加齢による運動機能の低下を防ぎましょう。
高齢者の運動機能に関する課題は、その衰えをできる限り先延ばしにすることである、といっていいかもしれません。延ばせば延ばすほど、“100歳まで自分の足で歩ける体”に近づくことになるのです。高齢者に起きてくる運動機能の障害には、さまざまな種類、レベルがあります。代表的なものが「ロコモ(ロコモティブシンドローム)」「フレイル」「サルコペニア」です。ロコモとは?筋肉、骨、軟骨、椎間板といった運動器のどれか1つ、あるいは2つ以上に障害が起こり、「立つ」「歩く」といった機能が低下している状態をいいます。 ロコモティブシンドロームの原因ロコモティブシンドロームの原因には、「加齢や生活習慣による運動器の機能低下」によるものと、「運動器疾患の発症」によるものとがあります。1、加齢や生活習慣による移動機能の低下とは年をとると、立つ、歩く、座る、走るなどの移動機能を支えている筋肉や骨の量が低下していきます。骨量のピークは男女ともに20~30代であり、それ以降はだんだんと下降していきます。また、運動に関与する骨格筋の量は基礎代謝量の低下に比例します。基礎代謝量の年齢変化の推移(kcal/日)基礎代謝量とは、心身ともに安静な状態の時に生命維持のために消費される必要最小限のエネルギー代謝量のこと。1~2歳 3~5歳 6~7歳 8~9歳920 840 730 660 1,020 910 1,140 1,040 10~11歳 12~14歳 15~17歳 18~29歳1,330 1,240 1,550 1,350 1,570 1,270 1,520 1,180 30~49歳 50~69歳 70歳以上1,520 1,140 1,380 1,100 1,230 1,030 骨や筋肉は10~30代をピークに低下していくことから、若いうちから骨や筋肉を丈夫に保つためには、適度な運動を行い、栄養バランスの整った食事を摂ることが大切です。運動と食事をおろそかにした生活習慣では、40~50代で身体が衰え初め、60代以降には移動機能が低下して、日常生活に支障をきたす可能性があります。また、肥満では関節にかかる負担が増大し、反対に痩せすぎでも骨がもろくなったり、筋肉が弱くなったりするために筋肉や骨への負担が大きくなります。過度なスポーツや準備運動の不十分、家事や仕事での無理な姿勢や使い過ぎでも、怪我や障害を起こしやすくなり、移動機能の低下を引き起こします。2、運動器疾患の発症による移動機能の低下筋肉や骨は加齢により、だんだん機能が低下していきます。膝や腰の痛みや不調を感じても「年のせい」だと放置しておくと、骨粗鬆症、変形性関節症、変形性脊椎症などの運動器疾患が背景にあった場合には、病状が進行して重篤化していきます。関節を構成している関節軟骨や椎間板などの組織は、一旦すり減ると、元に戻ることはありません。早めに自分の体の不調に気づき、医療機関を受診して適切な治療を開始することが必要です。放っておくと、運動器疾患のもたらす障害によって、移動機能が低下し、日常生活に介助が必要となるリスクが上がります。日常生活に介助が必要となる要支援・要介護状態になると、自分で思うように動けないため、外出することが億劫となり、気分も落ち込んで家に閉じこもりがちとなります。そうなると、意欲や活動量が低下し、ますます運動器機能の低下につながってしまいます。 骨粗鬆症:骨粗鬆症とは、骨が弱くなってもろくなり、尻もちをついたり、転んだりするだけで簡単に骨折するようになります。「背中が丸くなってきた」、「身長が低くなった」など、大きなきっかけがないまま背骨がつぶれてしまっていることもあります。 変形性関節症:関節を保護するクッションの役割をしている関節軟骨がすり減り、関節の痛みや腫れ、曲げ伸ばしの制限などの症状を生じます。膝関節や股関節に多くみられます。変形性脊椎症:背骨と背骨の間にある椎間板のすり減りや、背骨にトゲのような骨ができる変形がみられます。変形した背骨に圧迫され、神経が通っている脊柱管が狭くなると、足のしびれや痛み、脱力感などがみられ、歩くことが障害されます。