2010年01月の記事一覧 | 碁法の谷の庵にて

狂犬病予防接種？

　また、裏ページに書くことにしましたが…　彼は自分の無知を相手のせいにすることをなんとも思わないのですかね。　それで、相手をゲロぐちゃにけなし続けてもいい。　僅かな自己流知識との齟齬を見つけるとけなし続けるけど、深い部分が分かっていないもんだからその内容すらもいい加減。　歯の治療に関する親の同意は所詮は同意代行に過ぎず無制限ではない、と言うことなど、真面目に法律書を読んでないから知らないし、それで他人を無知な素人と呼ばわってもいいようですし。　それで間違っていることを指摘して記事を書いても、しれっと流して謝罪なし。　いよいよ都合が悪くなると今度は「自称」心理学者になったり。　一度でも「冷静な論調に割と好感が持てる」などと書いた自分が腹立たしいことこの上ないったら。

公訴時効一部廃止を法務省が答申したとのこと。

　個人的には「予想はしていた」けど懐疑的だと言ってしまえばそれまでです。多数説が時効廃止論になるだろうなと言うことも薄々分かっていました。　私の懐疑の理屈もどこまで力を持つかは国民次第な部分がありそうなことは分かっているつもりですし、これまでもここで何度か言ってきたことですから、ここであえて言うことはありません。　時効廃止の根拠としてよく持ち出されるDNA鑑定の落とし穴については、学部時代に書いたことがあるので、興味がある人はこちらからどうぞ。あの記事を書いた後、足利事件の再審開始決定とかもあった訳ですが。　私が一番気になって今回記事を書こうと思ったのは、「法施行前の行為でも、時効未完成ならばさかのぼって適用する」という規定の方です。　日本の刑法の指導原理、罪刑法定主義の一つの要が、「遡及処罰の禁止」。　憲法３９条前段にも規定がありますが、即ち実行時に適法であった行為について、後から違法にして処罰することがない、というものです。「何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。」　憲法の明文では無処罰を処罰するように変えて適用するのがダメ、としか書いていないように見えます。　ただ、それでも「旧来軽く処罰されていたものを重く処罰するように変えて適用するのも罪刑法定主義上許されない」　と言う点については、おそらく学説実務上とも、全く異議を見ていないと言ってよいと考えます。　なお、罪刑法定主義そのものではありません（と言うか罪刑法定主義の内容とされている原理の中で明文がある方が実は少ない）が、日本が批准する国際人権Ｂ規約上も実行時軽い罰をさらに重くして重い罰を適用することは明文で禁止していることにも留意すべきです。ゼロをプラスにしちゃいけないだけで、２０を５０にするのは問題ないんだ、としか読んでいない方は残念ながら前提知識の不足でしょう。　なぜか、といえば罪刑法定主義の重大な根拠が、「国民の不利益予測可能性」であることを忘れてはいけません。　国民は何をしたら「どのような刑罰・不利益が自分に科されるのか知ることができる機会」を与えられる必要がある、というのがまさしく罪刑法定主義・遡及処罰禁止の指導原理であるためです。　２５年経ったら殺していいなんて言ってないからいい、という説もありましたが、「具体的にどういう不利益を予測させられるか」がここでの問題である以上、法の不備ででも罰から逃れたいと言う、時効制度が存在する時点で犯罪者の抱く下劣な期待・欲求にも残念ながらお付き合いしなければなりません。その意味で、合目的的解釈は限界のあるジャンルだと考えます。　どんだけ悔しくても、罪刑法定主義というのは、そういうことであると私は思います。実際問題、罪刑法定主義が問題になる場合なんて、既存の法律が不合理だ、もっと処罰したいという時にダメと言うだけの原理ですから、大多数の善良な市民の皆さんには、かなりムカつく原理でもありますし、それでも北朝鮮みたいな国家にしないためには必要な原理なのです。　さて、これに対しては、「公訴時効制度は刑事訴訟法に規定されている」という反論が考えられるところです。　刑事訴訟法はじめ訴訟法については、予測可能性の問題ではなく法改正があったら法改正後のルールで行くべきだ、と言うのが基本理解になっているからです。　たぶんですが、ここから先が法制審議会と私見の見解の最大の分かれ目でしょう。　訴訟法と言うのは、被疑者被告人に中立ですから、刑罰だ不利益だの問題とはならないのが原則です。例えば裁判員制度が導入されたからと言って、いきなり被告人に訴訟が不利になった、有利になったという訳ではありません。正確な記憶がないのですが、最高裁判例上も「多少不利になったからと言って問題はない」と言う例があったような気がします。　