山中千尋: Dolce Vita
山中千尋の新作を聴く。最近音源がたまる一方なのだが、消化しきれなくて、このアルバムも取り上げるのが遅くなった。今回は先日亡くなられたウェイン・ショーターに焦点を当てた特集。聴く前は全曲ショーターの作品かと思ったのだが、全14曲のうち9曲がショーターで、あとは山中のオリジナルが2曲、YMOがらみが2曲、それに何故か久保田早紀の「異邦人」というプログラム。ショーターのオリジナルは、山中の考えるショーターの音楽みたいな感じで、原曲にそれほどこだわらない彼女独自の解釈とカラーで新鮮だった。急速調の「Black Nile」はキレキレのアドリブでぐいぐいと迫ってくる。「One By One」のスインギーな味わいも悪くない。意外だったのはフェンダーローズやオルガンが曲にマッチしていたこと。もともとこれらの楽器は山中がプレイすると、独特なバウンス感とノリで、筆者の好きなフォーマットなのだが、今回もいい演奏を聴かせてくれた。特にハモンド・オルガンだけでも飯が食えそうな感じがすると思うのは、筆者の勝手な思い込み。フェンダーローズによる「Beauty And The Beast」(Native Dancer収録)は浮遊感を感じさせる彼女独特の世界。ハモンド・オルガンによる「Adam's Apple」のファンキーでノリノリなプレイもご機嫌だ。オリジナルでは「To S」のぐいぐいと迫ってくるアドリブがいい。特にドラムスとの4バースでの不協和音を使った上昇フレーズにはびっくりした。タイトルチューン「Dolce Vita(甘美な生活)」は彼女一流の甘く切ないメロディーが快適なテンポで流れる。二曲のJ-POPの中では「異邦人」が原曲がジャズ向きで、リリカルなアドリブ・ソロもなかなか味がある。最後のドラムスも中近東の気分を感じさせ、悪くない。ハモンド・オルガンで演奏される坂本龍一の「Andata 」(async(2017) 収録)が、教会で聞こえて来るような、荘厳で宗教的な気分を味わえる。ドラムスはラフラエ・オリヴィア・サイが前半の3曲、ジョン・デイヴィスが最後を除くその他の曲で付き合っている。サイは1曲目のクラッシュ・シンバルの多用がうざい。デイヴィスは落ち着きがなく動き回るため、ツボにはまった「Footprints」を除いては結構騒々しい感じがする。ベースも二人いるが、両者とも堅実なプレイ。山中千尋: Dolce Vita(DECCA 5597882)24bit 96kHz FlacChihiro Yamanaka:Dolce VitaChihiro Yamanaka:To SSaki Kubota:StrangerShorter:Yes Or NoShorter:Beauty And The BeastShorter:Black NileShorter:Infant EyesShorter:Children Of The NightShorter:LimboShorter:Adam's AppleShorter:FootprintsShorter:One By OneHaruomi Hosono, Yukihiro Takahashi, Ryuichi Sakamoto:Kimi Ni Mune KyunRyuichi Sakamoto:AndataChihiro Yamanaka (piano track 2-4,6-7,9,11-13, rhodes track 5, hammond b3 track 5,8,10,13,14)Jennifer Vincent (b track 1)Yoshi Waki (b track 2-13)LaFrae Olivia Sci (ds track 1-3)John Davis (ds track 4-13)Recorded 2023