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非常に適当な本と映画のページ

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2016.10.19
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カテゴリ:邦書

 宮部みゆきによる長編ハードボイルド風ミステリー。
 杉村三郎が初登場する。


粗筋

 梶尾信夫という人物が、事故死する。歩いていた所を自転車に追突され、転倒。その際に頭を打ち、亡くなってしまったのだった。自転車で轢いた者は通報せず、現場から逃走し、どこの誰なのか分からなかった。
 梶尾の娘であった聡美と梨子の姉妹は、父の半生を描いた本を出版しよう、と考える。万が一それが話題になり、大きく取り上げられれば、轢き逃げ犯が名乗り出てくるかも知れない、と思ったのだ。
 梶尾は、巨大企業グループ・今村コンツェルン会長の個人運転手を務めていた。その伝を頼り、会長の娘婿である杉村三郎を訪れる。彼は、今村コンツェルンの広報誌の編集部に属していたのだ。
 杉村は、姉妹から話を聞き、協力する事にする。
 聡美は、もしかしたら父は事故死に見せ掛けて殺されたのかも知れない、と杉村に打ち明ける。聡美は、浜口という男性と結婚する予定でいた。梶尾が娘の結婚の前に自分が「やっておかなければならない事がある」といった類の事を言っていたのを思い出したのだ。もしかしたら父は過去に危険な連中と関わっていて、それを清算するつもりが、殺されてしまったのではないか、と。
 杉村は、聡美の考えは突飛過ぎると思った。が、梶尾は若い頃に実家を飛び出してからは職を転々とし、妻と巡り合い、娘を授かっていた。職を転々としていた間――1960年代――に、危険な事に首を突っ込んでいた可能性が無くもない。
 事故現場辺りで情報を求めるチラシを配れば、何か反応があるのでは、との提案を杉村は受け、そうする。また、杉村が現場を何度も訪れて訊き回っている内に、轢き逃げ犯は未成年である可能性が高い、というのが判明。事故については既に学校で話題になっているという。その時点で、杉村は考える。警察は、轢き逃げ犯が誰なのか、知っているのではないか、と。未成年なので、学校や親と慎重に接し、轢き逃げ犯が出頭してきた、という形で事件を締め括ろうとしている、と。すると、間も無く警察から連絡があり、それを裏付ける。轢き逃げした少年が近々出頭するので、姉妹に伝えるのはもう少し待ってくれ、と。
 梶尾信夫の事故死は、轢き逃げに関しては解決の方向に向かっていたが、彼の過去を探っていた杉村は、そもそも何故彼が事故現場となってしまった辺りをうろついたのか、解明出来ないでいた。
 聡美が、父親が危険な事に首を突っ込んでいた可能性があるかも知れない、と考えたのは、幼かった時、女性に誘拐され、監禁された記憶があったからだ。誘拐した女性は、父のせいだ、といった言葉を述べていたという。暫くすると母親がやって来て、彼女を連れ出し、事無きを得たが、これにより彼女は臆病な性格になっていた。
 杉村は、梶尾とその妻が勤めていたトモノ玩具という会社を探し当てる。30年近くも前の出来事だったが、当時について記録している者を見付ける。その記録によると、梶尾と、その妻と、別の事務員の女性が同じ日に退職したという。聡美が「誘拐」され、無事保護されてから数週間後の出来事だった。
 一方で、轢き逃げした少年は出頭。本を出す必要は無くなった。
 杉村の電話に、ある女性から電話があった。トモノ玩具を、梶尾とその妻と同じ日に退職した事務員だった。その女性は、梶尾の過去について、重大な事実を告げる。事務員の女性は、トモノ玩具で働いていた30年前、酒乱の父親を死なせてしまっていた。その女性と親しくしていた梶尾は、「出頭しても警察は君を父親殺し扱いするだけだ」と主張し、妻と一緒にその死体を山奥に埋めて、処分してしまう。幼い長女――聡美――を一緒に連れて行く訳にはいかなかったので、梶尾は事務員の女性に長女を預けた。幼児の扱いに不慣れで、精神的に参っていたその女性は、「こうなったのは父のせいだ」と喚き、聡美をトイレに閉じ込めた。これが「誘拐」の真相だった。聡美は何日も監禁されていたと思っていたが、実は一晩の出来事だった。梶尾とその妻は、事務員の女性と同じ場にいられなくなり、三人ともトモノ玩具を退職し、散った。しかし、連絡は取り合っていた。
 梶尾は、近々結婚する聡美に自分が「やっておかなければならない事がある」と言っていたのは、この事務員の女性と直に会い、過去にお世話になった女性として結婚式に出席してもらう事だった。過去を完全に断ち切りたい、と梶尾は願っていたのだ。事務員の女性は、聡美の幸せを祈りつつも、出席はとてもじゃないが出来ない、と断る。梶尾は、返事を受けたその帰りに、少年が漕いでいた自転車と衝突し、事故死したのだった。
 梶尾は、この真相を姉妹に話すべきか迷っている間に、姉妹の重大な事実についても知ってしまう。
 聡美の婚約者である浜口は、妹の梨子と不倫関係にあったのだ。結婚までの関係だ、と。聡美は、妹が同様の事を過去にもしていたので、既に疑っていたが、見て見ぬ振りをしていた。それを、杉村はわざわざ暴いてしまったのである。
 聡美は、それについて杉村を責める電話を寄越すものの、最終的には静かに謝り、電話を切る。
 今村コンツェルン会長は、杉村から全ての話を聞く。梶尾が犯した罪については本人が死亡しているし、事件も時効を過ぎているから今更公にする必要は無いだろう、という。また、聡美と梨子の姉妹に関しても、若い者同士で揉めている内に自分らで解決するだろう、と諭す。
 杉村は、それに同意し、自分自身の人生を歩み続ける事にする。