しかし、公訴時効や住居侵入罪のような親告罪における訴訟条件に関して言えば、明らかに「なければ完全に処罰を封じられる」と言う意味では、被告人にとっては純粋な不利益変更性しか存在しないのです。　また、刑事訴訟法と言う「名前の法律」に書いてあるからと言って、「だから刑法ではない」と言う訳ではありません。罪刑法定主義で言うところの「刑法」かどうかは、定められている内容によって実質的に判断されなければならないからです。刑法に書いてあっても、「公訴提起できない」と言う刑事訴訟法のような規定だってあります。実質的に処罰を完全に封じ、「完全な処罰不能」を招いている公訴時効制度は、「実体法そのもの」としてふるまっていることを考えるべきだと思うのです。　・・・まさか法務省がこの程度の見解に反論できないなんてことは思えない（法務省法制局こそ、実は日本の「憲法の影の番人」でもある）のですが、今のうちに個人的見解を出しておこうかと思いまして、こんな文章をまとめました。　なお、この問題に直接回答するものだ、とは思わないし、法務省も知らない判例と言う訳ではまさかないと思うのですが、参考になるであろう判例（刑法６条の解釈論ではありますが）として最判昭和４２年５月１９日をどうぞ。時効制度が実体法と絡みついた制度であるのが分かります。　ちなみに、「条解刑法」では刑法6条についてですが、時効や訴訟条件について6条の適用はないと記されていました。ただし、根拠判例や理屈は見当たりませんでした。しかし、公訴の時効は、訴訟手続を規制する訴訟条件であるから、裁判時の手続法によるべきであるとしても、その時効期間が、犯罪に対する刑の軽重に応じて定められているのであるから、その手続法の内容をなす実体法（刑罰法規）をはなれて決定できるものではない。従つて、公訴の時訴が訴訟法上の制度であることを理由として、時効期間について、すべて裁判時の法律を適用すべきであるとするのは相当でない。そして、本件のように、犯罪後の法律により刑の変更があつた場合における公訴時効の期間は、法律の規定により当該犯罪事実に適用すべき罰条の法定刑によつて定まるものと解するのが相当である。

黙秘権に関するhidew氏の珍説

　今度は黙秘権に関して、hidew氏から珍説が飛んできました。全く困ったものです。まあ、これも笑い話という意味ではなく話のネタになりそうなので、使わせて頂きましょう。　黙秘権自体は過去に記事にしたことがありますが、こういう視点から記事にしたことはなかったので。　・・・まあ、あえて言えば、珍説と言ってもある意味仕方のないことではあるのかもしれません。というのも、hidew氏の言っていることは、字面そのものだけみれば正当そのものだからです。えっ、そうじゃないの？と思われる人がいたとしても、それだけで非難する気はありません。　もちろん、だとしてもhidew氏のwikipediaを読んだだけで、「お前は分かっていないんだ」と言う神経のずぶとさは、十分すごいものですが。　そもそも、日本の裁判で法解釈上の主張をするときに、wikipediaをプリントアウトしたものなんて持ってったら笑い話の種にしかされないはずです。一に判例二に判例。どうしてもない場合には、立法時の起草者などによる有権解釈。それすらも尽きたら学説ってところでしょうか。　ある「事実の立証」にwikipediaを印刷して持ってきた弁護士もいて、話の種になっていました。（調べるためのとっかかりにするか、他にどうしても見やすい資料がない場合にやむを得ず、というのなら分かりますがね）さて、彼が分かったつもりで主張する、「黙秘しても不利益になることはない」　というタテマエですが、さてそのタテマエがどの範囲であるのか。この現実を知らずに、黙秘すれば不利益にならないんだ、としか繰り返せないようでは実務家としては無能そのものです。というかお前どうやって司法試験受かったんだと言う話になってしまう可能性もあるでしょう。黙秘して不利になる場合、なんてのは実は司法試験や学部試験にも普通に出る問題なのです。　黙秘して不利益にならない・・・その「不利益」とは、どの点での不利益なのか。どの範囲なのか。それをわきまえなければ、黙秘は一発で愚策そのものに転落します。その例をあげる中で、hidew氏の浅はかな理解についても指摘します。　黙秘権がある中で、黙秘をした場合の対処として許されない行為は黙秘を理由とした刑罰や黙秘を理由とした不利益推認などに留まると解されています。不利益というのは「黙秘自体を悪としない」ということであって、黙秘についてくるさまざまな「派生的効果」による不利益は、黙秘という選択をする人間が自らかぶる必要があります。　