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カテゴリ:夢とや
「ほら、これ、持ってっとくれ」
昨日までは、太夫太夫とおだててたのに。 いまは、モノ、でしかないのか。 温みの消えた姐さんをむしろで覆ったのは せめてもの哀れみか。 「よ、いいのいるか」 「いらっしゃいまし、どれにしますか」 違うか。目立たないように、だ。 表口から聞こえる声に、 おれは黙って裏口にむしろを運ぶ。 なんと、軽い。 できれば、かなわぬ夢でも、 あったかい姐さんを抱きたかったよ。 姐さん。姐さん。 あした、あんたを投げ捨て寺までおぶって行く。 ーあんだ、おらの名前わすれねでくれねか。 ーおら、………っていうだ。 この妓楼につれてこられてすぐ、 まだ生娘の野良着のうちから姐さんは綺麗だった。 下働きの俺に、 怯えた目をした姐さんはそれだけ、言った。 後の悲鳴は、ここではいつものことだ。 姐さん、姐さん。 あんたの名前は、忘れない。 あした、冷たいあんたを投げ捨て寺までおぶって行く。 その間だけが、あんたと俺との婚礼だ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2014.05.10 02:21:58
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