JEWEL
日記・グルメ・小説のこと715
読書・TV・映画記録2705
連載小説:Ti Amo115
連載小説:VALENTI151
連載小説:茨の家43
連載小説:翠の光34
連載小説:双つの鏡219
完結済小説:桜人70
完結済小説:白昼夢57
完結済小説:炎の月160
完結済小説:月光花401
完結済小説:金襴の蝶68
完結済小説:鬼と胡蝶26
完結済小説:暁の鳳凰84
完結済小説:金魚花火170
完結済小説:狼と少年46
完結済小説:翡翠の君56
完結済小説:胡蝶の唄40
完結済小説:琥珀の血脈137
完結済小説:螺旋の果て246
完結済小説:紅き月の標221
火宵の月 二次創作小説7
連載小説:蒼き炎(ほむら)60
連載小説:茨~Rose~姫87
完結済小説:黒衣の貴婦人103
完結済小説:lunatic tears290
完結済小説:わたしの彼は・・73
連載小説:蒼き天使の子守唄63
連載小説:麗しき狼たちの夜221
完結済小説:金の狼 紅の天使91
完結済小説:孤高の皇子と歌姫154
完結済小説:愛の欠片を探して140
完結済小説:最後のひとしずく46
連載小説:蒼の騎士 紫紺の姫君54
完結済小説:金の鐘を鳴らして35
連載小説:紅蓮の涙~鬼姫物語~152
連載小説:狼たちの歌 淡き蝶の夢15
薄桜鬼 腐向け二次創作小説:鬼嫁物語8
薔薇王転生パラレル小説 巡る星の果て20
完結済小説:玻璃(はり)の中で95
完結済小説:宿命の皇子 暁の紋章262
完結済小説:美しい二人~修羅の枷~64
完結済小説:碧き炎(ほむら)を抱いて125
連載小説:皇女、その名はアレクサンドラ63
完結済小説:蒼―lovers―玉(サファイア)300
完結済小説:白銀之華(しのがねのはな)202
完結済小説:薔薇と十字架~2人の天使~135
完結済小説:儚き世界の調べ~幼狐の末裔~172
天上の愛 地上の恋 二次創作小説:時の螺旋7
進撃の巨人 腐向け二次創作小説:一輪花70
天上の愛 地上の恋 二次創作小説:蒼き翼11
薄桜鬼 平安パラレル二次創作小説:鬼の寵妃10
薄桜鬼 花街パラレル 二次創作小説:竜胆と桜10
火宵の月 マフィアパラレル二次創作小説:愛の華1
薄桜鬼 現代パラレル二次創作小説:誠食堂ものがたり8
薄桜鬼 和風ファンタジー二次創作小説:淡雪の如く6
火宵の月腐向け転生パラレル二次創作小説:月と太陽8
火宵の月 人魚パラレル二次創作小説:蒼き血の契り0
黒執事 火宵の月パラレル二次創作小説:愛しの蒼玉1
天上の愛 地上の恋 昼ドラパラレル二次創作小説:秘密10
黒執事 BLOOD+パラレル二次創作小説:闇の子守唄1
黒執事 現代転生パラレル二次創作小説:君って・・3
FLESH&BLOOD 二次創作小説:Rewrite The Stars6
PEACEMAKER鐵 二次創作小説:幸せのクローバー9
黒執事 韓流時代劇風パラレル二次創作小説:碧の花嫁4
火宵の月 BLOOD+パラレル二次創作小説:炎の月の子守唄1
火宵の月 芸能界転生パラレル二次創作小説:愛の華、咲く頃2
火宵の月 ハーレクインパラレル二次創作小説:運命の花嫁0
火宵の月 帝国オメガバースパラレル二次創作小説:炎の后0
薄桜鬼 昼ドラオメガバースパラレル二次創作小説:羅刹の檻10
黒執事 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:碧の騎士2
薄桜鬼ハリポタパラレル二次創作小説:その愛は、魔法にも似て5
薄桜鬼 現代妖パラレル二次創作小説:幸せを呼ぶクッキー8
黒執事 転生パラレル二次創作小説:あなたに出会わなければ5
薄桜鬼 現代ハーレクインパラレル二次創作小説:甘い恋の魔法7
薄桜鬼異民族ファンタジー風パラレル二次創作小説:贄の花嫁12
火宵の月 現代転生パラレル二次創作小説:幸せの魔法をあなたに3
火宵の月 転生オメガバースパラレル 二次創作小説:その花の名は10
黒執事 異民族ファンタジーパラレル二次創作小説:海の花嫁1
PEACEMAKER鐵 韓流時代劇風パラレル二次創作小説:蒼い華14
YOI火宵の月パロ二次創作小説:蒼き月は真紅の太陽の愛を乞う2
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の巫女0
火宵の月 韓流時代劇ファンタジーパラレル 二次創作小説:華夜18
