兵衛との馴初めの話。大店の美しい跡取り娘だったおたえが、どうして山ほどある縁談話にも拘らず、店の手代だった藤兵衛を選んだのか。○今昔 若だんなが、陰陽師の操る式神に襲われる。この式神騒動は、松之助の縁談相手の米屋の大店である玉乃屋と何か関係があるようだ。○はるがいくよ 兄が縁談が決まって、店を出ていくことになり、寂しい若だんなの前に現れた赤ん坊。それは、あっという間に成長して消えうせてしまう、桜の花びらの精だった。 それにしても、あいかわらず若だんなは優しい。賽の河原では、鬼に追いかけられているにも関わらず、知り合った男の子がずるをして、三途の川の渡し船に乗れなくなることを心配し、小紅と名付けた桜の花びらの精に対しては、なんとかこの世に留めておくことはできないものかと画策する。特に「はるがいくよ」は、しんみりとなりそうな話だったが、この若だんなの人情味が、読む人の心をほんのりと温かくする。○ランキング今何位? ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」(本記事は「本の宇宙」と同時掲載です。)
June 12, 2010
明治時代といえば、仏教にとって受難の時代だろう。廃仏毀釈の嵐が吹き荒れ、仏教は存亡の危機に瀕していた。そのような中、仏教最高のために、経典を求めて、チベットを目指した一人の青年僧がいたという。東本願寺を本山とする真宗大谷派の僧侶・能海寛(のうみ ゆたか:1869年(明治元) - 1903年(明治36))だ。 「暁の密使」(北森鴻:小学館)は、この能海寛の実話をもとに、当時の混迷する世界情勢を絡めながら、北森氏の想像力で大きく膨らませて、歴史ミステリーとして仕上げたものである。○「暁の密使」(北森鴻:小学館) 能海が、西蔵(チベット)を目指したのは、日本が日清戦争に勝利し、遼東半島を割譲されるも、フランス、ドイツ、ロシアの干渉により、返還を余儀なくされた少し後のころだ。欧米列強は、アジアの覇権を争い、地勢の要である西蔵(チベット)に手を伸ばそうとしていた。そして、日本もまた、西蔵との同盟を目指していたのだ。 能海には、まったく私心はない。私心なく道を求めようとする者に、人は魅せられるものだ。中国人の揚用や、山の民の義烏、明蘭などの単なる友情以上とも言える助力により、彼は、ただひたすら、聖典を求めて、辛い旅を続けて西蔵を目指す。しかし、混迷する時代の波は、彼の意思とは無関係に、容赦なく能海を飲み込んでいった。彼は、知らず知らずのうちに、壮大な陰謀の重要な駒にされてしまっていたのだ。彼の周りには、阿片戦争の先鞭をつけたという、英国ジャーデン・マセソン社の影が付きまとう。 「不惜身命(ふしゃくしんみょう)」という言葉がある。もともとは、仏道修行のためには身命も惜しまないことだが、一時相撲の昇進の口上で四文字熟語が流行した時に、なんだか言葉が軽くなってしまった。しかし、この作品は、正に命を捨てて仏教復興を目指した男の物語であり、真の意味での不惜身命というものを教えてくれる。 最後に、作品中で気に言った台詞をひとつ紹介しよう。揚用に、存亡の危機に瀕している日本の仏教が、果たして経典ひとつで救えるのか、能海の命がけの行為が報われるのかと聞かれた時の彼の答である。 「たとえるなら・・・・・・・蒼天の月、とでもいっておこうか」 「・・・わたしが経典を求めて長い旅の途上にある。いや旅の途上にある拙僧がいることが肝要なのだ。一人の仏教者として」(pp30-31)○ランキング今何位? ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」(本記事は「本の宇宙」と同時掲載です。)
June 6, 2010
第6回(2009年) 本屋大賞の受賞作で、松たか子主演で映画化もされた「告白」( 湊かなえ:双葉社)。読み終ったらイヤな気持になるミステリーを指す「イヤミス」としても評判の作品だ。○「告白」( 湊かなえ:双葉社) 物語は、S中学校の1年B組の終業式の場面から始まった。クラスの担任の女教師、森口は生徒を前に、恐るべき告白をする。四歳で死んだ娘の愛美は、このクラスの生徒に殺されたというのだ。 この作品は、「第一章 聖職者」、「第二章 殉教者」、「第三章 慈愛者」、「第四章 求道者」、「第五章 信奉者」そして「第六章 伝道者」と全体で六つの章から成り立っている。そして、章毎に、語り手が入れ替わって、タイトルの表すように、それぞれが事件について「告白」する形でストーリーが進行していく。 この作品で最も特徴的なことは、全体を通して、強い母性原理が現れているということだろう。