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2014.05.03
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カテゴリ:夢とや
御簾の向こうに、あえやかな声。

今日の殿御には姫さまはだいぶご執心らしい。
睦言も所作も、たいそう心のこもった気配りのきいた、
…まあ、なんといおうか。

雲の上の人よ、てんじょうびとよ、と
位の高い、綺麗な色の衣の、すずやかな方たちを
お日様の下ではたてまつりはするけれど。

夜の帳のもと、ここでこうして
おはべりの番で控えていると
屋敷の庭でこのあいだ
野犬が合してしていたことを思い出してしまう。
なんとまあ、つまらぬことよ。

ながくお仕えはしているが、
姫さまのご尊顔を拝したことも無い。
下働きの年増には、
こんな役が回ってくるばかり。
とはいえ盥に水は汲んである、
あとはお声がかりに水と塩の盆を差し入れるだけ。
この殿御は浮名の多い方だから、早々に辞すると聞く、
なんのかんのと明けの遅くまで
ぐずぐずと出立のふんぎりの悪い、
姫さまのおぼえよろしくないお方とは
たいへんに、違っておられる。

あの君は、細い声の、足音の乱れた方だった。
廊下を歩む音だけでさえ、
その方のお越しを咎めるように軋み。
姫さまも根負けしたのだろう、
あまりの付け届けの文と品の多さに。
下々のはしためまで水菓子のご相伴に預かれるほど
たくさんの貢物が毎日届いていた。
その方は姫さまをどこぞで見初めて、
歳も身分も縁なきところ、たっての望み、と、
ただ一晩、ほんの一時、共に過ごしたい、と、
八方手を尽くしてきたのだとか。
お屋形さまからもお話があり、
一夜限りと念を押し、
万が一にもあり得ぬように、と
気を張り験をかつぎ札を貼り。
その夜の装いも化粧も気が乗らぬのが
ありありとわかる姫さまは、
御髪さえ整わぬほどに気がたっておられたとか。
その君との逢瀬は、
御簾ごしにはべるこちらも呆れるほど
無愛想で無骨な、むき出しのもので。

ーこれほどに尽くしても。
-わかっては、もらえぬのか。

そんな、殿方にしては細い声が、
聞こえた気がする。
姫さまの応えは無かった。
泣いておられたようにも、思える。
月のない、昏い夜だった。
明けの星の、待ち遠しい夜だった。

むかしから、
姫さまを訪れる殿御はあとをたたず。
綺羅きらしいお方ばかりで
情のあつい華やかな姫さまは
なおあでやかに咲き誇るのだけれど。

あれ以来、ぱったりと付け届けもなくなり
噂もきかない、あの君の、声が。

絞り出すような声が。

御簾の向こうのことなれど、
その声だけは、忘れられない。



















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Last updated  2014.05.10 02:52:04
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