知事は育児休暇を取るなという説(一部注記追記)
広島県知事の湯崎氏が育児休暇を取った(正確には、労働時間の裁量があるところを育児を目的に休んだという方が正しいようですが)所大阪府知事の橋下氏が世間知らずだと噛みついたこと。(こちらなど参照) ヤフーコメントの大勢は橋下氏支持のようです。 広島県の方に送られてきたメールも多数説は育休反対。 多く見かける意見は「民間なら取れない」更に橋下氏は公務員が休むのは民間が取りやすい環境を作ってからだというものです。 これについて思うのは、行政の力で「民間が取りやすい環境」というのはどうやったら作れるんだ?ということです。 当たり前の話ですが、育児休暇を取ったことを理由に解雇、不利益処分したり、合理的な理由なく昇進を遅らせたりすることは違法です。解雇は無効、働かせなかった間の給料や賃金の差額まで利息つきで払わせられる羽目になります。 中小企業やコンプライアンスが中間管理職まで行きとどいていない企業だと切って何か悪いの?とかせっかく正当な解雇理由があるのに育児休暇を原因に切るという非常識な企業もある(やる前に顧問弁護士にでも相談していれば、普通は止められるとしたものです)ようですが、まともな企業ならまあ分かっていないはずはないでしょう。 もし育児休暇を原因に不利益をこうむったらどうすればよいでしょうか。 労働組合が機能している所なら労働組合、それがダメそうなら労働局(労働基準監督署は厳密には管轄が違うようです・・・まあ誘導はしてくれると思いますが)なり、或いは弁護士に頼むという手もあるでしょう。 裁判所が関与する事態になっても、労働の専門家も関与して比較的早期に判断を下すいわゆる労働審判制度もできています。 こんな風に、不利益がないという建前があるにもかかわらず、なぜ育児休暇は取れないのか。 まずは、「それでも育休切りは社会問題になっています」。 それは、訴訟などでは原状回復に至らない(職場復帰は現実には難しい)こと、勝訴の見込みも必ずしも高くない(会社側は解雇されてもやむを得ない他の事情をあれこれ主張してくる可能性がある)こと、さらにその危険から泣き寝入りしてしまう被害者が多いことに原因があります。やられたら争えばいい、という訳にもいかないのが一つですね。 第二に、職場内での意識です。 育児で休暇を取るとは何事か、という意識があれば、仮に育児休暇が権利として認められていたって休暇は取りにくいものです。また、そのような意識があればこそ、育休切りなんてことをやる企業も出てくるのでしょう。 では、これに対して行政はどうすれば「育児休暇が取れる環境」が作れるのでしょうか。 ヤフーのコメント欄をさらっと見ましたが、民間ではこうだ、とか行政が環境を整えてから休むべきだなどと言う人は全くと言っていいほど代案を出しません。それは橋下氏ですら例外ではないのです。(まあ、記事にされていないところで代案などを語っている可能性もあるので、その点攻撃することは控えたいのですが…)ついでに橋下氏の場合、2週間公務支障覚悟で休め、とか言ってるのも、私にはただの挑発にしか聞こえません。 日本の景気を良くして休めるように…というのは現状あまりにも迂遠な方策であり、絵にかいた餅の域を出ません。現実に自民党政権でも民主党政権でもその具体的内容は違えどやっていた(る)ことです。 また、知識として育児休暇を広めることは今もやっていますが限度があるでしょう。先述したような非常識な会社を減らすということは確かに大切ですが、非常識な会社だけが育休切りをしている訳ではおそらくないでしょう。 また、特に告発等があった訳でもないのに、行政が介入してびしばし取り締まるのにも限度があります。育児休暇はあくまで「労働者の権利」であって「労働者側に取得義務がある」訳ではない以上、泣き寝入りする人に方策を教えることはいいとしても、行政が強引に育児休暇を取れとたきつける訳にはいきません。他の家族などのバックアップがある場合に、企業のキャリアアップを優先したいと考えるのもそれはそれで尊重されるべき選択です。 結局、行政はどうしたら育児休暇を取れる社会とやらを作れるのでしょうか、と言っても今行政がやっていること以外で、かつ現実的にできることの範囲では、育児休暇をとれるようにするのは百年河清を待つようなことではないのかと思えます。 対策もこれと言って打てないのに、抽象的に民間では取れないから民間が取れるまで育児休暇を取るなという理屈を語るならば、それは結局「育児休暇を取るな」そのものになるでしょう。法的に認められた権利に対し、世間の常識とやらで圧力をかけて取るなというのが、まともな社会人のやることとは私には思えないのですが。 ましてや橋下氏ともなれば、知事という公人の立場にある上法令順守に定評のある(笑)弁護士でもあるはず。個人的な思想信条がどうであろうと関知しませんが、公人としての立場での橋下氏の言説は、彼の発言の全てが報道されている訳ではないということを差し引いて考えても、かなり不愉快なものがありました。これで橋下氏がものの見事に育休切りなどを撲滅させて育休を取りやすい環境を実現しているとすれば、逆に尊敬に値すると思うのですけどね。 知事だから取るな、という人たちは、知事に文句を言う前に、都道府県のトップにも自由裁量での休暇を認める法制度の改正から主張してはいかが。 もちろん、広島県民の皆さんが本件のことで知事としての資質についてどう考えようが、私は関知しません。 法的な権利の行使であったとしても、「政治家を選ぶ際」には否定的に考慮される要素となること自体はいけないとは思わないからです。否定的なメールを送った人でも、総合的に見て次の知事選で湯崎氏を支持することも当然ありえるでしょうし、逆もしかりです。 ただし、今回の騒動で民間では取れないからなどという理屈を主張した人は、また育児休暇を取りにくくする雰囲気の醸成に加担したということは覚えておいた方がいいでしょう。