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そこには、だらんと糸が切れた人形のように力なくベリアルの角で体を貫かれたフレイさんの姿と、そこから少し離れた場所には尻もちをついてその様子を見て嗚咽をあげるスルトさん。
きっと遠くからスルトさんの戦いを陰からこっそり見てたフレイさんがスルトさんの危機に自らの身の危険も顧みず飛び込んだんだろう・・ 「あ、あな・・・・た・・」 「フレイ、な・・何故、何故こんな事を・・俺の事なんかほおっておけばよかったのに・・」 「そんな悲しい事を言わないで、あなた。私はあなたの妻なのよ・・夫の危機にかけつけるのは、当然です・・・・」 「ふん、まだ息があったか。とどめだ」 ベリアルは角からフレイさんを引きぬき上へ放り投げ、空中で無防備となったフレイさんへとどめとばかりに手に持った巨大な斧で斬りつけたのだった。 「あ、あ・・あぁ・・・・・・」 「お、お母・・・・様……」 「ひ・・ヒドイ、よ・・」 目の前で母親を殺されたアセトは声もなくその場にペタリと座り込み、ただ茫然とベリアルとスルトさんの方へ視線を投げかけた。 そんな事が目の前で行われたというのに、私とミハイル・クレッシルはその場から動けないでいた。 でも、ミハイルもクレッシルも目を下に伏せながらも怒りにわなわなと震え、両手を握りしめている。 ベリアルは地面に横たわってるフレイさんの亡きがらを足で遠くに蹴飛ばすと、スルトさんの方へとゆっくりと歩みを進めていく。 「次はお前だ、スルト。心配するな、すぐにそこにいるお前の娘とその仲間の者たちも一緒の所に連れてってやる」 尻もちをついて嗚咽を上げてたスルトさんが、おもむろに立ち上がり殺気に満ちた瞳をベリアルへ対して投げかける。 「貴様ぁあ、ベリアル!!よくも俺の妻を!!たとえこの命尽きようとも、貴様だけは道連れにしてくれる!」 スルトさんは近づいてくるベリアルに対して魔法の詠唱を始め、ベリアルは手に持った巨大な斧をスルトさんに対して振り下ろした。 「させるか!お前もこれで終わりだ!!」 ベリアルが振り下ろした斧が直撃する直前にスルトさん渾身のロイヤルフレアが発動し、スルトさんを中心とした大きな爆発が巻き起こる。 ロイヤルフレアの爆発が収まるとそこにはベリアルの放った一撃が当たったのか、胸から血を流し地面に横たわるスルトさんと、全身ボロボロになりながらも余裕の笑みを浮かべるベリアルの姿。 「まさか最後にこんな一撃を放ってくるとはな、だがこれで終わりだ。スルト、お前は強かったぞ」 スルトさんを倒したベリアルがゆっくりと私達の方へと向かってきた。 「ひ、ヒドイよ・・・・ザガンの仇討ちってだけなら、私達だけを狙えばいいのに・・他の関係ない人まで傷つけるなんて・・・・絶対に許せないよ!」 怒りにワナワナと震える私に呼応するように大地が震えてるように感じる。 私の体の内から今まで感じたことのない、おびただしい量の闇の力が湧き、手に持ったヴィーキングソードがそれに同調し漆黒の色に染め上げられていく。 「ほぉ、七大英雄の血を引く者の中に魔族の血も引くものがいたとはな・・」 そして、その力を感じたのか、今まで両親を目の前で殺され、そのショックで茫然としてたアセトがハッと我にかえる。 「セ、セラ!?その力は・・・・」 「うわぁああああああああああああああああああああああ!」 アセトが何かを呟いたように聞こえたけど、今の私にはその声も届かず、私の前に立ちはだかるお兄様を振りきり、ヴィーキングソードを両手で強く握りしめ一直線にベリアルの方へと駈け出して行く。 「自ら死にに来たか、返り討ちにしてくれる!ザガンの仇だ!!」 ベリアルが手に持った巨大な斧を大きく振り上げ私に対して攻撃をしかけようとしてくる。 「そんな遅い攻撃じゃ私は捉えられないよ!!」 ベリアルの攻撃が当たる前に私はヴィーキングソードを横に薙ぎ払いベリアルへ攻撃を加えたのだった。 「ぐ、うぅ・・・・」 胸の辺りに大きな傷を作り苦悶の表情を浮かべながら血をポタポタと滴らせるベリアル。 「ベリアル!スルトさん、フレイさん、そして今まで貴方が苦しめてきた罪のない民の人達の苦しみ、これだけじゃ終わらせないよ!」 「ちぃ・・世話が焼ける・・」 私が更にベリアルに対して攻撃を加えようと近づこうとした時だった、今まで静かに傍観してたお兄様が素早く私の近くまでくると、私の影の上に立ち魔法を発動させる。 「ヴァーンズィンケッテ!」 お兄様の魔法が発動すると私の体はどこから現れたのか、鎖によってつながれてしまった。 「う・・何・・これ・・動けないよ」 「助かった、すまないマモン」 「ふん、油断してるからだ。