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カテゴリ:ベリルのドタバタ冒険記~五宝石編~(完)
アンのところを後にして、レモラ大陸へと向けて船を進め始めてから数日、俺達はレモラ大陸の北に位置するベリュトン大陸の近くへと差し掛かっていた。
「を?ベリュトン大陸が見えてきたな。確かあそこは、ヘエル城下町があった大陸だよな」 「ヘエルって言えば、前にジルが幼少の時に暮らしてた場所だっていってたわね」 「うん、10年前の魔族の襲撃までは住んでたねぇ。それ以来誰も近寄ってないはずだし、そもそも、うちとナディールちゃん以外は生き残りがいないはずだから今はゴーストタウン化してるんだろうねぇ」 そう口にしてから腕を組んで何か考え事をし始めたジル。 「ん、どうしたジル?」 「あ、うん。えっとね、ベリル・エリー。ちょっとだけヘエルに寄ってもいいかな?」 「寄ってどうすんのよ?何もないんでしょ?」 「あ、あはは・・・何もないのは確かにそうなんだけどねぇ。久々に町の様子を見てみたいな、って」 「ん、俺は別にかまわないぜ」 「そうね、まぁジルが寄りたいって言ってるんだし、別にちょっとくらい寄り道してもいいわよ」 「ありがと♪」 早速船をヘエルの船着場へと停めて降りたんだがな? うわ・・・こりゃひでぇ、想像以上だわ。 倒壊した家々や崩れ落ちたレンガ等が散乱し、魔族襲来の時からここだけ時間が止まってしまっているのが目に見えてわかる。 「想像以上だな・・・」 「えぇ、こうやって町並みを見るだけでも、その当時起こった殺戮の無惨さがありありと伝わってくるわね」 「うん、あの時のことは、今でもよく覚えてるよ‥‥」 懐かしさと悲しみ、その両方が混ざったなんとも言えない表情を浮かべながら街中を歩き、その当時のことをポツリ、ポツリとジルは話し出した。 「あれは10年前の丁度今くらいの季節だったかな。突如現れた銀髪の魔族と・・・・緑色のショートヘアの幼い魔族‥‥2人は何でいきなりこの町に現れたんだろう・・何の躊躇もなく、壊される家々、そして次々と無差別に手にかけられていく町の人たち。その当時、うちは戦う術なんて何も持ってなかったし、その魔族の脅威からいかに逃げるか、ただそれだけを考えてたよ……」 足を止め、足元に転がる風化した髪飾りを拾い、それを悲しげに見つめてから、再び足元に置き歩き始めた。 「でね、父さんと合流しようと・・・そう思ってお城まで逃げたうちの目の前に、銀髪の魔族が立ちはだかったの‥‥その時うちは、ここでもう自分の命は終わってしまう。ここまでなんだ、そう思ったよ」 「でも、ジルは今こうしてここにいるんだし、助かったのよね?」 「うん、銀髪の魔族がニヤァって邪悪な笑みを浮かべながら近寄ってきたんだよ。それから逃げようとしたうちとその魔族の間に、当時ヘエル城の姫付の騎士だった父さんが来てくれたの」 今度は足を止めて空を見上げたジル。そして、搾り出すように言葉を続けた。 「うちを逃がそうと、父さんは・・・・・父さんは、その魔族に戦いを挑み‥‥」 「目の前で親父さんが殺されちまったのか……」 「一瞬だったよ‥‥あの強く勇敢だった父さんが、本当に一瞬。そんなの見たら、もう動けるわけもなくてさ・・・死への恐怖、そしてそこへ更に肉親が目の前で殺された怒り、色んな感情がもうごちゃ混ぜになっちゃって、何も考えることできなかったよ。今思うと、凄くあの時はみっともない顔をしてたんじゃないのかなぁ」 「まぁ、俺だって実際その場面になったら、きっとそれこそ自暴自棄になって、さっさと殺せよ!っていくかもな」 「あたしは絶対に死ぬなんて嫌よ、まだまだこれからやりたいことも一杯あるし、あたしならその魔族をけちょんけちょんにのしてやってたわね、うん、間違いないわ」 「それでね、うちはその魔族にやられちゃったよ。動くことも出来ない子供なんて本当一瞬だよ。拳が振り下ろされ、うちの頭に直撃したところまでは覚えてるよ。意識が遠のく時、うちはこのまま死ぬんだね、そう思ってた・・・でも、うちが目を覚ますとそこは天国じゃなくて、ある船の個室の中だったんだ」 「何か一気に話が飛んだわね、まぁその間の記憶がないから当然っちゃ、当然よね」 「ある船の中、ってことは意識が飛んでる間に誰かに救出された、ってことか」 「うん、たまたまヘエルに用事があって訪れたヒアシンスの皆に、うちは助けられたんだよ」 「なるほど、それでその後ジルはヒアシンス城で過ごすってわけか」 「うちが目を覚まして最初に見た人物、うちの眠るベッドを覗き込んでたのは、当時うちより5歳くらい年上に見えたちょっと頼りなさそうな優男、名前はマル=アヒクって言ってね、独り身になったうちを本当の妹のように扱ってくれたよ」 今ジルが言った名前、何か聞き覚えがあるな。それにはエリーも気づいたようで、あれ?何て声をあげてたよ。 「ねぇジル、そのマル=アヒクって確かあんたの持ってる剣の名前よね?」 「うん、そうそう!よく覚えてたね、このマル=アヒクは元々彼が使ってた剣なんだよ」 「ふ~ん、そうなんだ。それでその人は今生きてるの?」 「ううん、彼は・・・1年ちょっと前にネロ君がヒアシンスに大群率いて攻め入ってきた時に、うちを庇って死んじゃったよ‥‥」 「ん?つまり今ジルの持ってる剣である元々の持ち主であったマル=アヒクってやつが、ジルの婚約者だったってことか」 「うん、そうそう。ヒアシンスに着いたうちは、彼にお願いして剣の稽古をつけて貰ったんだよ。一緒の時を過ごすにつれて、うちは彼に対して淡い恋心を抱き、そしていつしか、彼と恋仲になって、結婚まで約束したんだよ」 「ジルに稽古をつけてたってことは、だ?相当そいつ強かったんだろ?」 「ううん、剣の実力は全然だったよ。すぐにうちは彼を追い抜いたしねぇ」 「何かその彼が可哀想ね、年下の娘に負けるとか」 「あはは、まぁ、彼はそんなの全然気にしてなかったみたいだしねぇ。別にいいんじゃないのかなぁ?それで、彼はそんなうちを遊撃隊隊長に推薦してくれてさ、うちは16歳になった時に、ヒアシンス城の遊撃隊隊長に任命されたの」 「16歳で遊撃隊隊長か、よっぽどジルに剣の資質があったってことだよな。まぁ、今まで一緒に旅しててジルの強さっていうのは、身にしみてわかってるが、それにしてもすげぇよな」 「16歳、ねぇ・・・今のあたしと同じくらいの歳で既にそれくらいになってたんだから、素直に尊敬するわ」 「あはは、ほめても何も出ないよぉ」 そう口では言ってるが、まんざらでもなさそうなジルの態度。ポリポリと照れながら頬を軽くかいて再び口を開きだしてきた。 第51話 思い出の地 その1.終わり その2.へ続く お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2012年11月04日 00時23分52秒
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