もちろん,きちんとした弁護人がつけば、黙秘に伴うこうしたメリット・デメリットはきちんと教えてくれるでしょう。事例に合ったアドバイスももらえるかもしれません。実際問題、黙秘権があるからと言って黙秘の勧めが本当に得策だったのか裁判所が疑問を投げかけた裁判例もあります。　ただし、最終的に黙秘をするか決めるのは被告人自身です。　hidew氏は、こうした派生的効果による不利益を全く考慮していませんが、これは実務家としては致命的に痛いことなのです。別に実務家と同等の見識をhidew氏に求める必要は本来ないのですが、文句言うならその程度の見識は必要です。　というか、コメント欄でも短文で指摘したのだけどね。第一に、保釈を請求する場合はどうでしょうか。　黙秘をしていると、実務上、保釈許可の除外事由にあてられてしまう恐れがあります。黙秘することで、証拠隠滅する恐れがあると判断されるのです。そんな判断は許されない、と言っている弁護実務家は少なくないのですが、現実考慮して差し支えないと考えられています判例は最高裁でまで出ています(別論点と混同していましたので訂正します。ただし、そのように解されることがあるという指摘は多々なされています・・・と言うより、いわゆる人質司法として常々指摘されていることです)から仕方ありません。その正当性を認めるかどうかにかかわらず、少なくとも黙秘をすることでそういうデメリットがあることを計算することは必要です。第二に、逮捕・勾留されている場合はどうでしょうか。　黙秘をしていると、勾留期間が延びてしまうことがあります。弁解して、調べて裏が取れれば10日で済んだはずの勾留が伸びてしまうということがありえるのです。刑事訴訟法ゼミで東京地検に見学に行ったときに、応対に出た検察官が語っていましたから、間違いありません。検察だって捜査する必要があるし、裁判所だって捜査の必要も考えなければいけません。分からないからいつまでも身柄を拘束して調べるという大義名分が立ってしまうのです。　また、最初のうちは弁解していなくて、後から弁解を出すのは「その弁解が信用ならん」と判断される原因の一つです。彼が騒ぎたてている差戻し控訴審の判決文ですら、今更出す理由がないと指摘されて信用性が排斥されているのです。　もちろん、黙秘してみてそれでダメだったから方針変更ということ自体はありえますが、囲碁もいったん立てた方針を変えるのは損を招くことが少なくありません。その覚悟でもって黙秘をしなければならないということです。第三に、黙秘しても有罪になった場合、量刑ではどうでしょうか。　黙秘をしていることを量刑上不利益に扱うことは許されるかどうか・・・実はこれは争いがあり、判例でも見解が分かれるようです。　しかし、現実問題として黙秘をしていると不利です。というのも、「自白」については反省の兆候とみなして、あるいは犯人を発見するための政策的考慮として、量刑を減らす傾向があります。ケースによっては、自白が自首(法律上の減軽理由！！)にあたるケースもあります。　黙秘をするということは、少なくともこういった量刑を減らすチャンスを自ら放り投げることは覚悟する必要があります。　第四に、事実認定はどうでしょうか。ここがhidew氏の珍説の本丸でもあるので、少し厚く書きます。　黙秘をすることで、こいつはやったんだな・・・と推認することは、日本では許されないと考えられています。しかし、です。だから不利益になりえないと言うのも実は浅はかな理解・・・というか、そのまま実務家はやれないでしょう。　例えば、近接所持という事実認定の手法があります。平たく言えば、泥棒がいて、被害があった後、それから間がない時期にその盗品を持っている人がいた場合など、特段の事情がない限り、彼によって泥棒がされたと認定していいという事実認定の考え方で、司法研修所や法科大学院で幅広く教えられています。強盗事件とかだと、裁判員がこの考え方で事実認定する例もあるでしょう。　そして、特段の事情として扱われるのが、「被告人の検察官にも崩せない合理的な弁解」です。　例えば、盗まれた財布を持っていた理由として、誰かが落としたので拾ったとか、家族からもらったとか、人から買い取ったとかです。　こうした弁解が、一概に不合理と言えないな、と判断されれば、上記の近接所持による認定が覆ります。　　　しかし、これらは「弁解しなければ考慮のしてもらいようがありません」。　　現実問題として、およそ弁解されないものまで、ありとあらゆる可能性を全て考慮しなさいと言うのは裁判上も無茶です。また、およそ弁解自体できないような人は、そもそも心神喪失にあたり、裁判で被告人として起訴することもできません。　つまり、せっかく通用する弁解を持っていても、出さなければ＝黙秘していれば宝の持ち腐れで終わり、負けということは当然にありえるし、それを違法ということもできないのです。　