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カテゴリ:邦書
民俗文化専門調査員の竹之内春彦が探偵役を務める旅情ミステリー。 粗筋: 旅雑誌の記者・胡桃沢くるみは、飯田線を取材する為、長野県飯田市へ向かう。途中で、編集部が手配した民俗文化専門調査員の竹之内春彦と合流。 くるみは、竹之内と共に行動する事は全く知らされていなかったので、反発するが、上司の意向なので、仕方なくコンビを組んで飯田市を取材する事に。 飯田市では、古くから伝わっていた長姫人形劇が、近々復活するという事になっていた。その舞台となる神社を訪れると、桜が青い照明で照らされていた。竹之内とくるみは、演出の一環と思っていたが、案内していた町の者は何故か不安な表情を見せる。 すると、直ぐ側に、男性のバラバラ死体があった。 死体は、伊那谷グループ会長熊谷直道だった。 地元の名士が殺害されたと知って、町は騒然となる。 それ以上に、熊谷家が騒然となった。 熊谷直道は、自ら築き上げた莫大な資産を文化活動に投入したいと考えていた。長姫人形劇が復活する事になったのも、そのお蔭だった。公開された遺言状も、遺産の大部分を文化事業の為に使う、という趣旨のものになっていた。 様々な事業を手掛けている伊那谷グループも、斜陽産業や、軌道に乗り切れていない新事業が多く、遺産の大部分が採算性が無いと思われる文化事業に回されてしまったら、経営難に陥るのは目に見えていた。 文化事業を取り仕切る遺族と、それ以外の事業を取り仕切る遺族の間で、不穏な空気が流れる。 竹之内は、そもそも何故熊谷直道は殺されたのか、誰の仕業か、の調査を個人で進める。飯田市に伝わる長姫と青い桜の伝説が絡んでいる、と感じるようになった。 青い桜は、熊谷直道の遺体が発見された神社にあったという事実を掴む。神社は元は城跡だった。戦国時代、長姫がそこで非業の死を遂げ、それを機に青い桜が咲くようになり、地元の者に恐れられていたいう。しかし、いつしか青い桜は無くなり、人形劇でしか語られなくなっていた。 竹之内は飯田市内を巡り、関係者から話を聞く。 そして、漸く青い桜の行方を掴む。 明治に入ると、城は封建時代の象徴となり、西洋化を推し進める政府にとっては無用のものとなった。長姫の城も廃され、神社へと変えられる。 恐れの対象であるのと同時に、地域の守り神にもなっていた青い桜を絶やすまいと、当時の町民らは青い桜を移植し、その存在を隠す事で守ってきた。 が、時代の流れと共に、問題が。 青い桜の移植先となっていた土地を代々受け継いでいた旧家が破産し、土地は伊那谷グループに乗っ取られてしまった。青い桜の事等全く知らない熊谷直道は、その土地を文化事業の為に開発しようと考えた。 熊谷直道からすれば、一代で財を成した際に手を染めた悪行に対する罪滅ぼしの為の町興し事業だったが、青い桜を秘密裏に代々守ってきた者らからすれば、町を滅ぼしかねない冒涜だった。 青い桜の秘密を知っていて、元々熊谷直道を快く思っていない者が、殺害するにまで至ったのだった。 解説: 大富豪の遺産を巡る遺族の複雑な関係が殺人事件の中心にある、という描き方で始まるが、実際にはそれよりもっと大きな、町に関わる歴史が事件の背景にあった……、という展開になっている。 横溝正史の世界と、歴史ミステリーを掛け合わせた感じ。 描き方によっては非常に面白いものに成り得たのだが……。 そこまでには至らなかった。 冒頭で被害者の遺族がガンガン登場して、訳が分からなくなってしまう。その上町の歴史を巡る謎が加わるものだから、更に登場人物が増えてしまい、収拾が付かなくなる。 どの登場人物も、特に特徴がある訳ではないので、覚え難い。 主人公ですら、これといった特徴が無い。 遺産問題のゴタゴタが延々と描かれている為、間延びしてしまい、本筋の青い桜を巡る謎解きに達する頃には飽きてしまう。 話の途中に挿入されている歴史情報(史実とは無関係)も、物語深みを持たせるより、物語のペースをますます落としているだけ。 何故もう少し登場人物を減らし、遺産相続に関する部分は省略して、短くまとめられなかったのか。何でもかんでも盛り込んで無駄に長くすれば名作になる、という訳でもないのに。 主人公の竹之内も、著者は物凄く興味深い人物だと思って書き綴っている様だが、読んでいる側からすると退屈な中年男性。 作中では色々行動を起こすのだが、イマイチ興味を持てない。 事件の解決にも何となく関わっているというか、著者が強引にそこまで持って行った、といった感じで、何故こいつが探偵役なのか、本当に主人公なのか、と終始疑いながら読み進んだ。 低予算テレビドラマの原作本としては申し分無いのかも知れないが、読み物としてはきつい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2018.05.07 22:38:45
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