解説

 小さな事件が、大きく広がり、途轍も無いスケールの陰謀が明らかにされるのではないかと思いきや、本線も複線も小さく纏まって終わってしまっている。

 轢き逃げは、結局は単なる轢き逃げ。事件捜査が進展していない様に見えたのは、犯人が未成年で、警察が事を慎重に進めていたからだけ。一般市民の杉村にとっては、解決不可能な事件に見えたが、警察の観点ではほぼ解決していた事件だった。
 梶尾とその妻が背負っていた暗い過去とは、30年前に死体遺棄に手を貸した、という事だけ(犯罪行為ではあるが)。梶尾は、闇の組織に消された、という陰謀めいた動機で死んだ訳ではなかった。
 聡美と梨子の姉妹は、歳の離れた仲の良い姉妹に見えたが、実は互いを傷付け合いながらも互いに頼っていくしかないという、愛憎が入り混じった関係にあった。

 一編の長編に纏めてしまうと、物凄く複雑な人間模様を描くストーリーに見えるが、3つに分けて捉えると、案外シンプル。
 特に轢き逃げの件に関しては、探偵役は真相を知らないまま捜査していたが、警察は何もかもお見通しだった。通常のミステリーとは逆パターンになっている。要するに、探偵が何もしなくても、この件に関しては解決していた事になる。未成年が犯人、というのも、著者がよく使うパターンの感じがするので、意外性は無い。

 梶尾の死体遺棄の件も、山中に埋葬したとされる死体が誰にも発見されず、事件化されないまま30年以上経ってしまった、というのも不自然。ずぶの素人がそこまで完璧に死体を遺棄出来るなら、世の中の行方不明者のほぼ全ては人知れず遺棄されている事になってしまう。梶尾が、親しくしていたとはいえ、何故赤の他人の死体を、妻に手伝わせてまで遺棄したのかも分からない。

 聡美と梨子の姉妹に関しては、聡美の婚約者浜口と、妹の梨子が不倫関係にあり、それについて聡美も薄々気付いているのでは、というのは大体読めてしまう。膨大な情景描写により、浜口と梨子の携帯電話の着信メロディーが同じだった事や、聡美が婚約指輪をしていない事を埋没させようと試みているが、この2点はやけに目に付くので(著者も目立たせようとしている)、読めてしまう。ラスト辺りで探偵役の杉村が「実は浜口と梨子は不倫関係に合った」という事実を知っても、読んでいる方は「何を今更」と思ってしまう。

 登場人物の描き方も、複雑に見せながら実は単純なのが殆ど。
 杉村に関しては、妻帯者で、子持ちなのに、まるで子供並みというか、子供以上の純情振り。ラストに至る時点で物凄く落ち込むが、「所詮赤の他人の事だから」で処理。自分自身は傷一つ負う事無く切り抜け、「今村コンツェルン会長の娘婿」という羨ましい立場に安住していられる。

 個人的には、宮部みゆきという作家は、赤川次郎の女性版というか、物凄くくどい赤川次郎といった感じ。
 赤川次郎並みにすらすら読める文体。
 一方で、情景描写においてはあえてスカスカにして読者の想像力に任せがちな赤川次郎に対し、こちらは情景を事細かく描写。児童文学「スプーンおばさん」の訳文や、美空ひばりの曲も引用している。文末では著者が引用について謝辞し、巻末にはJASRACから許可をきちんと取り付けている事を記している。
 物凄い作家なのか、ただそう見えるのか、本作を選んでしまったのが間違いなのか、よく分からない。


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Last updated  2016.11.30 12:31:14
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