3、ロコモティブシンドロームの原因となる要因具体的には、以下のようなことがロコモティブシンドロームを引き起こす原因となります。1)加齢2)運動不足エレベーターや自動車などの利用による活動量の低下3)過度なスポーツ、無理な姿勢や使い過ぎによる怪我や障害4)肥満、痩せすぎ5)腰や膝などの痛みや不調の放置6)骨粗鬆症、変形性関節症、変形性脊椎症などの運動器疾患7)外出機会の低下フレイルとは?英語で「衰弱」「老衰」をあらわす「Frailty(フレイルティー)」を語源とします。フレイルサイクルにあるサルコペニアとは、筋肉量が減少し、歩行速度が低下しているような状態を指します。フレイルの状態の中でも、筋肉に注目した概念です。サルコペニアには、加齢によるサルコペニアと病気に伴って起きるサルコペニアがあります。サルコペニアを出発点としてフレイルサイクルを説明すると、まず、加齢や病気で筋肉量が低下しサルコペニアを起こすと身体の機能が低下します。具体的には足の筋肉量低下により歩行速度が落ちたり、疲れやすくなるため全体の活動量が減少します。全体の活動量が減少すると、エネルギー消費量が減り、必要とするエネルギー量も減少します。わかりやすくいうと、動かないとお腹が空かないので食欲もなくなります。加齢による食事量の低下に加えて、食欲低下もあると慢性的に栄養不足の状態になります。慢性的な低栄養の状態は、サルコペニアをさらに進行させ、筋力低下が進むという悪循環へ陥ります。この悪循環を適切な介入によって断ち切らないと、フレイルサイクルを繰り返し要介護状態になる可能性が高くなります。では、フレイルサイクルを断ち切る、またはフレイルサイクルのスピードを遅くするための介入方法はどのようなものがあるか次に説明します。フレイルへの介入方法フレイルの介入方法には、持病のコントロール、運動療法、栄養療法、感染症の予防などが挙げられます。その意味は、加齢に伴う老いや衰弱があり、もはや機能はもとに戻らない状態、ということではなく、なにか適切な手段(例えば運動)を講じれば、機能が維持、向上できる状態のことです。1.持病のコントロール糖尿病や高血圧、腎臓病、心臓病、呼吸器疾患、整形外科的疾患などの慢性疾患がある場合には、まず持病のコントロールをすることが必要です。フレイルの筋力低下には、この後に説明する運動療法が有効ですが、持病のコントロールがされていないと高齢の方は体を動かすという気持ちになれないこともあります。また、持病の治療がうまくいっていないとフレイルを悪化させてしまう可能性もあります。2.運動療法と栄養療法高齢者に対し適切な運動療法を行うと、サルコペニア、筋力低下に対しては、高齢者であっても運動療法によって筋力が維持される、ということが一部研究で報告されています。運動療法は個人に合ったものから始めることが大切です。ベッドの上で足の運動を行うことから始まり、椅子に座ったり立ち上がったりを繰り返したり、歩行距離を徐々に延ばしていくように運動強度を調整します。筋力が低下している状態で、いきなり立ち上がったり、無理に歩行しようとすると転倒や骨折を起こす危険があります。また運動療法は栄養療法とセットで行う必要があります。低栄養状態で運動を行っても筋肉がつかないどころか、低栄養状態を助長してしまいます。筋肉をつけるために必要な良質なタンパク質を摂れるような食事指導をします。3.感染症の予防高齢者の場合は、免疫力が低下していることが多いためインフルエンザや肺炎にかかりやすいといわれています。インフルエンザや肺炎をきっかけに、重症化して入院、そして寝たきりになってしまうこともあります。日頃から適度な運動やバランスのよい食事などにより感染症に強い体作りをするだけでなく、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンを接種しておくのもフレイルを予防する1つの方法といえます。サルコペニアとは?