テーマ:二次創作小説(944)
表紙素材は、黒獅様からお借りしました。 「陰陽師」・「火宵の月」二次小説です。 作者様・出版者様とは関係ありません。 二次創作・BLが嫌いな方は閲覧なさらないでください。 ―狐の子だ! ―気味の悪い化け物め! ―山へ帰れ! 思い出すのは、石を投げられ、罵倒され、蔑まれた日々。 ―所詮人間なんて、こっちの力を利用するか怖がる事しか知らない、下等動物さ。 脳裏に響く、誰かの声。 「う・・」 「先生。」 「火月・・?」 有匡が苦しそうに呻きながら目を開けると、そこには涙を流して自分の手を握っている火月の姿があった。 「毒消しの薬湯だ、飲むといい。」 「あぁ・・」 晴明から毒消しの薬湯を渡され、有匡はそれを一口飲んだが、むせてしまった。 「先生、大丈夫ですか?」 「おい晴明、この薬湯、酷い臭いがするぞ!」 博雅は晴明が作った薬湯を有匡の手から奪い、その臭いを嗅ぐと、それは腐った肉のような臭いがした。 「いやぁ、この前お前が調合したものを再現して作ろうと思ったんだが、上手くいかないなぁ。」 「晴明・・」 博雅はそう言いながら、薬湯を下げた。 「済まない、薬湯は俺が作る。」 「じゃぁ、これを。」 そう言って火月が博雅に差し出したのは、己の紅玉を粉末にしたものだった。 「これを、薬湯に混ぜて飲ませて下さい。」 「わかった。」 有匡の全身から蜘蛛の毒が抜けるまで、数日かかった。 「有匡殿、怪我の具合はどうですか?」 「良くなりました。晴明殿、我らを保護して下さりありがとうございます。」 「いや、何の。同族のよしみで助けたいと思っただけだ。」 「晴明、晴明はおるかっ!」 有匡と晴明が屋敷の中でそんな話をしていると、門の方から男の声が聞こえて来た。 「先生、お客様ですか?」 「火月、お前は奥に居ろ。」 「はい。」 「晴明殿、門の所で叫んでおられるのはどなたなのですか?」 「藤原道長様です。」 (藤原道長だと!?) 時の権力者である藤原道長が、晴明に一体何の用なのだろうか―そんな事を想いながら有匡が晴明と共に奥の部屋から寝殿へと移動すると、そこには藤原道長が渋面を浮かべながら彼らを待っていた。 「道長様、このような夜明け前にいらっしゃるとはお珍しい。何かわたくしにご用なのですか?」 「勿体ぶった言い方をするな、晴明!わしがここに来たのは・・」 「中宮となられた彰子様の御身に、何かあったのですか?」 「流石だ晴明、わしがお主の元へ来たのはその事よ。」 道長はそう言った後、晴明の隣に立っている有匡の存在に気づいた。 「晴明、その男は誰だ?」 「こちらの方は、わたしの遠縁の従兄にあたる、土御門有匡殿です。」 「お初にお目にかかります、道長様。土御門有匡と申します。」 「遠縁の従兄だと?確かに、少しお主に似ておるな。」 道長はそう言って鼻を鳴らすと、ジロリと有匡を見た。 「して、道長様、詳しくお話を聞きましょうか?」 「あぁ、実はな・・」 道長は寝殿に通され、晴明と有匡に“ある事”を依頼した。 それは、出産を控えた娘・彰子を呪詛しようとしている者を突き止めよ、というものだった。 「ほぉ、それはそれは・・」 藤原道長は、娘を入内させ、その娘が懐妊した事により、自分達を恨む者が呪詛を企んでいると考えている。 「して、その者に心当たりはございますか?」 「それを突き止めて欲しいと言うておるのだ!」 何という無理難題をふっかけるのだろうと、有匡は晴明と道長の会話を聞きながらそう思った。 いつの世も、時の権力者というのは身勝手な者が多い。 「彰子様の周りに居る者達の中に、呪詛を企む者が居るのでは?」 「あぁ、そうだ。そこで、お前とその従兄に、後宮へ潜入して貰う。」 「後宮へ、ですか?」 「そうだ。お前達ならば、男だと簡単に露見する事もなかろう。」 「承りました。」 権力者に逆らえる筈もなく、晴明と有匡は後宮に潜入する事になった。 「先生、お似合いです!」 「やけに楽しそうだな、火月?」 「前に一度、式神のおねーさん達と、先生が女装したら絶世の美女になるだろうなぁって話していた事があったんですが、まさにその通りになりましたね!」 「そうか・・」 有匡がそう言って溜息を吐いていると、“式神のおねーさん達”こと、有匡の式神である種香と小里が二人の元へとやって来た。 「きゃ~、殿、お美しいですわ~!」 「う、眩しい、目が、目がぁ~!」 「先生、頑張ってくださいね!」 「火月、お前も一緒に行くんだぞ。」 「え?」 「お前を一人にすると、心配だからな。」 「え、えぇ~!」 こうして、火月と種香達は有匡と共に後宮に潜入する事になった。 「うわぁ、華やかな所ですね~」 「火月、余りキョロキョロするな。」 「す、すいませんっ!」 「そこ、私語を慎みなさい!」 「申し訳ございませぬ、こちらの者は、宮仕えが初めてな者でして、中宮様にお会いできる日を指折り数えて待っていたので、つい興奮してしまったのですよ、そうよね、火月?」 