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株式会社SEES.ii

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2017.09.27
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ss一覧   短編01   短編02

―――――

 10月2日。午前11時――。
 名古屋市中村区にある、高級ブランド・貴金属のリサイクルショップチェーン《D》の
エリアマネージャーである岩渕誠は、名古屋市立大学病院に隣接する精神科・心療内科の
診療所《ユウリクリニック》の診察室のメディカルスツールに座っていた。
「……今日もありがとうございました。おかげ様で、また少し楽になった気がします」
 岩渕がそう告げると、目の前の女は嬉しそうに微笑み、フーッと長い息を吐いた。
「気分が滅入ったり、悪くなったりしたら、遠慮なく仰って下さいね。……岩渕さんに何か
あれば、京子様に怒られるのは私なんですからね」
 女の子供っぽい仕草がおかしくて、岩渕も思わず微笑んだ。
 女の名は永里ユウリ。ユウリは悠莉と書いたようだが、忘れてしまった。診察では先生と
だけ呼んでいる。

 伏見宮京子の半ば強引な紹介で《ユウリクリニック》に通うようになったのだが、永里の
細かい気配りや医療知識の豊富さには感心させられていた。
「岩渕さん、すぐ帰られます? もし時間あるんなら、お食事でもご一緒しませんか?」
「食事?」
「ええ。私も今からお昼休憩なので、ひとりじゃつまらなくて……。今日はお仕事お休みで
すよね? いかがですか?」
 男への警戒心が微塵も感じられない口調で永里が言う。……京子の紹介、という背景も
あるのだろうが……な。
「仕事は休みだけど、用事がありまして……ちょっと人を待たせていますから」
「……京子様ですか?」
「ええ……まぁ、いろいろです」
「いろいろですか……では、また次の機会に……」
 永里は本当に子供のような動きで両手を合わせ、微笑んだ。
「……では、失礼します」
 会釈をし、立ち上がり、私物のトートバックを肩にかけ、岩渕は診察室を出て行った。
会計を済ませ、靴を履き、クリニックの自動ドアを抜け、駐車場に向かう途中――岩渕は
首を回し、背後に建つクリニックを眺めた。

 ――これまでの30余りの人生で、岩渕は多くの人々と知り合った。その中には何人もの
大富豪たちがいたが、そのうちのひとつとしてこの永里家を超える家は少ない。不動産・
医療・介護・ゴルフ関係・警備・飲食・服飾・出版・運送……永里家は東海3県に事業を
展開する多角経営企業の中枢であり、多くの株式を保有する資産家でもある。純粋な資産、
カネの量で考えれば伏見宮家を簡単に超える……京子と縁があるのも、自然な流れでのこと
なのだろう。……どちらが先に近づいたかまでは知らないが。
 ……しかし……彼女自身、働く必要があるのか? 
 岩渕は思い出した。《ユウリクリニック》の外観は洋風でオシャレで品があり、内装は
清潔で美しく落ち着いたデザインが施されていたことを。何気なく飾られていた花瓶やアート
作品はそれ単体でかなりの値打ちモノだということを。勤務する精神科医や事務員のスタッフは
誰もが優秀で、若く、美しかったことを。詳しく尋ねたことはないが、永里ユウリの年齢も若く、
精神科医としても優秀らしいということを。

 金持ちで、若く、賢く、美しい――イイ女だな。岩渕は思った。だが、それだけだった。
彼女を手に入れたいとか、抱きたいだとかは思わなかった。

 車のドアを開き、乗り込み、シートベルトをし、バックミラーとサイドミラーをチラりと
見て、エンジンを動かしてサイドブレーキに指をかけた時――ふと、助手席に置かれていた
《ユウリクリニック》のパンフレットに視線をうつす。そこには、美しく微笑む『クリニック
代表 永里悠莉』の写真がプリントされていた。
 ……アイツにももう少し、永里先生みたいな色気があればな……今度、クラブにでも一緒に
行くか……。錦や栄の高級クラブで慌てふためく姫君の様子を思い浮かべながら、岩渕は
そっと微笑み、アクセルを踏んだ。ついさっき、自分を食事に誘った女のことなど、もはや
チラリとも思い浮かべはしなかった。

「……少し遅れそうだが……行けるか?」
 修理を終えたばかりの、フィアット500にそう尋ね、さらにアクセルを深く踏み込む。
かの大怪盗にも愛されたイタリアの名車が、嬉しそうに車輪を回す――。