火宵の月 昼ドラ大奥風パラレル二次創作小説:茨の海に咲く華2
火宵の月 転生航空風パラレル二次創作小説:青い龍の背に乗って2
火宵の月×呪術廻戦 クロスオーバーパラレル二次創作小説:踊1
火宵の月×薔薇王の葬列 クロスオーバー二次創作小説:薔薇と月0
金カム×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:優しい炎0
火宵の月×魔道祖師 クロスオーバー二次創作小説:椿と白木蓮0
薔薇王韓流時代劇パラレル 二次創作小説:白い華、紅い月10
火宵の月 遊郭転生昼ドラパラレル二次創作小説:不死鳥の花嫁1
火宵の月 現代転生パラレル二次創作小説:それを愛と呼ぶなら1
FLESH&BLOOD 千と千尋の神隠しパラレル二次創作小説:天津風5
鬼滅の刃×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:麗しき華1
薄桜鬼腐向け西洋風ファンタジーパラレル二次創作小説:瓦礫の聖母13
薄桜鬼 ハーレクイン風昼ドラパラレル 二次小説:紫の瞳の人魚姫20
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:黄金の楽園0
火宵の月 昼ドラ転生パラレル二次創作小説:Ti Amo~愛の軌跡~0
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:鳳凰の系譜0
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:鳥籠の花嫁0
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:蒼き竜の花嫁0
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:月の国、炎の国1
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:碧き竜と炎の姫君0
コナン×薄桜鬼クロスオーバー二次創作小説:土方さんと安室さん6
薄桜鬼×火宵の月 平安パラレルクロスオーバー二次創作小説:火喰鳥6
ツイステ×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:闇の鏡と陰陽師4
陰陽師×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:君は僕に似ている3
黒執事×ツイステ 現代パラレルクロスオーバー二次創作小説:戀セヨ人魚2
黒執事×薔薇王中世パラレルクロスオーバー二次創作小説:薔薇と駒鳥27
火宵の月 転生昼ドラパラレル二次創作小説:それは、ワルツのように1
薄桜鬼×刀剣乱舞 腐向けクロスオーバー二次創作小説:輪廻の砂時計9
F&B×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:海賊と陰陽師1
火宵の月×薄桜鬼クロスオーバーパラレル二次創作小説:想いを繋ぐ紅玉54
バチ官腐向け時代物パラレル二次創作小説:運命の花嫁~Famme Fatale~6
火宵の月 昼ドラハーレクイン風ファンタジーパラレル二次創作小説:夢の華0
火宵の月 現代ファンタジーパラレル二次創作小説:朧月の祈り~progress~1
火宵の月 現代転生パラレル二次創作小説:ガラスの靴なんて、いらない2
黒執事×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:悪魔と陰陽師1
火宵の月 吸血鬼オメガバースパラレル二次創作小説:炎の中に咲く華1
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:黎明を告げる巫女0
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:光の皇子闇の娘0
火宵の月 異世界ファンタジーパラレル二次創作小説:闇の巫女炎の神子0
火宵の月 戦国風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:泥中に咲く1
火宵の月 和風ファンタジーパラレル二次創作小説:紅の花嫁~妖狐異譚~2
火宵の月 地獄先生ぬ~べ~パラレル二次創作小説:誰かの心臓になれたなら2