有匡はそう言うと、年嵩の女房に睨まれた火月を庇った。 「はい、申し訳ありません。」 「中宮様の前では、失礼のないようにね!」 年嵩の女房はジロリと有匡達を睨むと、そのまま主である彰子の元へと向かった。 「中宮様、起きていらっしゃいますか?」 「ええ、起きているわ。」 そう言って御帳台の中から顔を出したのは、道長の娘であり中宮である、藤原彰子だった。 「お父上様から、遣わされた新しい女房達がいらっしゃいました。」 「まぁ、父上も心配性がますます拍車がかかっていらっしゃるようね。」 (綺麗な方だ・・) 真に美しい人は性別問わずその美は顔の美醜に関係なく、“内側”―心の美しさにあるのだと、有匡は彰子と会ってそう思った。 「お初にお目にかかります、有子と申します。こちらは、わたくしの妹の、火月です。」 「お初にお目にかかります、火月です。」 「素敵な瞳の色ね。まるで炎を映したかのようだわ。」 「ありがとうございます・・」 「中宮様、妹は宮仕えが初めてなので、何かと至らぬ所もございますが、何卒ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い致します。」 有匡がそう言って彰子に頭を下げ、彼女の局から去った時、火月が少し拗ねたような顔をして自分を睨んでいる事に気づいた。 「どうした?」 「べ、別にっ!」 「お前、もしかして、わたしが中宮様と浮気するとでも思っているのか?安心しろ、わたしはお前しか愛さない。」 「せ、先生~!」 火月は喜びの余り、鼻血を出してしまった。 「全く、あれ位の事で鼻血を出す奴が居るか。これから先が思いやられるな。」 「す、すいません・・」 有匡が火月を介抱していると、そこへ一人の女房がやって来た。 「あなた方が、新しくいらした方ね?はじめまして、わたくしは紫式部よ、よろしくね。」 「有子と申します。紫式部様、その巻物は?」 「これは、わたくしが今書いている物語なの。中宮様のお心が、少しでも軽くなられるようにと、続きを書いてみたのよ。」 「少し拝見してもよろしいでしょうか?」 「ええ、構わないわよ。」 女房―紫式部から巻物を見せて貰った有匡は、その物語が後に世に残る大作である事に気づいた。 「まぁ、面白くなかったのかしら?」 「いいえ、面白かったです。中宮様が続きを読みたいとおっしゃる理由がわかるような気がしますわ。」 「ありがとう、この物語は、一人の男の人生と、その子供達のお話なのよ。」 「お引き留めしてしまって申し訳ありませんでした、紫式部様。ひとつ、お願いがございます。」 「何かしら?」 「この物語の続きが出来たあかつきには、中宮様よりも先に読ませて頂けませんか?」 「まぁ、そんなのお安い御用よ。」 紫式部はそう言って、鈴を転がすような声で笑った。 「ねぇ有子様、ご存知?定子様の所に、新しい女房が来られたのですって!」 「定子様の所に?どのようなお方なのかしら?」 「さぁ・・その方は、射干玉の如き艶やかな黒髪と、涼やかな目元をされておられるとか・・名は、晴子様とおっしゃったわね。」 「まぁ、何という因縁なのでしょう、従妹同士がそれぞれ違う主に仕えるなんて・・」 「晴子様、有子様とご親戚でいらっしゃるの?」 「ええ・・親戚といっても、名前だけ知っている間柄ですわ。」 「まぁ、そうなんですの。」 周りの女房達から、“晴子”との関係を質問責めにされ、有匡がそう言ってのらりくらりと彼女達の質問をかわすと、彼女達はたちまち他の話題を話し始めた。 (危なかった・・) 「何やら、彰子様の方が少し賑やかですわね。」 「新しい女房が二人、いらっしゃったようですわ。おひとりは美しい黒髪の方と、もうひとりは眩い金の髪を持った方だとか。」 定子の元に仕える女房・清少納言は少し苛立ったかのような口調でそう言うと、持っていた檜扇を指先で弄った。 「何をそんなに苛々しているの、少納言?」 「紫式部が、あの物語とやらを・・」 「あなたの随筆も、中々面白いですわ。」 「ありがとう、晴子さん。」 檜扇の中で溜息を吐きながら、“晴子”―もとい晴明は、彰子を呪詛しようとする者を突き止める前に、女だらけの職場である後宮独特の空気に参ってしまうのではないかと思い始めていた。 そんな中、後宮で楽競べというものが行われ、有匡と火月は和琴で、晴明は琵琶でそれぞれ出る事になった。 楽競べは滞りなく終わる筈であったが、博雅が彰子に招かれて後宮で女装姿の晴明を見つけてしまった。 (晴明、晴明ではないか!) にほんブログ村 二次小説ランキング お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2024.04.14 15:01:57
コメント(0) | コメントを書く
[陰陽師×火宵の月クロスオーバーパラレル二次創作小説:君は僕に似ている] カテゴリの最新記事
|
|