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「騒がしいぞベリアル!一体何事だというんだ」
そう口にしながら謁見の間に入ってきたのはお兄様だった。 部屋の中を見回して足元にベリアルが倒れてるのを見付け視線をベリアルの方へと向けながら、お兄様は震えるような声で 「こ、これをやったのはセラ・・お前達なのか!?よもや三大柱のうちザガンとベリアルが倒されてしまうとは・・・・セラ、さっきカサンドラで俺の邪魔をするなと言ったはずだ!!」 「ベリアルは罪のないカサンドラの人達を殺したんだよ!?それに、アセトの両親も・・・・その仇を取りに来ただけなの!!お兄様、もうこんなことやめて私と一緒にヴァイデヴィレッジに帰ろうよ!」 「お前の話など聞きたくない!理由はどうあれこうしてお前達は三大柱のうち2人を倒した、それはゆるぎない事実だ!!」 お兄様は視線をあげて私達の方へ振り向くと同時に腰に携えてたガラハッドの剣を抜き私達の方を見据えてきた。 「どうして!?どうしてなのお兄様?お兄様は最初旅に出た時、サタナエルの魔の手から世界の人達を救いたいって願ってたはずだよ!!」 「確かに俺は最初、愚かにもサタナエルを倒し世界に平和を取り戻す事だけを考えていた、だがその考えは甘かったんだ。サタナエルの力は俺の考えていた以上にすさまじいものだ。ライト家始まって以来の天才と言われた俺ですら一太刀浴びせることすらできなかった」 そこで一度言葉を区切り一呼吸置いてから更に言葉を続けてくるお兄様。 「サタナエルは負けた俺を殺さず力を与えてくれた、魔族の力をな。それは人の身では得る事の出来ないほど強大な力だ」 「何故サタナエルは貴方を殺さず、ましてや敵対してた人間に力を与えたというのですか!?」 「サタナエルは俺達七大英雄の末裔には秘められた強大な力が眠っていると言っていた。その力を利用したかったんだろう」 「私達に秘められた強大な力・・そんなのあるわけねぇだろ!」 「それはただお前達が気付いてないだけだ。そして、セラは俺以上にその内に秘めたる力がある。その力が目覚めれば、サタナエルを倒すことも出来るだろう、だからこそサタナエルはお前達を早急にどうにかしたいらしい」 「私の内に秘められた力・・」 「セラ、そして仲間の者たちよ。俺が今からお前達がサタナエルと戦うにふさわしい人物か、そして世界を救うに等しき力を持ってるのか、俺が確かめてやる」 お兄様は手に持ったガラハッドの剣を強く握り直して私達の方に対して構えを取ってくる。 「お兄様……どうしてお兄様と戦わないといけないの!?」 「ザガン、そしてベリアルを倒したお前達の全力を俺に見せてみろ!」 お兄様は一瞬で私との間合いを詰めると手に持ったガラハッドの剣を振りかざし攻撃を仕掛けてきた。 私がそれをヴィーキングソードで受けると同時にお兄様は私の足元へ蹴りを繰り出し、それを受けた私は体勢を崩してしまった。 「ふん、全然なってないぞセラ!」 私が体勢を崩した所へ更にお兄様のガラハッドの剣が迫り、その一撃を受けてしまい後方に吹き飛んでしまった。 「いくらセラの兄上と言えど、サタナエルに手を貸すというのであれば容赦はしません!!」 「あぁ、セラに手をあげるってんなら、いくら実の兄でも許さねぇぞ!」 ミハイルとクレッシルがお兄様に対して攻撃を加えようとしたけど、それを避けると斬撃を加え、ミハイルとクレッシルはその場に崩れ落ちた。 「バーンエクスプロージョン!!」 少し離れた位置からアセトが魔法を唱えると、お兄様を中心とした爆発が巻き起こる。 「あまいな、マジックバリア発動!」 だけど、その爆発がお兄様を飲み込む前に、魔法障壁がお兄様を護るように貼られ、全く効いた様子が見えない。 「ゲファレナー・エンゲル!」 バーンエクスプロージョンの爆発が収まると同時にお兄様の前に邪悪なる気が集まり、それはアセトめがけて猛スピードで飛んでいき、アセトはその邪悪なる気に当たると後方へ吹き飛ばされてしまった。 その後も私達はお兄様へ対して攻撃をしかけたけど、その攻撃のどれもがお兄様に当たることなく、一方的にやられるばかり。 