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非常に適当な本と映画のページ

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2015.08.15
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カテゴリ:邦書

 島田荘司氏が選者を勤める福山ミステリー文学賞でデビューした嶋戸悠祐による長編作。


解説

 推理小説と最初は思わせておきながら、徐々にホラー小説になっていき、最終的にはSF小説になっているという、てんこ盛りの内容。
 構成がしっかりしていれば、物凄い傑作に成り得るのだが……。
 本作はそれを感じさせない。
 作者が、読者を置いてきぼりにしながら風呂敷を広げて持論をガンガン展開し、読者がそれを飲み込める前に風呂敷をさっさと畳んで「ハイ、おしまい。ではさようなら」と宣言している感じ。
 推理小説にしては、「推理」の部分が独りよがり過ぎて説得力に乏しい。ホラー小説として読みたくても、「名探偵の推理」の部分が恐怖の部分を薄めてしまっている。SF小説にしては、科学考証に難がある。
 推理・ホラー・SFのいずれかにおいて突出した部分があれば、それがメインで、他はサブなんだな、と納得出来る。が、どれも中途半端なので、結局何を読まされたのかが分からない。

 冒頭で、中山は、この世の出来事とは思えない恐怖を体験する。
 島田荘司の流れを汲む推理小説だったら、「この奇怪な、非現実的な体験は、実はこの様に物凄く論理的に説明出来るんですよ」となるのだが、結局この「体験」は、中山の創作、という事になっている。これでは夢オチと大して変わらない。

 探偵が現れ、行動を開始。これで推理小説っぽくなるのかなと思いきや、早くも無能な偽探偵である事が明らかにされる。
 ……と思っていたら、ラストで本物の「天才探偵」が颯爽と登場し、これまでの出来事を安楽椅子探偵(本人はセカンドタウンに行っておらず、偽探偵から報告を受けていただけ)の如く全て総括して「真相」を導き出し、それを記録係にペラペラと語り、物語は終了。
「推理」の部分は全て「天才探偵」の押し付けで、推理小説の体を成しているとは言い難い。

 作中では、食人鬼「ソニー・ビーン」の生き様を、メインストーリーの間に分割した状態で描いている。
 この作中作は、祝詞によって書かれた、となっている。セカンドタウンの実情を、オブラートに描くつもりで書き残した、と。
 何故祝詞がこんな回りくどいやり方でセカンドタウンの実情を訴えようとしたのか、結局明らかにされない。
 セカンドタウンの異常さを知らしめたかったなら、他にもっと効果的で分かり易い方法があったと思うが。
 この作中作は、単体で読むとそれなりに面白いので、セカンドタウンの部分を全て削除して、これだけで本にすればいいのに、と思った(作品として売れるかどうかは疑問だが)。

 近未来の日本を描いていたと思われていた本作は、実は核戦争が起こってから100年も経った後の世界を描いていた、となっている。
 クローン技術が確立され、人間のクローンが当たり前となっている、と。
 にも拘らず、クローンの技術は人間以外には転用されておらず、家畜を増やせないので人間のクローンを食用として大量生産している、という設定は突飛過ぎる。クローン家畜を増産した方が、クローン人間の増産より遥かに楽だろうに。
「食人」を押し通したいが為の設定になってしまっていて、読んでいる側からすれば、「食人」の必然性を感じさせない。

 本作は、大部分は戸丸という高校生の視点でストーリーが進み、最後になって「天才探偵」が現れ、真相を暴く、という構成になっている。
「天才探偵」を排除し、戸丸をサブキャラにした上で、スパイ中山を主人公としたサスペンス小説にした方が良かった様な。
 ……塀に囲まれた謎の街セカンドダウン。中山は、「セカンドタウンの実情を暴け」というある組織の密命により、高校教師として潜入。しかし、謎に満ちていると思われていた街は、いざ歩き回ってみると何の変哲も無い普通の生活が営まれていた。住民も、おかしい所は無い様に映る。が、何かが引っ掛かる。裏側を調べていく内に、街全体が食用クローン人間の大工場で、住民全てが食人鬼だったという真相が明らかに……。
 こちらの方が遥かにサスペンスに満ちていただろう。
 何故「大部分はセカンドタウン内の高校生の視点で展開。ラストで全てお見通しの天才探偵が真相を語る」という構成にこだわったのか、理解出来ない。

 作中の大半を占める戸丸というキャラの言動も分かり辛い。
 見ず知らずの外界からの「探偵」に、中村の恐怖体験や祝詞の失踪についてかいつまんで話し、「証拠」となる本も渡してしまう程のお人好し。
 ……と思っていたら、「探偵」が見当違いの推理を述べ始めると、途端に中山、祝詞、そして「探偵」ら「外界人」に対し軽蔑の思いを露わに。
 まるで別人に豹変してしまったかの様な感じ。

 セカンドタウンにやって来た「探偵」(実は、天才探偵の身代わりとして送り込まれた、探偵気取りの浮浪者)の豹変振りにも驚く。
 戸丸と会い、話を聞いている時は人がやけに良さそうなのに、「探偵」の視点を描いた「探偵日誌」では戸丸の事を邪魔だと思い(無論中山や祝詞の件についても特に興味を示しておらず、演技だった、という事に)、雇い主である「天才探偵」をも馬鹿にしているという有り様。
 裏表があり過ぎ。
 戸丸は、「探偵」が推理を述べた時点で、「こいつは無能だ」と知るが、読者はそれ以前に無能振りが分かる構成になっている。

 アレクサンダー・“ソニー”・ビーン(Alexander "Sawney" Bean)は、16世紀のスコットランドで、旅人を狩っては食していたという、歴史上の人物とされる。イギリスではかなり有名な残酷話。
 妻を娶り、子を産み、その子らに更に子を産ませ、最終的に一族は48人にもなったという。一族で人を狩っては食べていたとか。
 作中作の通り、最終的には犯行が発覚し、一族全員が捕らわれ、裁判を経る事無く処刑されている。
 ただ、記録がきちんと残っている訳ではない。そんな事もあり、実在の人物や出来事ではなかったのでは、もしくは誇張された形で伝承されているのでは、と考える歴史学者が多い。
 したがって、本作の「幼い時に幼馴染や両親を殺して殺人や食人に目覚め、食人一族を築くに至った」という経緯は、あくまでも本作独自の見解である。


粗筋はこちら






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Last updated  2015.08.15 10:29:41
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