PEACEMAKER鐵 ファンタジーパラレル二次創作小説:勿忘草が咲く丘で9
FLESH&BLOOD ハーレクイン風パラレル二次創作小説:翠の瞳に恋して20
天官賜福×火宵の月 旅館昼ドラクロスオーバーパラレル二次創作小説:炎の宿1
火宵の月 異世界ハーレクインファンタジーパラレル二次創作小説:花びらの轍0
火宵の月 異世界ファンタジーロマンスパラレル二次創作小説:月下の恋人達1
火宵の月 異世界軍事風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:奈落の花1
FLESH&BLOOD ファンタジーパラレル二次創作小説:炎の花嫁と金髪の悪魔6
名探偵コナン腐向け火宵の月パラレル二次創作小説:蒼き焔~運命の恋~1
火宵の月 千と千尋の神隠し風パラレル二次創作小説:われてもすえに・・0
薄桜鬼腐向け転生刑事パラレル二次創作小説 :警視庁の姫!!~螺旋の輪廻~15
FLESH&BLOOD ハーレクイロマンスパラレル二次創作小説:愛の炎に抱かれて10
PEACEMAKER鐵 オメガバースパラレル二次創作小説:愛しい人へ、ありがとう8
FLESH&BLOOD 現代転生パラレル二次創作小説:◇マリーゴールドに恋して◇2
火宵の月×天愛クロスオーバーパラレル二次創作小説:翼がなくてもーvestigeー0
黒執事 昼ドラ風転生ファンタジーパラレル二次創作小説:君の神様になりたい4
薄桜鬼腐向け転生愛憎劇パラレル二次創作小説:鬼哭琴抄(きこくきんしょう)10
火宵の月×ハリー・ポッタークロスオーバーパラレル二次創作小説:闇を照らす光0
火宵の月 現代転生フィギュアスケートパラレル二次創作小説:もう一度、始めよう1
火宵の月 異世界ハーレクインファンタジーパラレル二次創作小説:愛の螺旋の果て0
火宵の月 異世界ファンタジーハーレクイン風パラレル二次創作小説:愛の名の下に0
火宵の月 和風転生シンデレラファンタジーパラレル二次創作小説:炎の月に抱かれて1
火宵の月×刀剣乱舞転生クロスオーバーパラレル二次創作小説:たゆたえども沈まず1
相棒×名探偵コナン×火宵の月 クロスオーバーパラレル二次創作小説:名探偵と陰陽師0
火宵の月×薄桜鬼 和風ファンタジークロスオーバーパラレル二次創作小説:百合と鳳凰2
火宵の月 異世界ファンタジーハーレクイン風昼ドラパラレル二次創作小説:砂塵の彼方0
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※挿絵はMARRISA様から頂きました。「聞いたか? 浦賀にでっけぇ黒船が停まってるらしいぜ!」歳三(としみ)がそう興奮した様子で親友を見ると、彼は瞳を輝かせていた。「どんなもんなんだろうなぁ、一度見に行ってみたいもんだなぁ・・」「それじゃぁ黒船見に行こうぜ、勝っちゃん!」歳三が勇の手を握ると、彼は彼女の言葉に少し困ったように頷いた。「行きたいのは山々なんだがなぁ・・」「道場のことはおかみさんや周斎先生に任せときゃぁいいじゃなねぇか。死ぬまでには一度見てぇもんだろ?」「あら歳さん、また来たのかい?」近藤の養母・ふでがそう言って勇と歳三の元へとやって来て、歳三をじろりと睨んだ。「あんた、またそんな格好して。年頃の娘なら、髪でも結って着飾ればいいものを。」「お生憎様だが、俺はあんなひらひらした動きにくいもんは似合わねぇんだ。それじゃまたな、勝っちゃん。」いつもなら勇と道場で打ちあうのだが、ふでが居てはやりづらいので、歳三は早々に退散する事にした。「勇、あんた歳さんのことどう思ってんだい?」「どうって・・トシは俺にとっては親友だけど・・何でそんな事を言うのですか、義母上?」「あの子もう18だろう、嫁に出すにはいい年じゃないか。のぶさんが一向にあの子が女子の嗜みも身につけないで遊び歩いてるって愚痴聞かされてねぇ。全く、男のなりをして何が楽しいんだか・・」ふでは言いたい事を言うと、台所の方へと消えてしまった。(トシは、女になんか生まれたくなかったのかもしれないなぁ・・)初めて歳三と会った時、勇は彼が男であることに何の疑いを持たなかった。役者絵から抜け出たようなきりりとした切れ長の黒い瞳に、雪のように白い肌をし、華奢な身体をした歳三を見て勇が抱いた第一印象は、この世にこんなに美しい男がいるものなのかと思ったほどだ。 