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カテゴリ:旅 / 小さな旅
(続)
一面のコスモスである。 私は車のドアを開けるのももどかしく花に駆け寄った 淡いピンク、濃いローズ色、白などの花が群れ咲く。 一色であったり、花芯に黄や白を有したり、 花弁がぎざぎざになっていたり、と 花は色々な顔を持っている。 可憐な花と繊細な葉にそぐわない赤みがかった丈夫そうな茎が、 その美しさを支えていた。 少し前に盛りは過ぎ、下葉が枯れているものの、 花はまだ十分楽しめる。 何万本、いや何十万本あるのだろうか。 根元を見ると一本一本規則正しく手で植えられているのが解る。 野生のようでいてそうではなく、 野生ではこれほど美しい花を楽しむことは出来ないだろう。 私は花野の中に入った。 背丈ほどもある花に埋もれて、すっかり少女に返っていた。 走った。時々小石に足を取られそうになりながらも、 なだらかな勾配を駆け下りる。 走っても走っても私は花に埋もれていた。 立ち止まって花に顔を近づけてみる。 遠い昔の、うら若い母の香を嗅ぐようであった。 空は一点の翳りもなく果てしなく高く広がり、 林の木々はさやかな風に囁く。 高く低く群舞する蜻蛉、私は大きく息を吸った。 このまま花野の夕映えに溶けてもいい、そんな気さえする。 目を瞑ってもう一度大きく息を吸った。 「もう、ええですか?」 おどけた声に振り向くと、KとOさんが 夕日が綺麗だから、と私を花野の外れに誘った。 山と山との間の切り崖(きりぎし)に立つと、 眼下に瀬戸の海が開ける。 今しも、夕日がその海に飲み込まれそうであった。 遠く望むこんもりとした森に聳える天守閣、 製紙工場の煙突からは煙がゆっくりと空に伸びる。 人影は判からないものの、車の往来がかすかに認められた。 海べりに広がる故郷の町を望み、 身体の内側からゆっくり弛緩していくのを覚えた。 ゆくりなく私は李白を思った。 李白も同じ思いであったのかも知れない。 敬亭山の麓に住んでいた彼は、ときおり山に登り暫し黙考したという。 衆鳥は高く飛び立ち一片の雲さえもない・・ が、山を見下ろす村も厭うことなく李白を受容する。 李白の方も、勿論「相看両不厭」(あいともにみていとわず)である。 法王の嶺に抱かれて眺める瀬戸の夕景は、 ひとしお私の心に深く沁みた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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