札幌高裁判例平成14年3月19日（被告人が終始黙秘していた事例、検察は黙秘を不利益に推認すべきと主張したらしいが、裁判所は否定し無罪判決とした）に、以下のようなくだりがあります。「被告人が事実について一切黙秘し何の説明も弁明もしないために，検察官側の立証により形成された心証を崩すことができず，それが事実上被告人に不利益に働いてしまうということがあることは否定できないところと思われる。所論のいうところをそのようにとらえれば，それは一般論としては不当なところはないように思われる。」　なぜ黙秘権行使が訴訟上有効な戦術たりえるのか、それは挙証責任（ここでは「立証の現実の必要」という意味の挙証責任）が「まず」検察にあるからです。もし「まず被告人が立証しないとダメ」ということなら、黙秘は自殺行為です。　しかし、正当防衛や緊急避難等がよく基本書では出されますが、近接所持の例を見れば分かる通り、本来弁解することで崩すことができた検察側の立証によってできた心証を崩せないために黙秘が不利益に働く、「弁護側が何か立証しないとアウトになる事態」は確実にあるのです。　もちろん検察官の方で出す証拠にそれを示すものがあれば、検察官や裁判官の方で考慮してくれる可能性はありますが、先日も書いたように「検察官と裁判官では弁護役は本来足りない」のです。出せる事情は自ら出さなければ、自分の身を守れないと言う現象は確実にあるのです。　もちろん、こんな考え方おかしいんだ、と批判することは自由でしょう。しかし、現実に裁判官がそう言う以上、黙秘をする場合には、裁判官にそう判断されるデメリットを覚悟しなければ被告人の利益は守れません。　そして、光市母子殺害事件差戻控訴審ならば、被告人に比較的有利な判決を出した一審と二審の判決でさえも「殺意に関する挙証責任の壁」などはとっくに崩壊済、殺意なしについて、事実上弁護側に立証の必要があることは明らかです。　もちろん弁解しても殺意認定が落ちる水準になど行きっこないところかもしれませんが、かといって「弁解しなければ、ますますもって傷害致死の認定など取れっこない」のです。　結局、黙秘をしても不利益にならないと言うのは、所詮「黙秘自体が処罰されない」「黙秘を直接の理由に事実を不利に認定されない」と言う程度の話。黙秘が「効果的な戦術」たり得るかどうかはあくまで黙秘という戦術の利「害」得「失」や自分の持っている武器の双方をきちんと把握した上で対処することが必要です。　で、これもできないのに、黙秘が不利益にならないと言う10字余りの言葉だけで騒ぐのはhidew氏。　私の例示の下手さ加減の上げ足を取り続けて、いつしか俺様理解の方が全て正しいと思うようになったのでしょうか。まあ、当時は私のような一介の院生どころか、弁護士のブログに刑事弁護の神髄を説いて回る一般人も多数いらっしゃったので、それと似たようなもんだとは言えるのかもしれませんが、今になってサンプルが登場すると言うのも凄いものです。

被告人の利益に関するhidew氏の珍説―後編

　そこをあろうことか「例え死刑になっても土下座するのが被告人の利益」「弁解は開き直り」というのがhidew氏の人生観だと言う訳です。(こちら参照)　まあ、ただの個人的感想なら、むしろまっとうなものという印象すら受けるのですが、議論のやり取りを見ているとそうでないことが一目瞭然です。風１「（一般論として）９９%の事件では被害者に頭を下げた方が有益である。」Ｈ１「風１の通りなら光市弁護団がそうでないのは、別の目的があったからだ。」風２「弁護団は謝罪の手紙送付、法廷での謝罪など多方面で被告人に頭を下げさせている。」Ｈ２「あんな弁解を続けたままの謝罪など形式的謝罪に過ぎない、頭を下げたとは言えない」風３「hidew定義では謝罪にあたらないとしても、弁解を飲みこんでの謝罪は被告人の利益にならない。部分だけの謝罪でも、被告人に有利に扱われるので無駄ではない。」Ｈ３「被告人の利益とは、人の心を取り戻して謝罪することだ、例え死刑になってもである」　自分の希望をよりにもよって被告人に押しつけて、「死ぬのが利益」。私が一番最初に書いた記事を見て頂ければ分かる通り、これはありえない理解だと言っていいでしょう。　言っていることがサリン事件などでの人の死を救済とするオウム真理教の「ポア」と全く同レベルでしかありません。実行に移さないだけオウムよりましだとは言えるかもしれませんが、堂々と公言する神経に絞って言えばオウムより悪質です。　もちろんhidew氏はそれは人生観の問題と言って、予防線を張っていますが、全く意味をなしていません。　