―――――

 伏見宮京子は名駅地下から北口へと昇り、西交番へと向かうために歩いていた。
 本当は『ゆりの噴水』の前で待ち合わせしたかったのだが、岩渕に「ダメだ」と言われた
ので、しかたなく交番前まで歩く。
 退院したとはいえ、彼の精神状態のことを考える。いつ、どこで、何がきっかけで、彼の
精神バランスが崩れるかは原因不明のままだ。もしまた、そんなことになったら、今度は
どうなってしまうのか……。

『……祓えたまい、清めたまえ、神ながら守りたまい、さきわえ給え』
 神道、神への言葉を心で紡ぎ、祈る。けれど、個人のためだけに祈っても良いものなのかが、
正直、わからない。ううん……少し、違う。万人のための祈りが、彼個人に届きさえすれば
いいのだ。……そう思い、また祈る……祈り続ける……。

 交番に着くとすぐに岩渕から電話があった。
『……今、運転中、遅れてすまない』
「そんなことより、運転、気をつけてくださいよ?」
『ああ。安全第一だ』
「うん。……では、待ってますね」

 ビックカメラの前にある『ゆりの噴水』前では、大勢の若者たちが待ち合わせのために
立ち並んでいる。無事に巡り合えた恋人たちが手を繋いで名駅の中に消えていく……。
 かつては――そういう、恋愛や、友情や、信頼を育む人々に対して羨望の眼差しを向けて
いたことを、京子は思い出しかけた。……それはもう、ずっとずっと昔のことで、子供の
ころの記憶だからだ。今の京子には、会いたいと思う人や、話したいと思う人々、守りたい
と思う人々がいた。京子を必要とする人も、皇族としての自分を必要とする人々も、今では
大勢いた。

「……岩渕さんと《D》だけは、特別だけどね」

 それはただ、何となく――。
 そう。何となく、何も考えることなく、ただ無意識のままに呟いた一言だった。
 けれど、生を受けた時点で国のために生き、民のために祈ることが宿命とされた者に
とっては、『ただ、何となく』では済まされない一言だった。
 そして――……
 ――自分が呟いてしまった言葉の真意に、京子は身を震わせた。


 名駅北口の自動ドアが開く。そこから岩渕が現れてこちらに真っすぐ歩いて来る。好み
だと言う桃太郎ジーンズにBEAMSの長袖のシャツ……京子が意識し終えた時には、もう、
彼女は岩渕の腕にすがりついていた。
「……すいません、岩渕さん。せっかくの休みだったのに、私が無理に誘ってしまって……」
「いいよ、そんなこと。……ヤボ用もあるしな」
 ほんの数秒前まで――自身の心にドス黒く広がっていた不安や恐怖が、まるで嘘であった
かのように晴れるのがわかる。泣いてしまいそうな気持ちをぐっと抑える。

「……ヤボ用って、何?」
 腕を離すと同時に聞き、同時に歩き出した。
「《テーラーチクサ》に行って新しいスーツの受け取りだ」
「……服屋、さん?」
「正確には服飾屋、だけどな」
「ふうん……どういうところなの?」
 彼は32歳だが、今はまるで私と同年代の青年のようだ。きっと《D》で働くみんなは、
こんな彼を見たことがないのだろうとも思う。
「……狭くて、汚くて、どうしようもない主人と家族が経営してる、貧乏くさい店」
 岩渕が楽しそうに笑い、京子も微笑む。
「それ、本当ですか?」
「だいたいは、な。実際は、奥さん思いのイイ主人だよ。……京子にも、紹介したいな」
 嬉しかった。彼の言葉すべてが嬉しかった。歩きながらもう1度、腕を絡める。すれ違う
人々からの視線を受ける。……恋人同士に見える、よね? 京子は同じ言葉を何度も何度も
心の中で繰り返し――また腕を強く抱き締める。

 どうにかなってしまいそうだった。どうにかなってしまいそうなほど――
 ――私は彼を愛しているのだと思う。

―――――

 奪われたのだ。
 何を? 誰に? どうして?
 幸せ。俺以外のヤツすべて。強引に、剥奪されたからだ。
 
 奪い返すのだ。
 何を? 誰から? どうして?
 幸せ。俺以外のヤツすべて。それが、権利だからだ。

 仇を討つのだ。
 何の? 誰を? どうして?
 幸せ。俺以外のヤツすべて。汚され、犯され、殺され、捨てられたのは俺自身の幸せ……。
俺は、俺自身の仇を討つのだ……それは、当然の権利だからだ。

 
 佐々木亮介は自身が生まれてからずっと住んでいる名古屋市郊外の木造アパートの一室で、
床の上で鈍く光るアタッシュケースをぼんやりと眺めながら、また、ふと、これらがこれから
引き起こすことを考える。いずれ、この名古屋の街を覆い尽くすはずの凄まじい恐怖と混乱、
絶望と戦慄とのことに考えを巡らせる……。
 心の底から湧き上がる怒りと憎しみに、佐々木はただ、その身を委ねた……。