だが、歳三が女だと知った時、勇は驚くどころか、歳三が女であっても彼女と親友になりたいという気持ちは変わらなかった。歳三の方も、勇のことを友人として接してくれ、互いの事は男女として意識する事はなかった。 そう、今までは。歳三が女としてではなく、男として生きていたいと思っているようだが、世間はそんなに甘くはない。歳三と同じ年頃の娘達は裁縫や礼儀作法を身につけ、行儀見習いとして呉服屋に奉公していづれは何処かの家へと嫁ぎ、跡継ぎである男児を産むのが普通だ。それが女としての宿命であり、それ以外の道を開くことはかなわない。だが歳三は、「普通の女子」以外の道を開こうとしている。(歳、お前にもいつかいい人が見つかるといいなぁ。お前の夢を理解してくれて、お前を大切にしてくれる人が・・)「若先生!」背後から元気のよい子どもの声が聞こえて勇が振り向くと、そこには周斎の内弟子となった沖田宗次郎が立っていた。「どうした、宗次郎?」「若先生、剣術の稽古をつけてください。」少年の円らな黒い瞳に、強い意志の光が宿っていた。「わかった。ついて来い、宗次郎!」「はい!」屈託のない笑みを浮かべながら、宗次郎は勇の手を握り、道場へと向かった。(いつか、若先生みたいな男になりたい!)自分と並んで歩く勇の逞しい背中を見つめながら、いつか彼と肩を並べられるような男になりたいと、宗次郎はそう思い、彼から剣術の稽古を受けた。 一方、歳三は多摩の河原で寝そべりながら、これからの事を考えていた。(俺ももう18か・・)溜息を吐きながら青い空を眺めていると、茂みの方から騒がしい足音が聞こえた。「誰か居るのか?」歳三が身構えて茂みの中に潜む者に呼びかけると、出てきたのは中年の太った男だった。「なんだぁ、誰かと思ったら土方さんところの歳じゃねぇか。」男はそう言うと、臭い息を吐きながら口端を歪めて笑った。にほんブログ村
2011.12.25
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「これは驚いた。あなたでも狩りをなさるのですね?」「まぁな。家の中に籠ってばかりいるのが嫌だから、たまにな。」 ブラック・レディはそう言うと、倒れた牡鹿の前で手を合わせると、その遺体を運ぼうとした。 だがその時、牡鹿は最後の抵抗として、彼女の腹部を蹴って立ち上がり、森の奥へと消えた。「畜生・・俺の獲物が。」彼女は自分の怪我よりも、獲物を逃がしてしまったことの方が悔しいらしく、舌打ちした。「傷の手当てをいたしましょう。」「おう、済まねぇな。」ルドルフ達が滞在している館で、ブラック・レディは怪我の手当てを受けることになった。「すいませんが、服を脱いで貰えますか?」「ああ、わかった。」彼女は躊躇いもなく男達の前でシャツを脱ぎ、上半身裸となったが、羞恥に顔を赤らめる男達を見ると、慌てて胸元をシャツで隠した。「骨は、折れてませんね。」ルドルフ達によって呼ばれた医師により診察を受けたブラック・レディは、怪我の具合が酷くないことを知り安堵の表情を浮かべた。「この傷は?」医師が注目したのは、右脇腹に醜く残る銃痕だった。「ああ、これは昔のもんだ。用がねぇんだったら帰ってくれ。」しっしっとブラックレ・レディは医師を部屋から追い払うと、シャツを着て欠伸をした。「それにしてもブラック・レディ、御主人はどちらに?」「ああ。多分俺の怪我の事聞いて顔を青くしながら飛んでくるんじゃねぇか?」その言葉通り、館の使用人に案内された男が部屋に入って来た。「トシ、ここに居たんだね!」男はそう言ってブラック・レディを抱き締めた。「ひっつくなよ。ほら、帰るぞ。」「待ってくれ~!」二回りも年下の夫を従えて館を出て行く彼女の背中を、ルドルフは見送った。「トシ、本当にここで暮らすつもりなのかい?」「ああ。ここなら口煩せぇ女達の話が耳に入ってこねぇからなぁ。ウィーンにはお前だけが帰ってくれねぇか?」「そんな・・」「年増の女房なんざ捨てて、若けぇ女と再婚しやがれ。そうすりゃぁおふくろさんだって安心するだろうよ。」ブラック・レディはそう言って自分に泣きつく夫を睨んだ。 半ば強引に彼から結婚を迫られる形となって夫婦として暮らし始めて2年半が過ぎるが、夫との間には子宝は恵まれず、どこぞの馬の骨とも知れぬ年増女を、夫の母は未だ嫁とは認めていない。「お願いだ、別れないでくれ。」「煩せぇなぁ。ったく、めそめそ泣くんじゃねぇよ。勇さんも泣き虫だったが、お前ぇよりもマシだったぜ。」妻の口から度々出て来る男の名に、夫は嫉妬に駆られた。