第一に、人生観の問題と言っても、その死刑になっても反省すべきという人生観に従う弁護人はまさしく違法な存在であるという点が第一。前者の価値観を持つ弁護士とは話が通じない？まあ、内心で考えることはhidew氏と同じことだと言う弁護士はむしろ多いかもしれません。しかしその通りにしたら不法です。言ってみれば、通用する「余地のない」、例え内心でもっていても握りつぶして職務にあたるしかない価値観なのです。　死刑相当の被告人の控訴を握りつぶした弁護人には、不法行為が成立しています。「死刑になっても謝れ」ではどうしようもありません。それを弁護人に求めるのがむちゃくちゃです。　第二に、、彼のこれまでの論法は、それ自体まさしく「被告人の利益とは死刑になっても謝罪し許しを得ることだ」と言う価値観に裏打ちされていなければ、成立しえないものだからです。　傷害致死について何の弁解も出さないで謝罪攻勢だけでどうにかなる事件だったのか。　彼はそれについて一切の道筋を示すことなく、証拠の検討もろくにしないままに、自分勝手な心証をぶちまけて弁解するなとばかり否定し続けました。　また、彼は聞き苦しい弁解について黙秘しろと言っていますが、黙秘権の戦術としての有効性を支える挙証責任の壁が完全に崩壊(最高裁の差戻判決)してしまい、「黙秘など自殺行為でしかなくなった状態」で行われており、一か八かの出撃野戦を挑まなければ死刑回避可能性に乏しい裁判でもあることを全く無視しています。被告人がそれでも情状だけでと言っているならいざ知らず、弁解を希望しているのに潰せと言うのなどありえません。　ただ単に主張を出させたくないが故にこのような言い分でごまかしていると取られてやむを得ないことです。　Sok氏も書いていますが、裁判所、検察、弁護の三者で被告人に反省文を書かせ、異論反論は受け付けさえせず、従容として死刑台に向かうことだけを被告人どころか弁護人にまで求めるのは、北朝鮮のような国のする司法であって立憲自由民主主義国家である日本の司法の自殺です。被告人の手続保障無視で憲法違反と言わざるを得ません。　また、hidew氏はこんな主張は通りっこないんだからという思い込み理論を一生懸命になって主張しています。　・・・さて、ろくに手続もしていない弁護人が、一方的に行う「認定」が、どうして検察官や裁判官と同じ誤りをしないと言えるのでしょうか。誤判というのは同じ誤りを検察官や裁判官が行ったから発生するものですが、弁護士が裁判官と比べて特別優秀である・・・そんな訳ないですね。　もしそこまで本当に見抜けるなら、面倒くさい手続をやらないで弁護人が裁判官をやった方がよほど早いでしょう。0.001％でも通用する余地があるのかと言ったhidew氏は、裁判官は合理的な疑いの余地を入れないと判断すればこそ有罪判決を下すし、その判断こそがこれまで冤罪を生んできたという、一昨日の記事の最後で指摘したことを完璧に失念しています。制度として、そんな通用しないような主張でもとにかくさせることで、とにかく間違いではないと言う正当な信頼を担保するのです。絶対的真実が訴訟の場に上る訳ではない以上、検察がしくじればそれまでというドライさも必要です。　まして、証拠も弁論もろくに見ないで、0.001％も成立しないという主張など、思い込み乙以外の何物でもありません。本当にそうなら、判決文で裁判所が証拠に基づいて排斥して行くはずがないのです。　この神経で、足利事件の裁判所をぐちゃぐちゃに非難するのは、どういうことなんでしょうか。頭と口がたくさんあるキングギドラかよともいいたくなります。　それでも、証拠を見てから言っているのならまだ寸分の遠慮もしますが、調べない！！批判したい！根性をさらして恥ずかしいとも思わない彼が証拠を見ているはずはありません。それに従わない弁護人は人間性を疑ったり、他の目的があった…これではカルト宗教の教祖です。　hidew氏の「人間としての心情」それ自体はそこだけつまめば至極真っ当なものかもしれないし、立法論を唱えるだけなら勝手にすれば済むのですが、現在の社会でそれに基づいて人を罵る神経は逆に人間性を疑われるものです。彼の場合、それが個人的信念だという自覚はあるようですが（あえて思考レベルをhidew氏レベルに落とせば、それはごまかしであろうと思いますが）、その実行が何をもたらすものか、法的にどうか分からなければ所詮はお子様理論にすぎません。　「無知は最強」を彼は地で行っています。　最後にちょいと余談。　某弁護士曰く、「弁護団批判者に見える傾向」で、「反弁護団、橋下弁護士支持のひとは、いわゆるネット右翼の人（嫌韓流とか、反朝日、反毎日とか、石原慎太郎コミュなんかに入っているのが特徴？）、そしてアニオタっぽい人（入っているコミュニティと友達の画像でなんとなくわかる。こなたやらかがみの画像の多いこと！）。が多いんですね。」　だって。　囲碁とかと全く関係なくやっているマイミクで、銀様やなのはやシャナネタを扱っている(世間一般の目からすれば)アニオタに属するであろう自分としては、実に不愉快ですね。