その怪我ではまともに戦うことも出来まい、一回城に戻るぞ」 「まて、俺はまだ仇を取ってないぞ!」 「そんなのはいつでもできる、今はその傷を治す事が先決だ」 お兄様はベリアルのそばまで行き、最後に私の方へ顔を向けて冷たく言い放ってきた。 「次もし、俺の前に立ち塞がるというのならば、その時は容赦しないぞセラ」 それだけ言うと、お兄様とベリアルは闇の中に消えていき、それと同時に私を拘束していた鎖が消えさった。 「お・・お兄・・様……」 鎖の拘束から解かれた私はその場にペタリと座り込む。 そして、アセトとミハイル・クレッシルはスルトさんの方へと駆け寄り、倒れていたスルトさんをアセトが抱きかかえる。 「お父様、今回復魔法をかけますわ!」 手をスルトさんの体へかざそうとしたんだけど、その手をスルトさんは取り 「この傷だ、俺はもう助からないだろう」 「いや、そんな事言わないで下さいまし、お父様」 「アセト・・最期まで頼りない父ですまなかったな」 「そんな事ありませんわ!お父様はとても立派な、最高の父ですわ」 「そう言って貰えて嬉しく思うぞ・・そうだ、お前にこれを預けよう」 スルトさんはポケットから何やら鍵を取り出すとそれをアセトに握らせた。 「これは家の地下室の鍵だ、地下室の中にはこれからの旅で役立つモノがある。それを俺だと思って持っていて欲しい・・・・光の書を見付けだし、そして皆と力を合わせ、サタナエルを打ち倒し、二度と人が悲しむことのない平和な世界・・・・を・・・・・・」 スルトさんはそこまで言うとアセトの腕の中で静かに息を引き取った。 一緒にいたクレッシルがアセトに声をかけようとしたんだけど 「今はそっとしておきましょう。それよりもセラの方が気になります」 アセトの方に行ってたミハイルとクレッシルが私の方にかけよってきたんだけど、魔王サタナエル三大柱マモンの正体がお兄様だったこと、そして私の前に立ちはだかり、今もベリアルにとどめを刺そうとしたのを邪魔された事に対して、言葉にできない色々な感情がごちゃ混ぜになっていた私はそれに気付かなかった。 「セラ……まさか貴女の探してた兄上がサタナエルに加担していたなんて・・」 ミハイルにそう声をかけられて私はやっと近くにミハイルとクレッシルがいる事に気付く。 「あの優しかったお兄様が・・サタナエルによって苦しめられてる人達を助けたいと願ってたあのお兄様が・・・・」 「きっと何か弱みでも握られてるんだぜ」 「いえ、あの態度はそうは見えませんでした。他に何かあるんでしょうか」 「たとえどんな理由があろうとも、魔王サタナエルに手を貸すなんてことはダメ、だよね・・さっき城に行くって言ってたけど、そこに行けばお兄様に会えるかな。それでお兄様と話をして、こんな事やめさせなきゃ・・」 「んだな、考えたって何もかわりゃしねぇぜ、それがいいと思うぜ」 「そうですね、それにアセトも父上と母上の仇を取る為にベリアルの所にいくはずですし、声をかけて一緒に行きましょう」 私達がスルトさんとフレイさんの亡骸の近くに座り込み涙を流していたアセトの所にいくと、アセトは涙をぬぐいこっちに振り返る。 「皆さん・・わたくしなら大丈夫ですわ・・・・人間いつしか別れの時が訪れるもの、わたくしの場合はそれが今訪れた、それだけですわ」 そうは言ったもののアセトの顔はまだどこか悲しみの色に染まってるように見える。 「それでアセト、貴女、父上と母上の無念を晴らすためにベリアルのいる城へ行くのでしょう?私達もご一緒しますよ」 「これはわたくしの事・・一人で行きますわ・・・・」 「何言ってんだよ、私達は仲間だろ?んな事気にすんなって」 そう言ってアセトの方に手を差し伸べるクレッシル、そしてアセトは差しのべられた手をじっと見つめ考える。 「そうだよアセト、それに私も関係ない人達まで戦いに巻き込んだベリアルが許せないし、何よりベリアルと一緒にお兄様がいるからね。一緒に行こうよアセト、ま、断られても無理矢理ついて行くけどさ」 「そうでしたわね、わたくし達、仲間でしたわね。それでは早速ベリアルの元に行く前に、少しお屋敷によっていきますわよ」 そしてアセトは差しのべられたクレッシルの手を取り立ち上がるとボロボロとなった大きなお屋敷の方へ目を向けた。 「うん、わかったよ」 私達はスルトさんとフレイさんの亡きがらをアセトの家の裏に簡単に埋葬してから地下室へと降りていったのであった。 第17話 非情なる運命 その2.終わり 第18話 決戦!ベリアル城 その1.へ続く お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2010年09月19日 01時01分41秒
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