―――――

 『激昂するD!』 bに続きます。








                      本日のオススメコーナー!!!
          なんか懐かしい……→​ORESAMA / Trip Trip Trip ​   ​
     カワイイんだが……う~む……→​ORESAMA / ワンダードライブ
        こだわりが強そうな……→​ORESAMA / 乙女シック
      
       ​ORESAMA(オレサマ)さん。長野出身の男女ユニット。……たまたまド深夜に
      放送されてたアニメ「グルグル」の主題歌流れてるの見て興味湧きました。懐かしい
      レトロ調のイラスト通り、90年代風?のテクノポップを多用されているような……
      とにかく――懐かしいな、ていう感想。ボーカルのぽん氏はカワイイし、相方の小島
      氏は演奏も上手(歌唱修正ヤってんのかもだけど)、「うとまる」さんのイラストも
      とにかく素晴らしいっ!! 必見すっ!!




 お疲れサマです。seesです♪ 
 ……seesが当初構想していた物語とはかなり乖離した内容になっております。
 理由は単に「まだ、ムリ」だからです。長編ならクリアできる課題を短編にまとめるのは、
思った以上にしんどいスね。まぁ、今回の話もそれなりに考えたモノですので、気楽に、何も
期待せず、淡々と読み流していただければと思います。
 短編02の失敗を反省し、1話目からゆったり仕様ですw 特に今話はプロローグ調で短めです。
いろいろと展開するのは3話目以降ですかね……。年内完成がメドですが……まぁ、しかし、
思い出しますねえ……​『愛され者』​をww表現使いまわし疑惑? ……勘弁してね💦
 
 ……余談ですが、松居一代氏の愛車のフィアット、カッコエエなぁ……あのカラーを選択
するとは……イイ~センス❕❕
 
 でわでわ、ご意見ご感想、コメント、待ってま~す。ブログでのコメントは必ず返信いたし
ます。何かご質問があれば、ぜひぜひ。ご拝読、ありがとうございました。
 seesより、愛を込めて🎵
   



 ↓ORESAMAさんのオススメ。たまには、どうですかね……?
   

こちらは今話がオモロければ…ぽちっと、気軽に、頼みますっ!!……できれば感想も……。

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 好評?のオマケショート 『……個人的には、コーラ社よりも伊藤園なんだが』

 コーラ   「😓……あーseesさん、イイーところに」
 sees    「どーされまったか?」
 コーラ   「あー自販機の入れ替えなんスけど……何か希望あります?」
        そう。社内用の自動販売機、中身入れ替えの時期到来なのだ。
 sees    「んー……と、どうせなら新しいの飲みたいスからね😊……」
 コーラ   「空きは……10種16点、すね。……決めてもらってイイすか?」
 sees    「しゃーないすね。んじゃー……コーラとスプライト、ジンジャエールと
        ファンタオレンジそれぞれ2点で、炭酸はこれでエエやろ」
 コーラ   「コーヒーはどうします?」
 sees    「ワシ、コーヒーあんま飲まんし(付き合いは別)、ジョージア2種類適当で」
 コーラ   「はいはい……。お茶は?」
 sees    「……ウーロン茶と綾鷹、て……紅茶花伝のホットも🔥」
 コーラ   「あと……1つスね」
 sees    「んーん……じゃあ、リアルゴールドでww」
 コーラ   「あざぁーす」
        ………
        ………
        ………
        後日、自販機の前で、ちょっとした騒ぎになったのは、言うまでもなく……。
 次長    「おいっ! ファンタグレープがないやないかっ!!!💢」 
 総務課長  「ちょっとっ! コーラゼロないじゃないっ! どういうことっ?💢」
 課長    「からだ巡茶がないどー……😢」
 一同結論  「炭酸ばっかでコーヒーが少ない💢 誰や決めたのっ!!!!💢」
        
        ……『ワシです』と言えんなこの空気。まさかファンタグレープにあん
        なにファンがいたとは……わからん(東海地区では昔からオレンジ派が
        主流というデータもあるらしいし、実際、seesもオレンジ大好き)。
        強制の新製品は入ってるし、コーヒーも適当でいいと思ったのだが……。
        てゆーかコーラとウーロン茶さえあればイイと思うケドなぁ……。
         ……からだ巡茶なんて飲んだこともない……ウマイのか?

                                   日本茶ビールコーヒー





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Last updated  2017.09.29 01:34:32
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