被告人の利益に関するhidew氏の珍説―中編

　もう一つ、総論的な話を織り交ぜておくとしましょう。　それは、刑事裁判において弁護をする義務があるのは誰か？という問いです。　「弁護人」と答える人は、１００点満点中５０点というところでしょうか。　別に弁護人で間違いではありません。完全な間違いなら１点もあげないでしょう。それに、その答えを出す人はむしろ一般常識人です。恥じることはありません。　刑事裁判において、弁護をする義務があるのは、「検察官・裁判官・弁護人」です。　検察官が弁護をするとはどういうことだ、と思われるかもしれませんが、少し考えてほしいのです。　裁判官は、出された証拠について、被告人に対しても有利な事情があると判断すれば、弁護人や被告人が主張しているか否かを問わず発見し、立証を促し、場合によっては判決を出す義務があります。被告人に有利な事情を拾い上げて有利に裁判を持っていく、これはつまり弁護人のやっていることと本質的に変わりがありません。　検察官は、検察官が公益の代表者であるという見地（検察庁法４条）から、検察官は被告人に「有利不利問わず」客観的に事件について判断する義務があるとされています。だから、被告人に有利な証拠を検察が見つけたら、検察はそれもふくめて起訴不起訴の処分も決しますし、有利な事情まで考えて法律適用や求刑も主張します。　これも、やっていることは弁護人同様に被告人を守ることです。　真犯人が裁判の最中に見つかれば、無罪判決を求める例もありますし、足利事件なら、再審公判で検察は有罪である旨の抵抗を一切していません。要するに自分を負けにしてくださいと言うことですが、無実の人間を罰しないのも公益ですから、そのためには勝ち負けがどうだの話ではないので、当然のことです。　こういった弁護のあり方を、実質的弁護と呼ぶこともあります。とにかく弁護に専念する弁護人を付けると言うやり方をこれに対置して形式的弁護と呼ぶこともあります。（形式的だから形ばかりの弁護しかしないという意味ではなく、とにかく形式的に弁護人がついてそれに専念すると言うやり方です）　刑事裁判は、理念だけで言えば、検察１：弁護１ではなく、検察0.5：弁護1.5で戦うものだと言っても、まあ間違いではないのです。　しかし、難癖をつけるしかできない弁護人と違って、彼等は強制力があるだけに強い。起訴猶予の権限、判決決定権限、全部検察官と裁判官が握っています。弁護人はその点の決定権限を何も握っていません。　刑事裁判における最強の弁護人にして被告人の人権をもっとも守れる立場にいるのは、実は裁判官と検察官なのです。　・・・とここまで書いたら、誰もが不思議に思うはずです。　じゃあなんで弁護人がいるんだ？検察官や裁判官がきちんと働けば、冤罪なんて起こりっこないじゃないか…と思う方もいるでしょう。ここまで読まれた方が抱く疑問としてはそれも至極まっとうです。　まあそれも簡単な話です。　検察官と裁判官では弁護役が足りないからです。　検察官は被告人を訴追する役目をも担っている以上、どうしたってできることが限られてきます。自分を訴追するものではない相手に喋れることも、訴追者には喋れないということがありえます。被告人に法的なことは分かりにくいだけに仕方のないことでしょう。　しかも、事件を発見、捜査する役割である以上、どうしたって弁護的視点は落ちがちになります。　裁判官も、今の日本の訴訟構造でできることは限界がありますし、喋れることと喋れないことが出てくるのは仕方ありません。そうしてみれば分かるのが、「刑事裁判において弁護人は、(検察官と裁判所がその役目をきちんと果たしていれば)本当はいらないものなのに、更に保険としてつけられている」　のです。そうすると、検察官がその任務をきちんと果たしている場合であればあるほど。弁護人が出すことのできる言い分は苦しいものにならざるを得ません。　では、だからということで弁護人が検察官が言っていることは誠にその通りでございますと言ってさっさと降参したらどうなるでしょうか。　検察官の主張にメスを入れるのが、先述したようにできることに限界がある裁判所しかいなくなってしまいます。　これまで、弁護人が決死の思いで弁護をしてきたのに、起こってきた冤罪事件というのは確かにあったのです。この上更に弁護を緩めるのは、裁判所の弁護能力を更に落とすこと、ひいては本当にその裁判で正しいのかという点で疑問を持たれることを大いに覚悟しなければなりません。