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珠藻(たまも)刈る敏馬(みぬめ)を過ぎて夏草の野島(のしま)の崎に舟近づきぬ
人間の記憶と言うものは、よく分からないもので、高校の古文の授業で出て来た万葉集の一節を、何の変哲も無い旅の唄の様ですが、よく覚えています。 15~20才は知識欲が旺盛で、記憶力が発達する時期の様で、紫式部の「源氏物語」、Oscar Wildeの「幸福な王子(Happy Prince)」、Thomas Mannの「十戒(Das Gesetz)」、Paul Verkaineの「秋の歌(Chanson d’automne)」等の一節は未だ記憶の抽斗から取り出すことが出来ます。 尤も、近頃は脳細胞も破壊されつつあり、アルツハイマーの気もありますので、その内忽然と消えてしまうのかも知れません。 処女(をとめ)達が美しい藻を刈る敏馬を離れて夏草の茂る野島ヶ崎に舟は近づき、今宵は其処に廬(いほり)して、仮の宿りとします。 柿本朝臣人麿(かきのもとのあそみひとまろ)が詠んだ八首の旅の歌の内の一つ。 「敏馬(みぬめ)」は兵庫県神戸市灘区岩屋町。「野島(のしま)」は淡路島の北端。 歌の内容としては、「美しい藻を刈る敏馬を離れて夏草の茂る野島の崎に舟は近づきました。」との、自身の旅の様子をそのまま表現しただけのものにも読めますが、前半の柔和な景色から後半の夏草の茂る野島へ近づいてゆく心の動揺が感じられます。 おそらくは夏草が茂って荒れ果てた野島の地に上陸しようとする不安なこころの動揺を、歌を詠むことによって鎮めようとしたものなのでしょう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2021.08.06 20:29:23
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