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2013.04.30
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カテゴリ:夢とや
「ウチはそういうとこじゃないんだよ」
線香の香りもなく、
ただ姐さんがいなくなった。

ここにきて最初に優しくしてくれた、
食いしん坊な妾にこっそりお菓子だなんだとくれた、
綺麗で色の白い姐さんはもう居ない。

「お座敷だよ」
おやめずらしい。いつもならすぐ夜具の方なのに。
妾にそんな上客いないよなあ。

目つきの悪い、大男が手酌で呑んでいた。
銚子を持って盃に注ごうとすると、いいと言う。
じゃあすぐか、と思えば黙って杯を重ねている。
変な客だ、と顔を見ていたら、ジロリと睨まれた。
目を逸らすの癪だから、あえてにらみかえす。
あらやだ、これじゃむかし兄ちゃんとしたにらめっこじゃないの。

と、男が吹き出した。ほおら、妾の勝ち。
「この店は面白い女が多いな」
「前もここに?」
「色の白い、肝の座った妓だったが。」
姐さんだ。

「こないだの流行り病で」
男はちょっと驚いたようだった。
「落籍されたんじゃないのか」
「そんな景気のいい客、ここには来ません」
「…。」
黙って男は、盃を干した。
そして、妾に盃を渡して、なみなみと酒をついだ。
「女将に、あの女の妹分だと聞いた。呑め」
悼んでくれるのか。

はじめて、涙が出たとおもったら、
ぽろぽろ、ぽろぽろ、止まらなくなってしまった。
「うわあああ、ああああん」

おとっつぁんが死んだ時も、泣かなかったのに。
兄ちゃんに売られた時も、なかなかったのに。

男は、呆れたように見ていたけど
やがて諦めたように、
妾の背中を抱いた。


姐さん、姐さん。
あたしもはやく、よんでおくれ。
線香の香りもなく、近くあたしも逝くだろう。

この世はこんなにも、冷たくて。
あの世はあんなにも、あったかくて。

おっかさん。おとっつぁん。
あたしもはやく、よんでおくれ。














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Last updated  2014.05.10 01:10:45
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