作品中では、3通りの母子関係が出てくる。殺された娘の敵を、とんでもない方法でとろうとする教師・森口、抑制された研究の道への気持ちが、我が子への虐待となって現れてしまう渡辺(犯人A)の母親そして、我が子を過保護に溺愛する下村(犯人B)の母親である。3組のどろどろとした母子関係に比べて、父親たちの影は余りにも薄い。 カミナリ親父という言葉があったように、昔の父親は、怖くて威厳があった。その一方で、母親は優しく子供に愛情を注ぐ存在だったのだ。父親からのロゴス、母親からのパトス、これらがうまくバランスしていたのではないだろうか。(もちろん、何事にも例外があることは言うまでもないが。) しかし、現代社会は、父性喪失の時代だ。母性のみが異常に肥大し、ゆがんだ母子関係を作り上げがちになる。パトス優位、ロゴス不在の時代、これが現代を表すキーワードなのかもしれない。そういった、現代社会のゆがみをこの作品は良く描き出していると言えるだろう。読者は、このゆがみに、いやな気持を抱きながらも、どんどんと作品世界に引き込まれていくのだ。 さらに、この作品は、犯罪を犯した者に対する少年法の壁の問題や、理性が発達していないために現れる本質的な子供の残酷さといったことにも問題提起をしているようにも思える。そして、ラストは、ここまでやるのかというような衝撃的な終わり方だ。正に、「イヤミス」としての真骨頂発揮というところだろうか。 最後にひとつ、作中の気に入った言葉を紹介しておこう。森口が熱血先生と問題を起こす生徒の事について話した時に言った言葉だ。 「道を踏み外して、その後更生した人よりも、もともと道を踏み外すようなことをしなかった人の方がえらいに決まっています。」 まったく当然のことだが、世間では、このことが忘れられていることが案外多い気がするのはどういう訳だろう。○ランキング今何位? ○姉妹ブログ・「文理両道」・「本の宇宙(そら)」(本記事は、「本の宇宙」と共通掲載です。)
May 29, 2010
「異形の者、街を往く。」 北森鴻の作品には、美貌の異端民族学者である蓮丈那智や、やはり美貌の女旗師である宇佐見陶子など強烈な個性の主人公が登場するが、この「深淵のガランス」(文藝春秋 )に登場する佐月恭壱もかなりの個性を持って登場してくる。何しろいきなり冒頭で、「異形の者」といった形容だ。痩身で総髪、濃紺の作務衣に白足袋、雪駄履き、肩にアーガールチェックのケープを羽織ると言ったかなり目立つ姿での登場である。しかし、不思議なことに、この異形が街にしっくりとなじんでいるようで、道行く人々には異形と感じられないようである。○「深淵のガランス」(北森鴻:文藝春秋 ) 彼は、二つの顔を持っている。花師と絵画修復師だ。まず、花師の方であるが、こちらは、客の注文に応じて、花を飾るのが仕事だが、「花屋」ではない。花は店を選び、彼は、その花の声を聞いて店に相応しい花を選ぶのだということで、彼は、あれこれと注文をつけてくる客の依頼は断ってしまうという、かなり頑固な面を見せている。しかし、この作品で、彼がその能力を十分に見せつけるのは、もう一つの顔である絵画修復師の方である。 この本は、短編集であり、収められている作品は、次の3つである。簡単に紹介してみよう。○深淵のガランス 佐月は、長谷川宗司の絵の修復を孫娘の北条真弓から依頼されるが、その絵の下にはもう一つの絵が隠されていた。ところが、矢島誠一郎と名乗る男が現れ、あの絵は自分が必ず買い取るので、真弓から依頼を断って、あらためて自分からの修復依頼を受けて欲しいと言う。○血色夢 佐月は、多田という男が発見した、古代の洞窟壁画の修復を密かに依頼される。一方彼が4か月前にウォッシングした佐々木兵衛の絵を巡って、何か不穏な動きが。その絵は4分の1だけが真作だったのだ。○凍月 とある喫茶店を訪れた佐月は、そこに飾ってある星崎静峯の絵を洗わせて欲しいと提案する。佐月がまだ駆け出しのころの物語のようだ。 この作品を読んで驚くのは、絵画修復について、非常によく研究してあり、それが作品に反映されているということだ。絵画の構成や実際の修復の技術、分析の手法など、微に入り細に入り表現されており、肝心の小説としての筋書きばかりでなく、そちらの方でも好奇心を刺激してくれる。いったい、北森氏は、ひとつの作品を仕上げるためには、そのモチーフについて、どのくらい研究していたのだろうかと、作品の裏にある膨大な努力には頭が下がる思いだ。 ところで、この短編集には全体に「赤」の色調が流れている。「ガランス」は赤系統の絵の具のことだし、「血色夢」では、赤い顔料辰砂が重要な役割を果たす。