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韓国ポスト朴政権で「反日」はさらに加速する 2016-12-18 富坂 聰 東洋経済オンライン 退陣デモが吹き荒れるなか、退陣を表明した韓国の朴槿恵大統領。しかし逆風下にもかかわらず、日韓の防衛情報を共有するGSOMIA(ジーソミア、軍事情報包括保護協定)に署名したことが、韓国内でさらなる反発を呼び起こしています。
なぜ、このタイミングで韓国は必死になってGSOMIAを締結したのか? その背景に見え隠れするのは、日本のニュースでは決して報じられない「米国VS中国」の国益をかけたぶつかり合いです。 『トランプvs習近平 そして激変を勝ち抜く日本』で、その「戦い」の行方を描き出した富坂聰氏が、「朴政権後」の韓国はいったいどうなるか、そこで日本はどうすべきかを書き下ろします。
■慰安婦問題で圧力を強めていた朴政権が一転……
2016年11月23日、日本と韓国がGSOMIAに署名したニュースを受けて、韓国国内では協定に反発する市民のデモが続いている。
日韓の防衛情報を共有する基礎となるGSOMIAが難産であることは明らかだ。かつて李明博政権が2012年に締結を試みたものの、署名のわずか1時間前に日本側に延期を要請してきた、という事件が蘇ってくる。
韓国の朴槿恵大統領が側近の占い師に国家機密を漏洩し、大統領職にとどまることが難しくなるという強い逆風のなか、国内で強烈な抵抗に合うことがわかりきっているGSOMIAを必死に締結したのは、なぜなのか。
そこには明らかに、米国の力が働いていたとみるべきだろう。のちにも触れるが、中国との関係を犠牲にTHAAD(サード、高高度ミサイル迎撃システム)配備に踏み切ったこと、また国内にハレーションが起きることを承知で日本との日韓合意に踏み切ったことなど、いずれも従来の韓国であれば考えられない選択をしているが、その裏側に米国の世界戦略があるというのは、中国や欧米メディアでは頻繁に指摘される。
サード配備問題で“限韓”
前政権の振る舞いを思い出しても、政局の観点からは、できれば避けて通りたいというのがGSOMIAだ。国民に人気のない日本との接近を印象づけるような選択は、求心力のある政権ですら先送りしたくなる問題である。つまり、何らか別の力、具体的には米国という強制力が働いていなければ、締結に至ることは間違いなくなかったといってよい。
そもそも朴大統領は、2015年末の日韓合意で安倍首相が慰安婦問題について「心からのおわびと反省の気持ち」を表明したにもかかわらず、あらためて謝罪の手紙を要求した韓国の元慰安婦支援団体に同調。日本に対し“新たな謝罪”を求めるなど、歴史問題をめぐって圧力を強める姿勢をみせていた。
そのことひとつとっても、GSOMIAへの署名によって、国家間の対立にますます拍車がかかっただろうことは、想像に難くない。
■サード配備問題で“限韓”に踏み切った中国
これはある意味、サードの韓国国内配備問題と同じ――といってもGSOMIAは韓国にとってもメリットが大きいのだが、サードはそうではない――構図だといえるだろう。
サードは、敵が撃ったミサイルを高高度で迎え撃つためのシステムである。韓国は北朝鮮の核開発とミサイルの脅威に対して「配備は必要」としてきたが、実は、サードは高高度のミサイル対応で、北朝鮮が主力とする改良型スカッドミサイルなど低高度のミサイルを打ち落とすことができないシステムなのだ。
迎撃ミサイルの射程が200キロメートルであることから、配備の候補地である星州からは、首都ソウルに届くミサイルにすら無力だ、と反対運動が盛り上がった。
一方、このシステムはロシアおよび中国には非常に有効な迎撃ミサイルシステムであり、なかでも2000キロメートル先のゴルフボール大の物体まで探知できるXバンドレーダーは、中ロの地上発射型ミサイルを丸裸にするとまでいわれるほど、大きな効果を発揮するとされる。
だからこそ、中国のサードに対する反発は過剰といえるほどで、韓国に対しては「経済制裁も辞さない」という構えで対抗しようとしている。
慰安婦問題の裏にあったものとは?