「君とその男はどういう関係だったんだい?」「そんなもん、聞くんじゃねぇよ。」「まさかその男と会っているのか?」「死人にどうやって会えんだよ? まぁ、この際だから少し昔話でも話そうかね。」外に粉雪が舞い散り始めるのを窓から眺めながら、ブラック・レディ―新選組副長・土方歳三は夫に10年以上前の出来事を話し始めた。 時は浦賀にペリー率る黒船が来航した頃にまで遡る。歳三はまだ18かそこらになったばかりで、長い髪を一括りにして結び、薬箱を担いで行商をしながら多摩の試衛館道場へと顔を出すのが日課になっていた。「勝っちゃん、居るか!?」「トシ、また来たのか。それに、もう俺は勝太じゃねぇぞ。」「すまねぇなぁ、つい・・」親友・近藤勇の事を昔の名で呼ぶ歳三に、勇は少し照れた。彼は歳三が女であることを知っている数少ない者の一人だった。にほんブログ村
2011.12.24
「で? こんな婆と踊った訳を聞かせてくれねぇかい?」「理由などありません。ただ、先ほど女性達があなたのことを噂していたものですから・・」ルドルフはそう言うと、ブラック・レディを見た。「ふん、どうせまた碌な事話してねぇんだろ? まぁ、年増女と結婚する若ぇ男の気がしれねぇんだろうよ。」彼女は朗らかな声で笑うと、澄んだ黒い瞳でルドルフを見た。肌は雪のように白いが、髪も瞳も黒いのは東洋人だと彼は一目で解った。 東洋の女は西洋の女と比べて幼く見えるときくが、ブラック・レディは40をとうに過ぎているというのに、顔には皺が全く目立たない。「珍しいか? 珍しいよなぁ、お前らにとっちゃ東洋の女にお目にかかるのは売春宿以外何処にもねぇもんなぁ。」「もしかして、あなたは・・」「一時期春を鬻いでいた時期があったなぁ。もう随分昔の事だがな。」ブラック・レディはそう言うと、ルドルフを見た。シャンデリアの光を弾いて、漆黒の双眸が一瞬緋に光ったような気がした。「アレキサンドライト・・」光の反射によって色を変える宝石―ブラック・レディの瞳は、その不思議な宝石に見えた。「あなたの名前はなんと?」「・・名も何もねぇよ。本当の名なんざとうに捨てちまった。」彼女がフッと寂しげに口元に笑みを浮かべると、ルドルフから離れた。「楽しい夜をありがとよ。」「待ってくれ・・」ルドルフは慌てて後を追おうとしたものの、ブラック・レディは既に大広間から姿を消していた。「ルドルフ様、ミッチェルですわ。」「初めまして。」恥じらいながら自分に挨拶する令嬢に、ルドルフは愛想笑いを浮かべた。「さぁ、踊りましょうか?」「喜んで。」 大広間から流れてくる音楽と話し声を聞きながら、ブラック・レディは溜息を吐きながら廊下を歩いていた。ああいった場所はなかなか好きになれない。昔から、自分は他の女達と違って髪を結うことも、振袖を着る事もなく、長い髪を一纏めに結んで男物の着物を着て剣術や薬の行商をしていたのだ。 女だからといって、男がする剣術や喧嘩を一方的に“するな”と言われ、それに従う性分ではなかったし、寧ろ周囲に己の事に色々と指図されて堪るかという思いで生きてきたのだ。 だから、親友の近藤勇と組んで暴漢を倒したりしたし、京で「鬼の副長」として采配を振るってきたのだ。しかしそれはもう、過ぎたことだ。今自分は宮廷貴族の妻であり、好き勝手に生きた時期は既に終わっている。(自分が好き勝手できた時期が懐かしいなぁ・・)しんと静まり返ったアウグスティーナ教会の信徒席に座りながら、彼女は懐かしみながら溜息を吐いていた。「そこに、誰かおられるのですか?」背後に澄んだ声がして彼女が振り向くと、そこには黒衣のカソックを身に纏った若い司祭が一人、教会に入ってくるところだった。「すいませんね、ちょっと疲れていたものですから。」彼女はにっこりと笑うと、アウグスティーナから出て行った。 舞踏会から数日後、ルドルフは友人達とともに趣味の狩猟に出かけ、森の中で獲物を追っていた。「ルドルフ様、あちらに大物が!」木々の隙間から2メートルの牡鹿が姿を現し、ルドルフが猟銃を構えて牡鹿を撃とうとした時、何かが牡鹿の額に突き刺さり、牡鹿は横転した。 何だろうとルドルフ達が駆け寄ると、丁度黒の乗馬服を纏ったブラック・レディが牡鹿の額から長槍を抜くところだった。「なんだ、誰かと思ったらあんたか。」ブラック・レディはそう言って笑うと、長槍の穂先を振るい、牡鹿の血を乱暴に懐紙で拭った。 舞踏会の時とは違い、男物の乗馬服を纏った彼女は、凛々しく見えた。にほんブログ村