「凍月」では、直接の赤は示されていないが、絵の持ち主の兄が撲殺されており、赤い血を連想させる。おまけに、作品に登場する、表向きは貿易商だが、裏社会の顔役でもあるという男が「朱」建民と言う名前なのだ。絵画修復は、一歩間違えば贋作事件に巻き込まれかねないという危うさを持っているようである。「赤」は血の色、不吉な色だ。全体のトーンを血の色で統一し、絵画修復という世界の危うさを表現したのであろうか。 また、北森氏の作品には、別のシリーズの登場人物が顔を出すことが多い。なぜか、名前は出てこないが、この作品にも明らかに宇佐見陶子と思われる人物が佐月と絡んでくる。もっとも、冬狐堂シリーズで出て来た彼女よりは、ずっと妖艶な感じになっているのだが。更に、彼女の話の中で、こちらも名前は言わなかったが、蓮丈那智のことにも触れられていた。こういった、作品間のクロスオーバーも北森作品の魅力の一つだろう。○ランキング今何位? ○姉妹ブログ・文理両道・本の宇宙(そら)(本記事は、「本の宇宙」と共通掲載です。)
May 14, 2010
駆け出しの女性小説家ジャニスと中国系の美女でジャニスの義妹のリリーが巻き込まれた事件を解決していくという、ジャニス&リリーシリーズの、「翡翠の家」、「珊瑚の涙」に続く第3弾「金の羽根の指輪」(ジャニータ・シェリダン/高橋まり子:東京創元社)。○「金の羽根の指輪」(ジャニータ・シェリダン/高橋まり子:東京創元社) 続きはこちら(「本の宇宙」に掲載)○ランキングの順位は? ○姉妹ブログ・文理両道・本の宇宙(そら)
April 4, 2010
高田崇史の「カンナ」シリーズの5巻目で、現在のところ最新刊である「戸隠の殺皆」。現代の事件に歴史の謎を絡めて、それを忍者の子孫である3人の若者が解決していくという、ちょっと変わった設定の、歴史系蘊蓄ミステリーである。もっとも、一番役に立っているのは、彼らに同行する忍者犬の「ほうろく」のような感があるのだが。この「ほうろく」、洋犬のミニチュアブルテリアなのに忍者なのだ。○「カンナ 戸隠の殺皆」(高田崇史:講談社 ) 中心となって活動するのは、大したとりえのない神社の後継ぎで主人公の鴨志田甲斐(ただし、誰かが危ない時に一時的に忍者の技が出ることがある)、記憶力抜群で死んだふりだけは得意な現役東大生巫女の中村貴湖、そして大事なことはすぐ忘れるくせにつまらないことはよく覚えているという特技を持った柏木竜之介の3人プラス忍者犬のほうろくである。高田崇史の歴史系蘊蓄ミステリーというと「QED」シリーズが有名だが、この「カンナ」シリーズはあれほど濃い味付けではなく、さっぱり薄味感がするので、どっぷりと「QED」の世界に浸かった人には、多少物足りない思いがするかもしれない。こちらのシリーズの特徴は、とにかく忍者がいっぱいという感じで、色々な系列の忍者の末裔たちがたくさん出てくる。もっとも、派手な忍法と言ったものは出てこないのだが。 今回、甲斐たちが訪れたのは戸隠。戸隠と言って思いだすのは、戸隠流忍術、天手力雄命の投げた天の岩戸の落ちたところ、そして鬼女紅葉の伝説である。この作品の性格からいって、当然のことながら戸隠流忍者の末裔は出てくるし、あとの2つもちゃんとモチーフとして織り込まれている。 この物語のもっとも大きな謎は、甲斐の実家である出賀茂神社から盗まれた社伝「蘇我大臣馬子傳歴」。何か日本の歴史を覆すような事実が書かれているらしい。この社伝、甲斐が兄ともしたう諒司がとり返したのであるが、なぜかそのまま失踪してしまった。諒司の行方を訪ねて甲斐たちが、色々な歴史上の謎の残る地を訪ねるというのが、このシリーズの基本的なパターンである。 今回、甲斐たちは、戸隠で波多野村雲流の連中に襲われ散々な目に遭う。彼らも社伝を追っているのである。いったい、社伝には、どんな謎があるのか。今回もその謎はお預けであり、これからの展開に目が離せない。 面白かったのは、エピローグで、貴湖と甲斐の許嫁である聡美が、甲斐を挟んで、空中戦をやったこと。聡美の貫禄勝ちのような感じだったが、この聡美、だんだんとこのシリーズの中で存在感が大きくなってきているのだが、一体どんな役割を持ているのだろうか。一方、甲斐も、だんだんと隠された能力が目覚めてきているような感じで、このあとどう変わっていくのかも気になる。 ところで、表紙イラストの「天照大神」、「三蔵法師」に見えるのは、私だけだろうか?○ランキング今何位? ○関連過去記事・カンナ 奥州の覇者○姉妹ブログ・文理両道・本の宇宙(そら)(本記事は、「本の宇宙」と共通掲載です。)
March 24, 2010