事実、2016年7月から中国は、同国で圧倒的な人気を誇る韓流スターたちのテレビや映画への露出を制限する“限韓”とよばれる処置に踏み切った。中韓の緊密な貿易関係を考えれば、その損失――特に韓国経済にとっての損失――は計り知れない。
にもかかわらず、韓国はサードの配備を決め、さらにGSOMIAの締結にまで踏み切ったのである。
■慰安婦問題をめぐる日韓合意の裏にあったもの GSOMIAに対しても、中国の反応は厳しい。日韓のGSOMIA仮締結の事実が報じられたことを受けて韓国メディアが伝えた中国の反応は、敵意むき出しであった。
〈中国共産党機関紙「人民日報」は、専門家の話として、協定は韓半島と北東アジアの平和と安定を脅かすおそれがあるとして、「協定に正式署名するのは、韓国にとって、オオカミを家の中に入れるのと同じ」と伝えています〉(『KBS WORLD RADIO』2016年11月18日)
つまり、2016年夏からのサード配備の決定からGSOMIA締結までの流れをあらためて眺めてみると、韓国は国内の巨大な反日アレルギーを克服し、中国との強い経済的な結びつきという韓国経済にとって死活的な関係さえ犠牲にして、サード配備へと突き進んでいるという、従来からは考えにくい動きをしていることが理解できるのだ。
同じように日本側も、昨年末の日韓合意では、慰安婦問題をめぐって、日本国内にハレーションを引き起こしかねない思い切った歩み寄りの姿勢を示した。そこでは日韓合意後、それまで安倍政権を支持してきていたネチズンたちが、安倍批判に転じるという現象もみられた。
日韓合意も安倍首相周辺に存在した対韓強硬論からすれば、驚くほどの方向転換だ。これを日本自らの決断だといっても、説得力には乏しいだろう。当時、多くのメディアで指摘されたように、合意の裏に米国の強い関与があったと考えるのは、むしろ自然なことである。
排外主義が台頭するとどうなるのか
こうした日韓の動きは、外交の視点でみたとき、ある意味で“大人の対応”をしたということになる。しかしここ数年、日韓それぞれの政治環境は、外に対して妥協的な態度を示せるような状況にはなかった。それは韓国による慰安婦像の設置、それに対する日本国内の強烈な反発を思い出しても、理解できる。
■韓国の排外主義は間違いなく「反日」へ向かう であればなおさら、米国という巨大な“重石”が機能しなかったときの日韓が、どのようになっていたのかについて、日本は考えないわけにはいかない。それはとりもなおさず、トランプ大統領誕生後の米国外交の変化と、その影響を受けたアジアの変数について考えることにもなるからだ。
前回の記事でも書いたように、トランプ大統領の誕生という変数は、米中間の構造的な対立と協調の関係に、ただちに影響を及ぼすものではないかもしれない。 しかしトランプ大統領誕生とトランプ外交の方向が固まるまでに、アジアの“重石”としての米国の力が弱まることは、十分予測される。
それとタイミングを合わせるようにして、韓国で朴政権が完全な機能不全に陥ることを、日本は最も警戒しなければならない。
韓国で「朴後」の主導権争いが熾烈になればなるほど、人気取りのために行きすぎたポピュリズムと排外主義が台頭し、そのエネルギーが最も親和性のある「反日」へと向かうことは十分にありうる。あるいは朴時代の選択を否定するようにして、GSOMIA批判に向かうことが予想されるのだ。
しかも残念なことに、この懸念は実は、一過性では終わらない可能性がある。米国の世界戦略という視点からみれば、日本と韓国がその戦略に貢献するための役割と、それによって日韓という国家同士の関係が安定するかどうか、ということは、別次元の問題であるからだ。
はたしてビジネスマンで政治経験のないトランプが、この二つをどのように捉えるのか。ただでさえトランプの関心が薄いといわれるアジアで、さらに日韓関係にまで彼が関心をもつのかどうかは、完全に未知数である。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2016.12.21 16:43:01
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