そもそも検察と裁判所がきちんと働けば働いていれば、弁護人は苦しい立場にいる。それも監視役を置かなければ冤罪は防げないから、弁護人を置いているわけです。　だから、コンマ何パーセント通らない主張だからだめ、なんて言いだすのは、何のために検察官や裁判官の判断を信用しないで、弁護人を置くのかというのを理解していない証拠なのです。　　ここで、「今回は冤罪じゃないからいいんだ」とぶち上げるhidew論法では問題です。どんな事件だって、検察官も裁判官も「これは冤罪じゃありえない、被告人の言い分なんか認められるはずがない」でやってきて、結果冤罪事件が起こっているのですから。　その手のぶち上げがやりたいなら、これまで起こってきた冤罪事件について、もっと冤罪が起こっても仕方ない、と言う覚悟が必要です。　なお、別にこの話は知らなかった所でおかしなことではありませんし、恥ずかしがることではありません。法科大学院生ですら、半分も知らないのではないかとすら思います。こんな話を知らなくたって司法試験は受かりますし（たぶんだけど）。　もっとも、一定の議論をするなら、当然知っておくべきこと、踏まえて考えておくべきこととして、この話題はあります。　知らない、あるいは踏まえて考えられないけど非難するのが…そう、hidew氏です。

被告人の利益に関するhidew氏の珍説―前編

　まあ、色々反論文を用意していましたが、「こ　れ　は　ひ　ど　い」としか言いようのないほどにぶっとんだ言い分が返ってきました。同時に、hidew氏がどうして法的主張に耳を貸さず、俺様主張に固執するのか、その根源が一つ見えました。　いい話のネタ（笑い話という意味ではない）でもあるので折角ですから先に関連する話題を記事にしてみましょう。　先に総論的な話をして、次にhidew氏の珍説について指摘します。　長くなったので、今日の所は総論だけ。　なお、先に参照資料と本文中の略称を掲げておきます。　前者の著者、佐藤博史氏は刑事弁護の大家として知られる弁護士で、足利事件の弁護人としても有名な方です。　後者は、司法試験に合格し、実務家を目指して修習する司法修習生が刑事弁護のテキストとして使う本です。実務家になってからも目を通す機会は多いでしょうし、最近は市販もされていますから、法科大学院生などでも目を通すことがあるでしょう。佐藤→佐藤博史著「刑事弁護の技術と倫理」有斐閣実務→司法研修所刑事弁護教官室「刑事弁護実務」平成18年版　では、本題に移ります。　刑事裁判、というより広い意味の刑事手続において、弁護人が被告人の利益を守ることは至極当然なことです。　・・・しかし、「何が被告人の利益か」、というのは、実は微妙な部分もあります。　刑事裁判における被疑者・被告人の利益は、基本的には無罪、もし有罪を認めざるを得ないならば刑の軽減の利益が基本です。被疑者段階であれば、身柄を釈放される方がよいということにもなるでしょう。これらが刑事訴訟法で想定されている、被告人の利益というものです。　しかし、被告人によっては、違う方がいい、無罪より有罪がいい、軽い罰より重い罰ということもあります。以下のような現象を考えて頂ければよいでしょう。一、自分は無実だけど、認めないで長期勾留されるのは嫌だからさっさと罰金でも何でも払って仕事に復帰したい（痴漢冤罪の件などでよく指摘される現象）と被告人が言ってきた場合。二、無実なのだけど上司やら親族をかばいたいばかりに、あるいは良心の呵責や住む家がない等何らかの理由で刑務所に入りたいばかりに自分から有罪判決を求める（身代わり犯、服役志願）場合。　これらについてどう扱うべきか。答えは本当は一つであるべきと思うのですが、実を言えば未だ確定的な解答はありません。「これはダメ」というのはいくつかありますが、こうすればいいというのは微妙なのです。　そのような主張をやめるよう説得をする、というのはまあ普通（実務68頁、佐藤37頁）ですが、説得は所詮説得。相手がどうしても折れない場合を想定しなければならないのです。折れない場合を「想定しない」のはもはや説得ではなく強要に他なりません。（まあ、現実に折れない場合は少数のようですが…）　また、説得をするのは、弁護人の真実義務の所産ではなく、被告人の利益のための説得でなければなりません。（佐藤37頁）　おそらく弁護士によっても違うでしょう・・・かつてゼミで調べた際、弁護士アンケートの解答は傾向こそあったものの多様でした。　一番の事例については、司法研修所の刑事弁護教官の多数説によれば「辞める」とのこと。現役の弁護教官の弁護士から聞いたので間違いありません。一つの回答ではありますが、いずれ誰かが弁護しなければなりませんし、辞められる保証はないのも事実で、私が聞いた相手の弁護士も、弁護するかなぁ…と言っていました。