淋しい狩人
久しぶりに、宮部みゆきの現代ものを読んだ。「淋しい狩人」(宮部みゆき:新潮社)である。東京の下町にある古本屋の田辺書店を舞台に、本に関係した事件を扱った連作短編集である。「淋しい狩人新装版」(宮部みゆき:新潮社) 田辺書店のイワさんは、会社を定年後、故人となった親友の店の雇われ店主となった。親友の息子は刑事だったので、父の店をのこして欲しいという願いに、イワさんに白羽の矢をたてたという次第だ。毎週末には孫の稔が泊まり込みで来て店を手伝ってくれる。このイワさん、定年後の雇われ店主とは思えないくらい、古本屋のおやじが板についているが、どういうわけか、本に関連する様々な事件に遭遇する。 収録されているのは次の6編である。○六月は名ばかりの月 以前に妙な男に付けられていたというので店に匿い、家まで送り届けた鞠子の結婚式で、引き出物として用意した小説の表紙にいつの間にか、真っ赤な字で「歯と爪」といういたずら書きがされていたという。○黙って逝った 父親の遺品にあった、300冊もの同じ本。本の名前は「旗振りおじさんの日記」○詫びない年月 独居老人を訪問しているヘルパーの淑江さんから聞いた、柿崎家の幽霊の話○うそつき喇叭 小学校低学年の子供が、田辺書店で万引きを。その子が盗ろうとしたのは、「うそつき喇叭」という童話。その子の体には、虐待と思われる痕跡が。○歪んだ鏡 OLの久永由紀子が電車で拾った本に挟まれていた名刺の謎は。○淋しい狩人 未完のまま、作者が行方知れずになった小説「淋しい狩人」。その続きを現実世界に移したという殺人事件が発生する。 これらの謎を、イワさんと稔が解決していくのだが、これらの謎解きの話に、稔と年上の女性との恋愛話などが絡んで、なかなか面白い短編集にまとまっている。殺人事件なども絡んでいるが、小説の調子としては、それほど重い感じはないので、徒然に任せて読むのにはよいだろう。○応援クリックお願いします。 風と雲の郷 別館「文理両道」はこちら風と雲の郷 貴賓館「本の宇宙(そら)」はこちら