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bunakishike
折に触れて聞いた音楽の感想をだらだらと書いています。
音源は主に海外サイトからダウンロードしたハイレゾで、その他観たコンサートや映画などの感想を綴っています。
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クリスチャン・ツィメルマンの来日公演初日。例によって?開演ぎりぎりになりましたが、なんとかかんとかセーフ。今日は、前の車がのろく、なかなか進まないのが原因でしたが、元々は、出るのが遅かったのが根本原因です。今回も、まるで学習していませんね。会場は一階の前方上手にやや空席がありましたが、8割方は入っていたと思います。
ツィメルマンは何回目の来日か分かりませんが、個人的には、前々回?の来日でお目にかかって以来でした。今回のプログラムは、モーツァルトの第10番、ベートーヴェンの悲愴、後半に、ショパンのバラード第4番、ラヴェルの高雅で感傷的なワルツ、母国ポーランドの女性作曲家グラジナ・バツェヴィッチの第2ソナタという構成でした。
はじめのモーツァルトは、ウイーン時代の作品。有名なトルコ行進曲付きソナタの一つ前の作品です。以前はパリで作曲されていたものとされていたもので、フランス風の洒落た雰囲気を持つ曲です。
テンポが極端に遅く、普通持っているこの曲のイメージから大きくかけ離れた演奏です。ツィメルマンの演奏では、軽さはあまり強調されませんし、ペダルを押しっぱなしなのか、残響が次の音に被り気味で、リズムの切れがありません。特にトリルがはっきりと分かりませんでした。通常の、華やかさやロココ調とは異なる、勢いに任せて演奏するのではない、ある種の落ち着きが印象的です。時折見せるルバートが、曲をやや大柄に見せる時もありますが、概ね、優しい表情を湛えています。曲は、殆どアタッカでつなげて引いています。最後のところで、微笑みながらちょっとパウゼをとってから、最後のフレーズを引くところに、しゃれっけが感じられました。
次の悲愴は、グラーヴェの最初のコードを聞こえなくなるまでのばし(約5秒)、その後もかなり遅いテンポで、音楽が繰り広げられます。途中からの、アレグロは、反対に少し早めで、パウゼもとても効果的です。最初の主題が戻ってくるところが、大変感動的です。ダイナミクスが極端に付けられているわけではなく、さほど深刻な表情を見せるわけではないですが、音楽はとても深いと思います。
第2楽章でもテンポはすごく遅いですが、鈍重ということはなく、このテンポが必然だと思えるほどです。この楽章でも、音を慈しむ様子がうかがえ、聞いていて思わず、うるうるしてしまいました。といって、悲しみを感じさせるということではなく、うまく言えませんが、悲しみを昇化させたようなものを感じました。大変感動的な演奏でした。
第3楽章は、普通のテンポでしたが、その優しい表情が印象的でした。コードの長い引き延ばしが、ここでも効果的でした。ベートーヴェンの生身の体まで感じさせるような、いわば、今の時代に生きるベートーヴェン像を示してくれたと思います。
休息を挟んで、ショパンの「バラード第4番」。この曲での、ツィメルマンの演奏方法も前半と同じ考え方でした。テンポがとても遅く、音を慈しみながら弾いていることがよく分かります。長いパウゼがここでも有効でしたが、予想に反してあまり盛り上がりはありませんでした。
ラヴェルの「高雅にして感傷的なワルツ」は、大変なピアニスティックな曲で、繊細さを要求されます。ツィメルマンの演奏ではルバートが絶妙で、繊細なタッチと相まって、微妙なニュアンスを実に的確に弾き分けていたと思います。
第1曲は通常の演奏だとあまり気にならない不協和音が強調されていて、ラヴェルのシニカルなユーモアが正確に反映されていたと思います。繊細さが際立っていますが、音が痩せているわけではありません。ペダルの使い方が絶妙なんだと思います。
これが、良く現れていたのが、終曲でした。今までに使われた旋律が、現れては消える様が良く描かれていたと思います。通常だと、第7曲で盛大に盛り上がって、終曲は残りカスみたいな感じになりがちですが、実に微細に弾き分けられていて、最後まで飽きさせませんでした。
ツィメルマンはラヴェルはコンチェルトしか録音していないと思いますが、独奏曲の録音も望みたいですね。
最後は、ポーランドの作曲家グラジナ・バツェヴィッチ(1909-1969)の第2ソナタ。始めて聞きましたが、スクリャービンの影響を受けたような和声と、激しい中にもクールな表情(1楽章)や、2度のリズムが印象な2楽章、急速なテンポでの不協和音の強打(最終楽章)が印象的でした。とてもわかりやすく、派手なところもある曲で、CDでも聞いてみたいものです。
アンコールは、ガーシュインの「3つの前奏曲」から後半の2曲が演奏されました。ツィメルマンがーシュインをやるとは以外でした。第2曲はブルース・フィーリングはさほど感じられませんでしたが、その暗い表情はなかなかのものだと思います。軽快なテンポの第3曲は、残響が多いため、あまり歯切れが良くなかったのはちょっと残念。
ということで、大変充実した演奏会、通常の演奏とは次元を異にした演奏を聞くことが出来て、大変幸せでした。
2006年5月7日 盛岡市民文化ホール(マリオス)大ホール 1階8列24番で視聴
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