また、「極力辞任は回避すべき」とも書いてあります（実務69頁以下）。また、仮に辞めたいがために被告人が身代わりなんだとばらせば、それこそ守秘義務違反で刑罰ということもありえます（実務69頁、佐藤38頁）。　また、二番の事例について、身代わり犯であると言って弁論することは、真犯人を隠す被告人の企てに協力したということで、犯人隠避罪が成立する可能性もあります。（田口守一「裁判論」より。なお、実務69頁では問題ありと指摘）と言って、身代わり犯であることをばらすことは、守秘義務違反になるでしょう。　先述の佐藤説からは、一応の個人的回答として、「知ってしまったから辞める、次の弁護士にそういうことを知らせるな」と申し向けるとは書いてありました。これも一案でしょう。ただ、嘘を申し向けることを勧めるのは弁護士倫理に触れないだろうか、と問いを残して、最終的には「定まった答えはない」と結んでいたことからしても、彼の中でも確定的な答えとは言い難いのでしょう。また、裁判所はいちいち詮索するな、と書いてありましたが、理念的にはともかく裁判所が理由を詮索する現状でどうあるべきかの答えにはならないでしょう。　私であれば、説得を試みた上で折れない場合、辞めるか、うまく辞められる見通しが立たないならば証拠不十分だとでも言って双方とも無罪判決の獲得に動くと思います。（佐藤・37頁は事例２について一般的な答えとして私と同じ見解を紹介している）　・・・とまあこんな風に、何がいいたいかと言えば、被告人の個人的人生観と、法的一般に考えられている利益は、ぶつかることがあります。そして、その中には、答えのないジャンルもあります。　・・・ただし、ただしです。　被告人の「最も基本的な利益が無罪の利益にあり、その後に減刑の利益があること」に関して言えば、実務上は全く争いなく認められていることです。そして、被告人の言い分とこの利益が一致しさえすれば、それに従うことには問題ありませんし、むしろ従わない方に問題があります。　例えば、「被告人は無実だが、こんな疑いをかけられたのは、彼の普段の生活態度が悪いからだ。一旦反省させた方が長い目で見れば被告人の利益だから有罪として弁護する」という弁護人はよいか。　学部時代、弁護人の真実義務についての発表前に検討していて、検討素材として周囲のゼミ生に聞いてみたのですが、それでOKという解答は一人もいませんでしたし、実務家もそうでしょう。　この点について争いがあると言う実務家の方がもしいましたら、ご指摘お待ちしています。　つまり、罰を受けて反省することや謝罪すること、更生することは、弁護人の実現を目指すべき被告人の利益ではありません。「弁護人による真相解明は、被告人の免責、刑の軽減の方向に限られる」のです。（実務66頁よりそのまま引用）　「現実には」、罪を認める事例が多いし、それを前提にすれば反省や謝罪が量刑上有利になるし、人間として被告人の今後に思いをはせて、もう罪を犯してほしくないと願う弁護人の好意から、そのために何とかする弁護人は多いでしょう。　しかし、それに思いをはせ過ぎて本来なすべき職務をさぼるのは、本末転倒以外の何物でもないのです。　私の上述の理解は、囲碁で言うなら、「初手１の１は最善手ではない」くらい争いがないことでしょう。初手の最善は星か、目外しか、小目か、三々か、高目か、天元か、辺か。結論は出ていなくとも、１の１ではないことは取りあえず分かるぞ、ってことはあります。例え最善手がどれか全く分かっていない人であってもです。　つまり、自分は有罪判決を受けて、不反省とみなされて有罪でも重い罪になるかもしれないけど無罪になりたい、と被告人が主張する限り、弁護人は無罪主張をしなければなりません。もちろんこれは真っ白の無罪を主張するに限らず、一部冤罪、すなわち自分は罪を犯したけど検察の言うこと全部をやった訳ではない、という主張についても同様です。続く

今年初めて打った一局

　幽玄の間で。　　白番１目半勝ちでした。　幽玄の８段は苦労しないと勝てません。８段相手の互先は３勝３敗くらい（最近あまり打ってない）ですが、勝った碁は１局が白番１目半、一局が白番２目半、一局が白番半目…ヨセ自体は得意なので細かく勝つのは苦手ではないけど、そこに行くまでが一苦労で、負けは全部中押し負けです。　７段相手の向先の方が、精神的には楽です。　この碁は、コウがらみの微妙な仕手合戦で後れを取ったのですが、黒がひよったのを機に一気に差が縮まりました。ほとんど半目勝負でしたが、小寄せでちょっと得して１目半差がつきました。　去年は、年末にばきばきといろんなものが折れてしまった一年だったのですが、今年はこの調子でいけるとよいのですが。