この話をし始めると、息子は「止めろ!」と叫んで襲いかかってくる。
あるところにお爺さんとお婆さんが住んでいました。
ある日、お爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯へ行きました。
お婆さんが川で洗濯をしていると、上流から、どんぶらこっこ、どんぶらこっこと、腐りかけた死体が流れてきました。
お婆さんはその死体を家に持って帰りました。
「これは立派な死体ではないか」
とお爺さんも大喜びです。
さっそく料理しようと、お婆さんが包丁で皮をむくと、中から、顔色の悪い、気色の悪い男の子が出てきました。
二人はその子を、死体から生まれた「死に太郎」と名付けて、大切に育てました。
と言っても、もともと死んでいる死に太郎ですから、一日ぐったりと寝てばかり、しかも、得も言われぬ臭い臭いが漂っています。
そんなある日、死に太郎が言いました。
「鬼ヶ島の鬼たちが人々を苦しめているそうです。私が行って、奪われた宝を取り戻してきます」
お爺さんとお婆さんは、実は死に太郎をもてあましていたので、良い厄介払いになると、この申し出を歓迎しました。
門出に、死体から作った「死に団子」を持たせました。
死に太郎が鬼ヶ島に向かっていくと、道に犬が死んでいました。
その死体を肩にかけて歩いて行くと、次にはサルが死んでいました。
その死体を肩にかけて歩いてくと、次にはキジが死んでいました。
それもまた肩にかけ、船に乗り、鬼ヶ島へと漕ぎ出しました。
異臭に気づいた鬼たちはざわめき始めました。
「こ、これは、いったい何の臭いじゃ」
「あれを観ろ、犬と、サルと、キジの死体を抱えた死体がこっちに向かってくるぞ!」
死に太郎は叫びました。
「鬼ども! 人々から奪った宝を返せ!」
鬼たちはあまりの気色の悪さに動顛しました。
「あんなのに上陸されちゃ、かなわん。宝どころの騒ぎじゃない」
鬼たちは死に太郎に言いました。
「返す! 返す! だから、今すぐ帰ってくれ!」
鬼たちは宝を死に太郎の船に投げ入れました。
死に太郎は宝を村に持ち帰りましたが、死臭のついた宝など、だれも持ち帰りません。
死に太郎は最初から死んでいるので死ぬこともなく、お爺さんお婆さんが死んだ後も、宝に囲まれて、いつまでもいつまでも、きっと今でも、たった一人で寝ているのでした。
めでたし、めでたし。