「つ、つぇえ・・・これがライト家で歴代最強って言われてるセラの兄貴の力なのかよ」 「いくら魔族の力を与えられたと言っても、セラの兄上に私達が歯がたたないとは・・」 「サタナエルは一体どれほどの化け物だというんですの」 立ち上がりお兄様の方へ身構えてはいるけど、私達は皆もう息も絶え絶え、立っているのがやっとっていう状態だった。 そんな私達を見下すように見ながらお兄様は魔法の詠唱に入った。 「こんなものとはな・・これしきの力ではサタナエルはおろか、俺すら倒せないぞ。実力の差というのを見せてやる……これで最後だ!バースト!!」 お兄様が唱えると同時に地面が激しく揺れ、そして地の底から雷の球のようなものが現れ上空で破裂し雷の矢のようなものが、いろんな方向から襲ってきた。 全方向からの攻撃に私達はなすすべもなく、その攻撃を全て受けてしまい、その場に倒れてしまった。 「これにこりたらもう二度と俺の前に現れるな。今回は命だけは助けてやる、だがもし次また俺の前に現れるというのならば、その時はその命ないと思え」 地面に這いつくばる私達を見下ろしそう言ってからその場を去ろうとするお兄様。 「く、くぅう・・・・ダメだ・・力が全く入らねぇ・・」 「え、えぇ・・これは完全に私達の負けのようですね・・」 「だ、ダメですわ……今まで戦ってきたどんな魔族よりも強いですわ・・」 「お、お兄……様・・待って・・・・よ・・」 私は傷ついた体に鞭打ち立ち上がり謁見の間の入口の前で両手を広げて立ちはだかった。 もう本当に立ってるのだけで精いっぱい、これ以上戦う気力は全くなかったけど、どうしてもここでお兄様を行かせるわけにはいかなかった。 ここでお兄様に行かれたら二度と笑顔でヴァイデヴィレッジに一緒に帰れない、そう思い、最後の気力を振り絞ったのだ。 「セラ……大人しくそのまま寝てればこれ以上痛い目を見ずに済んだというのにな」 お兄様はそう言うと、私の方にガラハッドの剣を突きつけてきた。 「お兄様は……サタナエルに与えられたその力に・・溺れてるだけだよ!私が……私が・・正気に戻してあげる!!」 私はお兄様の方へ駆け寄り、ヴィーキングソードを振りおろしたけど、その剣はお兄様の一太刀で遠くへ弾かれてしまった。 カラン、カラン、カランと金属とコンクリートのぶつかる乾いた音だけが謁見の間の中に響き渡る。 「セラ……せめて痛みを知らずに安らかに死ね・・これが俺からの手向けだ」 お兄様の手に持ったガラハッドの剣が怪しく光り、刀身は見る間に闇の力によって包まれていく。 「とどめだ・・グレツェントグランツ!!」 闇の力によって包まれたガラハッドの剣ですれ違いざまに私に対して1撃を加えてきた。 その一撃を受けた私は胸に大きな傷を作り、そこから大量の血を流し、私から零れ落ちた血はどんどんと床を染め上げていく。 「う・・うぅ・・・・お、お兄……様……」 その場に前のめりに倒れた私からは更に血が流れ、その血がどんどんと謁見の間の床を血の赤色で染めていき、私の意識はどんどんと遠のいていってしまった。 その場に倒れた私を見下ろしたままお兄様は小さく誰にも聞き取れない声で呟いた。 「すまないセラ・・だが、わかってくれ……今のお前ではサタナエルに太刀打ちする事は出来ない・・サタナエルにいたぶられ、そして利用されるくらいならば、せめて俺の手で……大丈夫だ・・俺もサタナエルを倒したら、すぐにお前の元へ・・ふふ、血塗られた俺の手ではそれも無理か・・」 それだけ呟くとガラハッドの剣を納め、踵を返して謁見の間の入口へと向かって歩き出すお兄様。 「セ、セラ!?セラぁああああああああああああああああああああ!!」 「い、いやぁあああああああああああああああああああ!!」 「ど、どうして・・どうして実の妹であるセラを殺したんですか!!貴方にはもう人間の感情というのが残ってないんですか!?」 ミハイルの言葉を聞くとお兄様は足を止めてミハイルの方へ振り返る。 「お前達も、これでセラに付き合って俺を追う必要がなくなった、国へ帰るなりして、せいぜい楽しい余生を過ごす事だな」 それだけ言うと、お兄様は再び歩きだし謁見の間から出ていったのであった。 第19話 届かぬ想い その1.終わり その2.へ続く お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2010年10月03日 01時48分15秒
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