【6月3日】地域生活または養護施設で暮らしていて、非定型または従来型の抗精神病薬による治療を開始した高齢認知症患者は、そうした薬物を使用していない同様の患者に比べて、30日以内に入院または死亡する傾向がおよそ2倍から4倍大きい。 この知見は、『Archives of Internal Medicine』5月26日号に発表された大規模地域住民レトロスペクティブ(後ろ向き)コホート研究によるものだ。 この研究は、これらの薬物の現実世界での使われ方に関する市販後調査であり、重篤な有害事象を個別ではなく複合転帰として調査した点が重要であると、筆頭著者のPaula A. Rochon, MD(臨床評価科学研究所、カナダ・オンタリオ州トロント)がMedscape Psychiatryに語った。 「我々が伝えたいのは、こうした重篤な副作用が治療開始早期から起こりうるということだ。ベネフィットがリスクを上回る状況でのこの種の治療の実施が制限されるのはほんとうに大変なことだ。」 この患者群には抗精神病薬は安全か? 著者らの記述によれば、非定型抗精神病薬(オランザピン、クエチアピン、リスペリドンなど)は、10年以上前から市販されており、認知症の行動症状や精神症状の治療に従来型の抗精神病薬(ハロペリドール、ロクサピンなど)の代わりに広く用いられている。 著者らによれば、抗精神病薬は臨床の現場では不穏症状の治療に短期間用いられることがしばしばある。ある研究の報告では、養護施設に新規に入所した入所者のうち、100日以内に抗精神病薬投与を受けている者が17%いる。 「こうした薬物の短期使用が高頻度に行われているので、その安全性の評価が重要である」と著者らは記している。 研究グループは、1997年から2004年までの期間で、認知症と診断され、抗精神病薬治療を受けた66歳以上のオンタリオ州住民のデータを分析した。重篤な有害事象については、被験者の医療記録で評価した。 複合転帰には、抗精神病薬治療開始から30日以内に入院または死亡の原因となった重篤有害事象を含めた。入院は、既知の重篤事象(錐体外路症状、昏倒や股関節骨折、脳血管事象??これまでの研究で明らかにされてきたもの)またはその他の事象として分類した。 研究グループは被験者群を、地域居住コホートと養護施設コホートの2つに分けた。なぜなら、養護施設居住者は抗精神病薬が処方される率が高く、一般的に、有害事象を起こしやすく、障害を受けやすいからだ。 この2種類の状況のそれぞれにおいて、抗精神病薬の曝露状況が、なし、非定型抗精神病薬、従来型抗精神病薬のいずれかである以外は条件が同じでサイズも同じ3群を特定した。 この研究の対象になったのは、地域居住の認知症高齢患者20,682例(抗精神病薬曝露状況の3分類のそれぞれに6894例)と養護施設居住の認知症高齢患者20,559例(3分類のそれぞれに6853例)である。 もっとも多く処方されている非定型抗精神病薬はリスペリドン、オランザピン、クエチアピンであり、従来型抗精神病薬はハロペリドール、ロクサピン、塩酸チオリダジンであった。 「抗精神病薬は、たとえ短期間であっても慎重さをもって処方しなければならない。」 Arch Intern Med. 2008;168:1090-1096. 臨床的背景 非定型抗精神病薬(オランザピン、フマル酸クエチアピン、リスペリドン)は、高齢認知症者の行動症状や精神症状の治療薬として、昔からの従来型抗精神病薬に大きく取って代わってきている。 錐体外路症状、昏倒、股関節骨折、脳卒中、死亡といった個々の有害事象と抗精神病薬使用との関係を調べたコホート研究はあるが、そうした状態をはじめとする重篤な有害事象をすべてまとめた発現リスクについては調べられていなかった。 臨床の現場では不穏症状や譫妄の治療に抗精神病薬を短期間使用することが多いが、そうした実践を支持するエビデンスはランダム化対照試験で得られていない。障害を受けやすい患者群にこうした薬物が使用されることが多いので、安全性を明確にすることが重要である。 |