サルコペニアのステージ分類ステージ 筋肉量 筋力 身体能力 プレサルコペニア ↓ サルコペニア ↓ ↓ または ↓ 重症サルコペニア ↓ ↓ ↓ 加齢によって骨格筋肉量と骨格筋力が進行的に、あるいは、全身にわたって低下することで、身体的な障害や生活の質の低下、さらには死のリスクも伴うと見られる状態をいいます。 その現状を少しでも機能回復の方向につなげることはできます。しかし、これらの状態になる前に手を打つことが大切であることは、いうまでもありません。機能障害や衰弱、筋肉量や筋力の低下が起こってから、それを回復させるのは非常な努力が必要ですが、それ以前であれば、日常生活を送るなかで、的確な方法を見出せるからです。サルコペニアのケア1、口腔機能の維持・向上サルコペニアの改善・予防のためにはバランスのとれた栄養と運動の習慣が重要です。十分な栄養を摂取し、運動機能の維持・改善を図るためには「食べる」ための口腔機能を維持・改善することが必然です。口の清潔を保ち、虫歯や歯周病を予防して噛む力を保つこと、味覚の質や唾液の分泌量の低下を予防し、食欲や食事量を保つことは、十分な栄養を摂取でき、サルコペニアの要因でもある低栄養を予防することにつながります2)。歯磨きを丁寧に行い、舌の汚れも取り除くようにしましょう。入れ歯を使用している方は、口に合わないと入れ歯を外しがちとなり、食べられる食材・食品も限られてしまいます。しっかりと調整を行い、口に合ったものを使用することで食べられる食材や食事量も増え、栄養バランスの改善も期待できます。入れ歯のお手入れが行き届いていないと、細菌やカビが入れ歯を装着した際に肺へと入り、肺炎を起こすこともあるため、きれいに洗い、清潔に保ちましょう。また、デリケートで壊れやすいもののため、保管の仕方にも注意して丁寧に扱いましょう。よく話すこと、歌を歌うことは口の動きや発声に関わる筋肉を動かし、飲み込む力を維持することにつながります。三三七拍子に乗せて「パタカラ」手拍子に合わせて「パパパ、パパパ、パパパパパパパ」「タタタ、タタタ…」。だんだんテンポを速くしていく。大きく口を開けて「ア・イ・ウ・エ・オ」や、「パ・タ・カ・ラ」と発声することで唇や舌、咽頭の機能など飲み込みに関わる筋肉を働かすことができます。誰かと会話することや歌うことは、口腔機能の維持・改善だけではなく、コミュニケーションの手段となり、精神的なケアや社会性、活動性を促す側面も持ち合わせています。他人と会話し、交流することで気分が晴れ、活気を取り戻すこともあります。歌うことでストレスの発散となり、気持ちが穏やかになることもあります。社会とのつながりを持ち、役割や趣味を持つことで活動的となることもあります。口腔機能の向上によって栄養面の改善を行い、体力・筋力・身体機能の維持と、会話や歌うことを積極的に行うことで活動性、社会性の向上を図り、閉じこもりやうつなどから起こる心身の機能低下を予防しましょう。2、下肢筋力の維持・向上サルコペニアでみられる筋力低下は、高齢者が要介護状態となる主な原因ともなります。平成25年厚生労働省の国民生活基礎調査によると、骨折・転倒は、要支援・要介護が必要となった原因の上位3位に入ります。要支援者となった原因の第1位は関節疾患(20.7%)、第2位は高齢による衰弱(15.4%)、第3位が骨折・転倒(14.6%)となっています。要支援者の中でも、要支援1では、骨折・転倒が原因となった割合は第3位(11.3%)、要支援2では、第2位(17.6%)となっています。要介護者のうち、要介護4でも、骨折・転倒は第3位(14.0%)となっています。要介護度別にみた介護が必要となった主な原因(上位3位)平成25年(単位:%)総数脳血管疾患(脳卒中) 18.5 認知症 15.8 高齢による衰弱 13.4 要介護度要支援者関節疾患 20.7 高齢による衰弱 15.4 骨折・転倒 14.6 要支援1関節疾患 23.5 高齢による衰弱 17.3 骨折・転倒 11.3 要支援2関節疾患 18.2 骨折・転倒 17.6 脳血管疾患(脳卒中) 14.1 要介護者脳血管疾患(脳卒中) 21.7 認知症 21.4 高齢による衰弱 12.6 要介護1認知症 22.6 高齢による衰弱 16.1 脳血管疾患(脳卒中) 13.9 要介護2認知症 19.2 脳血管疾患(脳卒中) 18.9 高齢による衰弱 13.8 要介護3認知症 24.8 脳血管疾患(脳卒中) 23.5 高齢による衰弱 10.2 要介護4脳血管疾患(脳卒中) 30.9 認知症 17.3 骨折・転倒 14.0 要介護5脳血管疾患(脳卒中) 34.5 認知症 23.7 高齢による衰弱 8.7 特に筋力低下は下肢の筋肉に起こりやすく、太腿の筋肉、ふくらはぎの筋肉の筋力低下がみられるので、太腿、ふくらはぎの筋肉を鍛える体操を行いましょう。