カテゴリ:音楽あれこれ
バンドのメンバーからソロアーティストへ。そういう経歴の持ち主は多い。例えばザ・ジャムからポール・ウェラー、ザ・ポリスからスティングなど。椎名林檎の場合はそれとちょうど逆になっている。ソロ・アーティストから始めて、東京事変というバンドのメンバーへ。椎名林檎にとって東京事変とはどんなバンドなのか。その明確な答えが今日の武道館公演でわかったような気がする。
今日の武道館でのライブはサービス精神が旺盛なステージだった。そして彼女のソロ時代の危なっかしさは感じられず、ニューアルバムのタイトル通りの「大人」な感じが印象的だった。 なにが「大人」な感じかというと、力の抜き方、自分たちが作り出した表現に対する距離の取り方、極度に重くならないような余裕の持ち方、そうしたもの全てが「大人」の雰囲気を感じさせた。 それを象徴するのが、『虚言症』の演奏だった。『勝訴ストリップ』に収録されたこの曲は心の傷、トラウマをかなり自傷表現的に歌った曲だった。だからこそ彼女はその曲のイメージに悩まされ、追い詰められた。DVD『下克上エクスタシー』に収録された『虚言症』のライブ映像を見ると、何か狂ってしまったような目付き、そして鬼気迫る圧迫感をも感じさせる。 しかし今日のライブで東京事変は『虚言症』を軽やかなジャズアレンジで演奏した。そこにはかつて感じられたおぞましさや狂気は感じられない。 椎名林檎は自分が作り出した表現をうまく制御する術を見つけた。そんな手応えを感じさせた。そしてそれが今回のサービス精神旺盛なライブに結実された。 ライブの冒頭でいきなり少年少女合唱団が登場し、椎名林檎の歌をオブリガードする。そんな意表をつく演出で一気にオーディエンスを引きこむ。全体的にジャジーなテイストで、演奏も音楽的な部分もかなり高度でクオリティーが高めな感じがした。しかし東京事変の持つ適度な歌謡曲感覚がその音楽をお高い「芸術」ではなく、あくまでポップ・ミュージックに踏みとどませていた。 ジャズのフィーリングも流行しているからとか、現在の音楽シーンをチェックしてという感じではなく、椎名林檎あるいは東京事変が自然な成長としてジャズに辿り着いたという感触を僕達に抱かせる。 『修羅場』のファンク感覚、『母国情緒』のフレンドリーな演出も印象に残ったが、やはりハイライトはバラードだった。『スーパースター』『手紙』といった曲の美しいメロディーラインと椎名林檎の歌声は言葉では表現できないほど素晴らしく、感動的だった。 しかし才能豊かなロックミュージシャンの行き着く先はなぜジャズなのだろうか。ロックというフォーマットは、椎名林檎のような天才的な才能には足かせでしかないのだろうか。そんな事をふっと感じてしまった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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