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テーマ:現代俳句(52)
カテゴリ:季語
切子のこと・季語のこと-通信句会の一句から 氷山のぐらり傾く江戸切子 金丸 善信
鴎座通信句会(第4回)この句はロックグラスの切子であろう。氷山はその氷(ロック)のこと。氷山といって大きな句となった。この句の季語は?という質問をいただいたので、この機会に考えてみた。 切子はカットグラスの和名。江戸切子・薩摩切子がある。ギヤマン・ビードロとともに夏の季語となっている。改造社『俳諧歳時記』夏1933年刊に「ギヤマン」として初出。傍題に「カット・グラス 切子 ギヤマン切子」。季題解説に「昔時、オランダ渡りと称せられし、硝子製器の称なり。側面を刀を用ゐて細かく切り刮りたる如きものを、切子或はカット・グラスと云ふ。酒鐘(コップ)・菓子鉢・壷・皿等に多く製し、見るからに涼し。」とある。例句は青木月斗の一句(下記)のみ。 切子といってもガラスのことなので現代の感覚でいえば季語とは感じられない。しかしかつてギヤマンは貴重品で、主にグラスに使われたこと。そのグラスは涼しげで夏のものであった。他に皿、菓子器など。現代でも切子は江戸切子・薩摩切子とも高価なものから日常品としての安価なものまである。 例句も多いが、気を付けないといけないのは、「切子灯籠」を「切子」と省略する句があることである。この場合の切子とは角を落とした灯籠の意味で新盆に使われるものなので秋の季語である。『ホトトギス新歳時記』は、盆灯籠の切子だけで、カットグラスの切子は認めていない。 カットグラスの切子を季語と感じない向きもあって、他の季語と取り合わせている句も多いが、ここでは省いた。 (切子)江戸切子・薩摩切子 古渡りの切子玲瓏そのものに 青木 月斗 「同人」 新しき切子の酒を慎めり 石川 桂郎『高蘆』 うれしげに薩摩切子が冷えている 澁谷 道 どの盃も切子多面を盡しけり 中原 道夫「銀化」 日の遠く薩摩切子がやはらかい 直江 裕子「京鹿子」 唇に吸ひよせられし切子猪口 菱田ます子 青空のすとんと抜けて江戸切子 岩尾 可見 薩英戦争切子の彩のなか濁る 松田ひろむ「鴎座」 (切子灯籠)白切子・切籠 黄泉の火をやどして切子さがりけり 久保田万太郎 『流寓抄以後』 早寝なりし佛に切子消しにけり 成瀬櫻桃子 『風色』 潮風の海女の墓にも切子かな 高濱 年尾 『年尾句集』 花柳章太郎より届きたる切子かな 安住 敦 灯を入れて切子の命ともりけり 下村 梅子 暗きより潮さしくる白切子 佐野 美智 浦安や切子明りに汐上げて 細川 加賀『生身魂』 まつくらな海がうしろに切子かな 草間 時彦 ゆきずりの祈りなれども切子かな 山田みづえ 父母の闇を残して切子吊る 小林 康治『潺湲集』 まひるまの切子の形の盲ひけり 八田 木枯『夜さり』 かなしさのなまじ風ある切子かな 鈴木真砂女 正面の切子も揺るゝ大太鼓 星野 椿 汝が禿びし指もてとぼす白切子 村越 化石 父の代の切子灯せし出雲かな 橋本 榮治『逆旅』 夕方の鶏にぎはしき切子かな 岸本 尚毅 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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2020年08月01日 14時46分06秒
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