太腿の筋力低下に対して効果的な体操1.肩幅に足を開いて椅子に座り、両手を前ならえの状態に前方に突き出します。2.ゆっくりと「1.2.3.4.5」と数えながら、反動をつけずに立ち上がります。3.立ち上がったら今度は「1.2.3.4.5」とゆっくり数えながら、どんとお尻をつけてしまわないように、ブレーキをかけながら座ります。4.ゆっくり立ち上がる、ゆっくり座る動作を1回として連続で10回繰り返します。1回3セットを朝・昼・晩と行いましょう。【ネコポス対応】興和新薬 リビメックスコーワ クリーム 10g /【指定第2類医薬品】ふくらはぎの筋肉の筋力低下に対して効果的な体操1.椅子の背や壁、机などに両手を軽く添えます。2.両足でつま先立ちになります。3.ゆっくり両脚の踵を下ろします。4.つま先立ちになって、踵を下ろす動作を1回として、連続で20回繰り返します。1回2セットを朝・昼・晩と行いましょう。その他、「四つ這いになって右手と左足をあげ、10秒間静止し、次に左手、右足をあげて10秒間静止する」などのバランス訓練や、「大股で歩く、早足で歩く、後ろ向きに歩く」などの応用歩行などのトレーニングが転倒予防には効果的です。【やり方】1.後ろ向きに10~15歩歩く2.向きを変えて元の位置まで後ろ向きで同じように歩く簡単すぎて拍子抜けしたかもしれませんね。ただ後ろ向きに歩くだけですが、足の裏の筋肉や機能を高めるには最適な体操です。歩くのがつらい、後ろが見えなくてこわい場合は壁や手すりなどにつかまりながら行ってください。後ろに歩くと、かかとからではなくつま先から接地することになります。すると、通常歩行よりも1ステッブの動作が終了するまでの時間が長くなり、衝撃力が下がります。これは高い台から飛び降りるときに、ウレタンマットを設置することで着地が終了するまでの時間が長くなることと同じです。ヒザが痛い場合でも、その場で跛行(疾患などにより血常な歩行ができない状態)がなくなり、筋力をいい段階から回復させられます。知っておくと安心な「救急箱」のような体操でもあります。 また、慣れない動きをしていることもあり、自然と足の動きに意識的になり、つま先→かかとへの体重移動がていねいにゆっくりと行われます。すると、足の裏の機能を取り戻すことができるのです。足の指には手と同じようにたくさんの感覚受容器が備わっているので、足の指やつま先の筋肉など、普段使われていない部分を刺激することによって脳の活性化にもつながります。 屋外だと障害物が多かったりするので、まずは家の中で行ってみましょう。歩くリズムかだんだん速くなってきたら、筋力が上がっている証拠です。たったこれだけのことなのですが、その後、普通に歩いてもらうと、今までよりヒザの痛みがラクに感じられると思います。最初は怖くておそるおそるしか歩けなかったけれど、何度か歩いてみると意外と楽しいはずです。実際に徐々に歩くスピードもアップしていきます。 前向きで歩いていては分からないことですが、後ろ向きで歩くことによって体の歪みを発見することができます。 身体に歪みがあると、左右どちらかに曲がってしまいます。 例え曲がってしまっても構いません。何回か繰り返しやってみて下さい。不思議な事に、1回目よりも2回目、2回目よりも3回目と、回数を重ねるとまっすぐに近くなってきます。これこそ眠っていた筋肉が動き始める瞬間です! 足腰を鍛え、体のバランスを整えることが内臓も鍛えることになるので、ぜひ「後ろ歩き」を実践してみてくださいね。にほんブログ村←ポチッとお願いね。