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カテゴリ:夢とや
ふ、と眼が覚めた。
まだ夜明け前、出立までは遠い。 最近、眠りが浅い。 ーもう、駄目かもしれんな。 ついこの間までは、五分だった。 だが。 ー頭(かしら)が逃げちまやぁ、お終ぇだ。 それも二度も。流石に参るか、と思ったが。 ー意外と折れねえもんだな、俺って奴は。 もっと動けなくなるかと思えば、案外変わらない。 めげねぇ男だ、やはり他人の言うとおり冷たいのだろう。 ただ、眠りは浅くなった。 大抵、夜明け前に一度は醒める。 ー丑三つ時だな。 今まで、斬った斬らせた奴らの怨念、とやらか。 なるほど、鬼火か幽霊か、らしきものなら見たことがないことも無い。 それだけだ。 何か仕掛けてくるでない、 事を起こしてくるでない、 じっとりとした気配はあれど 戦場(いくさば)で直に感じる殺気に比べて何ぞのものか。 ー殺気、か。 それとて、刀で斬りつける手の感触を知ってさえ、 目の前で隣の兵がその隣が、とバタバタと 鉄砲で撃たれるのを見ておれば ただの気の迷いにしか思えぬ。 朝、同じ釜の飯を喰った奴が血飛沫あげて倒れる。 拳でどう、ではない。刀がなんだ。 そして、鉄砲一丁ではどうにもならぬ。 ー結局はそういうことだ。 なんだかんだと産まれのいいやつは、当てにはならぬ。 いざとなったら、さっさと退いちまう。 叩き上げの、何も無え、帰るところのない俺みたいな奴は、 やるだけやるしか、道はない。 片道しか行けぬ、道。 道、なのか。それとも。 深い谷に渡した橋、なのか。 ーそういやあ、あそこにも橋があったな。 岡場所や刑場のそばには、橋がある。 そこを渡ればもう会えぬ、橋がある。 そこを越えれば戻れない、橋がある。 ーその橋にどれだけ俺は追いやったかな。 ごろり、と寝返りをうち、思う。 ーいや、俺はもうとっくに、そんな橋は渡っちまってるんだよな。 鳥の声が聞こえる。 闇が薄くなる。 夜明けは、近い。 ただ、前には、橋。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2014.05.10 02:39:57
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