風狂夜話２

武田頼政　大乃国がガチンコだってことは知っているわけですよね。

板井圭介　もちろん知っていました。でも向こうが受けないことがわかっていながら、

　心理戦であえて八百長を持ちかけたことはありました。そうして、自分に闘志を漲

　らせて、得意の張り手でガツンと。それでも大乃国は、その後も一度も八百長の誘

　いには屈しなかった。だから横綱なのに負け越したこともあったけど、大乃国のこ

　とは八百長力士も皆、尊敬していましたね。

武田　○○年の外国特派員協会での会見では、「幕内の取り組みの八割が八百長だった」

　と話しました。

板井　中盆として、幕内の星の貸し借りの全容を把握していた私が言っているのだか

　ら、事実です。

（中略）

板井　八百長の蔓延で言えば、忘れられない話が二つあります。

　ある時、土俵入りのために化粧回しをつけて待っていたら、ある関取りが話しかけ

　てくるんです。「板井よ、実はオレ緊張してるんだ」。「どうして緊張してるんで

　すか」と聞いたら、何と三十二番ぶりの真剣勝負だと言うんです。これ、ほんとう

　の話ですよ。

　もう一つが、ある場所での幕内上位の一番。これも相撲界では有名な話なんですけ

　ど、付け人が間違えて、両方とも負けるように指示を出してしまった。土俵を見て

　いたら相手が倒れそうになると一方が助ける。その繰り返しで大熱戦になった。マ

　ンガみたいな大相撲に皆で大笑いしたものです。

武田　そもそも大相撲になぜ八百長が存在するのだと思いますか。

板井　力士の立場からすれば、ガチンコが少なくなることによって、精神的なプレッ

　シャーが少なくなることだと思いますよ。ガチンコ相撲というのは相当なプレッシ

　ャーがかかるんです。仮に八百長で五勝五敗まで計算が立っていれば、本当に集中

　しなければいけないのは五日だけ。精神的にずいぶんラクになる。さらに八百長が

　多ければケガも少なくなるでしょう。

　ただ、基本的にはやっぱり弱い奴は落ちていくわけですよ。弱い力士には星を売り
　
　ませんからね。

武田　相撲協会が本当に調査すべきは「相撲賭博」だと思います。

　（野球賭博の）八百長メールの蔭に隠れて、その後の続報はほとんどありませんが

　相撲賭博は完全な犯罪です。板井さんはかつて八百長を告発した際、その存在につ

　いても言及していましたね。

板井　同じ胴元が野球賭博とセットで相撲賭博を開いているという話は聞いたことが

　あります。

（文藝春秋４月号「八百長告発の本家・沈黙を破る」）


まことに日本のお家芸「八百長」の実態が切々と語られている。

これはなにも、大相撲に限らない、政治・経済・教育・マスコミ・演芸などの各業界

にもれなく見られる実態であろう。

真の黒幕が興行のプロジュースを手がけている。ガチンコと八百長が表と裏の関係で

見世物にしている。われわれ観客は、うすうす気づきながら、浮世の義理で騙されて

見てしまう。渦中の演者の危うい人生行路に同情しながらであるが。

そうすると、真剣に「八百長を告発し、訴える」という原理主義者の背景にあるもの

にも疑わざるを得ない。まあ、一種の演技ですね。

とにかく今の日本のあらゆる場面で、おおがかりな「八百長劇場」が興行されている

のだろう。誰も「いまただちに危機におちいる場面ではありません」と吹聴して、す

くみあがっている。情けない。